次の日、そしてそのまた次の日、と時は進み、先程全てのテスト返却が終わった。
たぶん他のクラスも今日で終わるだろうから、順位が貼り出されるのは明日だろう。

現国はなんとなく予想はしていたが、やはり点数の高い問題を落としたのが響いて91点。
本来は90点のはずなのだが、言いたいことは分かる!と赤ペンで書かれた横に三角で囲まれた1という数字…たぶん先生が情けで1点くれたのだろう。
現国の先生は普段は厳しいけど、生徒のことを理解しようとしっかり向き合ってくれるこういう所が好きだ。
90点と91点は気持ち的に大分違うし、その1点が嬉しいですありがとう先生…

物理・化学は元々好きだったし、貞治から細かいところを丁寧に教えて貰えただけあって、嬉しいことに満点だった。
国光の点数は昨日聞いていたから、これは私の勝ちだ。
地理は不安ながらになんとか持ちこたえて94点、生物・地学のテストは98点と数学同様これまた惜しい結果となった。

気になる合計点は、800満点中769点。
ここにきて数学のケアレスミスが悔やまれる。
あれさえ無ければ770点超えてたのに…
でも、我ながら中々の点数になったのでは、と思う。
今までは英語以外の文系教科が何かしら足を引っ張っていたから、今回の全教科90点超えは初めてでかなり嬉しい。

放課後になって教室を出れば、廊下には貞治がいて、


「どうだった?」
『769点』


ふむ、と顎を引いた貞治は、完敗だな、と眉を下げた。


『そこまで?だって貞治も結構いい点数取ってたじゃん』
「計算が絡んでくる問題はね。それでも以前よりは点数が上がったんだが…やはり名前には勝てなかったか」
『総合点で私に勝てる確率〜とかも考えてたの?』


23%くらい、と貞治が笑う。


『おぉ…貞治にしては珍しく低い数字が出たな…』
「それも、計算上でなんとか叩き出した数字だからね。名前が俺の予測以上の努力をしたということだね」


仲間に頑張りを認めて貰えるのは素直に嬉しいことだ。
へへ、と照れ笑いが口から零れた。


『今回は目標もちゃんとあったからね〜』
「へぇ?達成出来た?」
『明日にならないと分かんないかな』


その言葉で何かを察したのであろう貞治が、なるほど、と口端を上げた。


「結果が楽しみだね」
『お互いね』



* * *



迎えた次の日。
朝練を終えて昇降口で後輩組と別れた私達は、誰も自身のクラスに入ることなく真っ直ぐ廊下を進んだ。
目当ての場所には既に小規模な人だかりが出来ていて、彼らが囲んで見ているのは壁に貼り出された学年末テストの順位表。
大きなテストの後に決まって貼り出されるこの順位表には、学年上位50名までの名前が記載されている。


「男テニ来たよっ…!」
「あぁ…手塚君に名前様…今日もかっこい〜…」
「ちょ、ほら、どいてどいてっ!」


まるでモーゼの十戒のようにがばりと開けたそこに、申し訳なさと共にじわじわと笑えてくる。
そんな大層な立場じゃないのに…とは思いつつも、折角空けてくれたスペースにお礼を言って入り込み順位表を見上げた。
自然と頬が上がり、降ろしていた右手がクッと小さな握り拳を作った。


「うひゃ〜…2人共さっすがぁ〜……あ!大石も名前載ってんじゃん!」
「2人ほどじゃあないけどね…あとほら、乾と不二も載ってるよ」
「載ってないの俺とタカさんだけ!?」
「うっ…来年は勉強も頑張んなきゃな…」


わいわい盛り上がる彼らの声を聞きながら、隣に立つ国光に視線を移した。


『目標達成した』
「そうだな、おめでとう」
『国光も1位おめでとう』
「…来年はうかうかしていられないな」
『んふふ、すぐ追い越してやる』
「いや、越えさせない」


…あれ?こんなやりとり、前にもどこかで…


"…っ、ぶねー…うかうかしてらんねーなぁこりゃ"


頭の中に聞こえてくるその声は、


"すぐ追い越してやるもんねーだ!"
"ハッ、越えさせねぇよ〜だ、バーカ"


『…リョーガ…?』
「?すまない、よく聞こえなかった」
『っえ、…あ、いや…』


まさか、国光とはまるで正反対の彼が重なって見えたなんて。


「…なんだ?俺の顔に何か付いてるか?」
『……全く似てないよなぁ…』
「良く分からないが、そうか」
『あっごめんなんでもない…!』


とにかく、と話を来年の目標のことへと戻せば、来年が楽しみだな、と国光が微かに笑った。




「…うっそぉ…あの手塚が笑ってる…」
「ここ最近じゃあそんなに珍しくもないよ。ね、乾」
「あぁ。彼女と話している時は、奴の口元、そして頬が普段よりも僅かに動いているのを何度か確認済みだ」
「ま、まぁ…手塚が名前ちゃんを心配して気にかけてるのは確かだからね」
「…本当にそれだけかな?」
「えっ?」
「いや、この話は別でしよう。あの2人が居ない時にでもね」


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