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分からないところを聞いたり、逆に聞かれたり、乾汁効果なのか勉強嫌い組もそこそこ真面目に勉強をして、その後に軽く打ち合いをしてからの帰宅中。
自転車を押しながら歩く桃が、あのぉ、と少し不安そうに口を開いた。


「放課後はいいっつーか、むしろありがたいんスけど…流石に土日も集まるなんてことは無いッスよね…?」
「桃がそこまで勉強したいのなら、集まろうか?」


フフ、と笑いながら言う貞治に、桃は引き攣らせた顔をちぎれんばかりに左右に振った。
すごく嫌そうだ。


「いやっ!?大丈夫です間に合ってます!!」
「僕は別に構わないけどね。集まればテニスも出来るだろうし」
「そ、それはそうッスけど…」


本来なら部活がある土曜日も、今週はテスト期間のためお休みだ。
私は休日は基本家にいるだけだし、皆が大丈夫なら集まるのもありだと思う。
けど、今週は…


『私は日曜はちょっと用事があるから行けないけど、土曜日なら大丈夫だよ』
「まっ…集まる流れにしてます…!?」
『皆といるの楽しいしね』
「それはっ…そうなんスけど…!!」
「名前、どっか行くの?日曜日」


英二の問いに、ちょっとね、と言いかけた声を飲み込んだ。
今なら全員いるし、流石にそろそろ話しておかないと…だよな…


『んーと…立海の丸井くんとジャッカルくん、知ってる?』


私の口から出た、"立海"というワードに彼らは思っていた通りの反応を返し、苦笑した私にちらりと国光から視線が届いた。
ふむ、と貞治が自身の顎に手を当て、


「立海大付属中の丸井ブン太、そしてジャッカル桑原と言えば、ダブルスのペアだね。大会を互いに勝ち進めば恐らく、大石菊丸と当たる可能性が非常に高いだろう」


まぁ、流石に貞治は知ってるだろうな…


「その2人がどうかした…?」


秀からの不安そうな声に薄ら笑みを返し、実は友達で…と言えば、彼らは驚きの表情を更に濃い物へと変えた。


「とっ、友達!?」
『ていうか立海のレギュラー全員と友達というか…』
「それは…予想外だったな…」


貞治でさえ足を止め、ぽかんとこちらを見つめる皆の横にはただ一人、平然としている国光がいる。


「まだ言ってなかったのか」
『タイミングが無くて…』


難しそうな顔をする国光に、ははは、と乾いた笑みが漏れた。
もうこの際だから彼らのことも言ってしまおう…


『あと実は氷帝のレギュラー何人かとも友達?でして…』


追い打ちとも言えるその言葉で静かになった空気の中、周助が小首を傾げて国光の方を見た。


「手塚は知ってたの?」
「…どちらも、直接本人から聞いていた」


国光の言葉に続けるように、去年祖母のお見舞いに行った際に精市に会ったこと、精市繋がりで年始にその他の立海レギュラー陣と知り合ったこと、そしてバレンタインの前日の買い物の際に氷帝レギュラーであるあの4人に会ったことをやっと皆に伝えた。
一応国光にはもっと詳しく伝えてあるんだけど、と言葉を濁せば、はぇー…とか、ふむ…とか、感嘆詞ばかりが聞こえてくる。
ほんとに、タイミングなんてものは言い訳でしかないだろう。


『言い出す時が無くて…ごめん…』
「驚きはしたけど…でも、ライバル校のレギュラーと友達なんて、それこそタイミングがないと中々言うのは難しいよ。話してくれてありがとう」
『う…』


その優しい言葉が胸に刺さる思いである。


「友達なら僕らがとやかく言えるものでもないし、手塚だって名前に何も言ってないんだよね?」


そうにこりと周助に尋ねられた国光は、一度私に視線を移してすぐに周助へと視線を戻した。


「俺は名前から詳しく話を聞いた上で、心配は無いと判断した」
「なら、いいんじゃないかな」


いつもの様に笑みを纏い、同意を求めるように皆を振り返った周助に、貞治がかちゃりと眼鏡を押し上げた。


「そうだな。名前がわざわざうちの部内のことを話すとは思えないし、その点に関しては俺も名前を信用しているよ」
『話してないよ…!国光にも言ったけど、不安なら皆とのメッセージのやり取りだって今ここで全部見せてもいい』
「えっ…」


手塚、キミは見たのか…?と不安げな秀に聞かれ、国光は否定の言葉と共に首を振った。


「いくら見せると言われても、友人同士のやり取りをそう簡単に覗くものではないだろう」
「そ、そうだよね…良かった…」
「…俺が見たと思ったのか」
「い、いや…!そうじゃないけど…!」


ばっと広げた両掌を国光に振りながら、慌てたように秀が言う。
私は全然見せてもいいんだけど、まぁ、相手の彼らが良くないとは思うのでそういう判断をしてくれるのは正直助かる。


『…まぁ…そんなこんなで、日曜日はさっき言った2人と会う約束があってね…』


むぅ、と頬をふくらませたのは英二だ。
流石に、黙ってたなんて酷い!くらいは言われてもおかしくはないだろうな…


「俺まだ休みの日に名前と遊んだことないのに!ずるい!」


はい?と、自分でも変な声が出たのが分かった。


「え、英二…」
「だってそうじゃん!俺の方が先に名前と友達だったのにさ!」


膨れ面で詰め寄ってきた英二は、私の両肩をがしりと掴み、そのくりくりとした丸い目をきゅっと釣り上げた。
英二の方が少し背が高いが、顎を引いているせいで下から睨み上げられているような状態だ。


「今度俺とも遊んでね!?絶対だよ!?」
『え、あ、はい…!!』


考えるよりも先に口を開いた私の言葉に、英二は満足そうに頷いた。
英二によると、どうやら皆で行った初詣は"行事"だから、と、"遊び"にはカウントしないらしい。
それでも部活がない日の帰りがけに寄り道だって沢山したし、と言えども、そもそも休日じゃないからノーカンとのこと。


『でも確かに、言われてみれば休みの日に遊んだことないかも…』
「でしょー!?」


彼らとは普段から良く一緒にいすぎて、普通に遊んだことがあるつもりでいたけれど、全然そんなことなかった。


「だからさっ、今度遊ぼ!しょーがないから今回は立海の奴らに譲ってあげる!」
「英二、僕も参加させてもらってもいいかな?」
「もちもち〜!皆で遊ぼーよ!」


英二から話を振られた秀や、他の皆も是非と頷き、歩みを進めた私達の会話は、いつ遊ぶかという思わぬ方向へと転がっていったのだった。


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