26


「ふぃ〜!食った食った!」
「もう腹いっぱいッス!」


ぽんぽんとお腹を叩きながら満足気な表情を浮かべるブン太と赤也に続いて店を出た。
私も甘味は好きな方ではあるけれど、流石にこの二人は食べ過ぎというか、良くそんなに入るなと呆れを通り越して尊敬してしまう。


「ほんとはこの後運動がてらテニスでもしてぇとこだけど、生憎、幸村君から止められちまってるからなぁ」


私が他校のマネージャーであることから、精市に止められてしまった打ち合い。
正しい判断ではあるが、彼らと打ち合いをしたいと思っているのは確かだ。
あれだけ食べておいてすぐテニスとなると、考えただけでも胃がぐるぐるしてくるけど。


「立海の皆とも、いつか打ち合いしたいなぁ」
「俺らだってお前と打ち合いしてぇよ」


少し拗ねたようにブン太が言い、ほんとッスよね!と赤也もそれに似たような顔で言った。


「いーよなぁ青学は…」
「羨ましいッス…」


なんとなく思っていたけど、ブン太と赤也はやり取りが兄弟のようで微笑ましい。


「…名前ってよ」
「ん?」


いや、やっぱなんでもねぇ、と視線を逸らしたブン太。
なんとなく、その言葉の続きが分かったような気がした。


「なんでマネージャーになったか?」


そう聞けば、びくりと肩を震わせたブン太が勢いよくこちらを振り向いた。
どうやら当たっていたようだ。


「な、なんで分かったんだよぃ…」
「なんとなくだよ」


精市以外にはまだ伝えていなかった、私が青学のマネージャーになった理由、というか経緯。


「別に隠しておきたいことでもないし、知りたかったら全然話すけど」


そう言えば、少し遠慮がちにも彼らから聞きたいという返事が返ってきた。

立ち話もあれだし、と近場の公園に案内して、屋根付きのテーブルベンチに並んだ。
マネージャーになった経緯を話すのなら、その前の話もした方がいいかと聞けば、やはり控えめにではあるが話してくれるならと返答があった。


「先に言っとくけど、思い出話だと思って軽く聞いてね」


そう前置きをして、彼らに精市に話したのと同じように、私の過去、そしてマネージャーになった経緯を話した。

結論から言えば、彼らの反応はあの時の精市と全く同じだった。
とは言っても、都度言葉を返し会話のようになっていた精市とは違い、彼らはほぼ表情を変えるだけの反応だったが、それでも彼らの思っていることは分かりやすくこちらにも伝わってきていた。


「…だから、名前さんは青学に通ってたんスね」
「テニスのことを考えないでいられるように、ってね。結局マネージャーになって、テニスもしてるんだけど」
「でも、後悔はしとらんじゃろ?」
「ふふ、そうだね」


今なら胸を張って言える、青学に入ってよかった、という想い。
立海にいて欲しかった…と嘆く彼らの前では少し言い辛くもあって言わなかったけど。
だけど、こうして立海の皆と出会って、話をして、思うことは、


「…もし私が立海に通ってても、きっと皆が私をまたコートに戻してくれてたんだろうなって思う」


立海の人達は私や父のことを知っている人が多いから、青学以上にテニス部の人達を避けるように生活はしていたと思うけど…
でもたぶん、彼らはそれでも私の背中を押し続けてくれるような気がする。
そしてあの日国光に過去の話をした時のように、ふとした時に彼らにも自然と過去の話をする自分がいるような気がした。


「当たり前だろぃ?あんなに楽しそうにテニスをしてたお前が、テニスから離れてんのなんて見た日には…俺だったらまず話を聞きに行く!」
「当時の私がそう簡単に話すかなぁ…」
「んなの、話してもらえるまで聞きに行きゃいいだけだろ」
「おぉ…結構グイグイ来るんですね…?」


今だから思えることかもしれないが、その熱量にいつか負ける日がくるのかもしれないと思ったのは内緒。


「でもそれって名前からしたら傷抉りに来てるようなもんだろ…嫌われるぞお前」
「うっ!?」


凄い勢いでこちらを見たブン太に思わず苦笑した。


「いや、嫌うまではいかないと思うけど…苦手意識は持ちそうかも」
「ま、待った!さっきのナシ…!!」
「ふふ。でもね、たぶんそのうち私からブン太に質問すると思うんだよね」


なんでそんなに私に執着するの?


「返答次第では色々話しちゃうかも」
「そりゃあ…色々気になるってのもあるけどよ…」


考える素振りを見せたブン太は、伏し目からちらりと私を見て、選ぶように言葉を紡いだ。


「たぶんだけどお前…そん時は、ちゃんと笑ってねぇ気がすんだよな」


その言葉には少し驚かされた。
そう言えばあの日はおばあちゃんにも、嬉しそうな顔を久しぶりに見た、って言われたっけなぁ。


「今の名前を知ってるから言えんのかもしれねぇけどよ…本当はお前、テニスがしたいんじゃねーの?って……言ったら、それはそれで嫌われそうだな…」


ふふふふっ、と私の笑う声に、4人が不思議そうな顔を向けた。
恐らく最初は突き放すとは思う、けど、それでも尚ブン太が真っ直ぐに私と向き合ってくれようとしたのなら…
きっと彼なら、いや、他の皆もだけど、そうしてくれるような気がする。


「それは、近いうちに話しちゃうかもなぁ」
「え!?」


くく、と雅治が笑った。


「この会話、参謀が聞きたがりそうじゃな」
「だ、ダメッスよ仁王先輩!内緒なんスから…!」
「つーかお前の話って俺らだけが知ってんのか?幸村にも話したか?」
「うん、精市も知ってるよ。今は精市と、ここの4人だけ」


彼らにも話した手前、いつかは他の立海メンバーにも話しておきたいが、なんせ内容が内容なだけにタイミングがないとなんとも話しづらい所ではある。


「機会があればそのうち他の皆にも話すよ。皆も気にはなってるとは思うし」
「じゃあそん時までは俺らだけの秘密ってことッスね!」


別に話してもいいよ?と笑えば、赤也が少し顔を引き攣らせて両手をぶんぶんと振った。



* * *



「んじゃまたな、名前!」
「楽しかったぜ」
「うん、私も楽しかったし美味しかった!誘ってくれてありがとね」
「また遊びましょ!名前さん!」
「そん時は俺も行くぜよ」
「勿論!また遊ぼ」


昼間集合した駅の改札前で、4人に手を振った。
楽しかった時間が終わると共に、現実が押し寄せてくる。
ほんの少しの悪戯心で、改札を抜け、歩いていく彼らに声をかけた。


「テスト頑張ろうね〜」


ギクリと肩を揺らしたブン太と赤也に笑い、揃ってこちらを振り返る4人にまた笑い、再度大きく手を振った。


back