あの後教室に入った途端沢山の女子に囲まれ、これでもかという程に賞賛の言葉を貰った。
嬉しいし有難いけど表情に困るから正直辞めて欲しい、めちゃくちゃ恥ずかしい。
昼休みになって、最近やっと落ち着いてきたのにまた復活してしまった好奇の目から逃げるように、足早に屋上へ向かった。


「…ふむ、どうやら追試はいないみたいだね」


ご飯を食べながらの皆のテスト結果報告を受け、残念、と貞治が本当に残念そうに赤黒い液体が入ったペットボトルをバッグに戻した。
今日の犠牲者は0人で済んで本当に良かったと思います。


「2人共、やれば出来るじゃないか」
「やれば出来るのに何故やらないんだ」
「だ、だって勉強ってつまんないじゃないっスかぁ…!ずーっと机に向かってるってのを考えただけで体がムズムズするんスもん!」
「そーそー!同じ時間ならテニスしてた方が疲れないもんね!」


意気投合する桃と英二に、国光と秀がため息をついた。


「なら、次のテストからはF・ティーのオマケ付きにしようか」
「ふふっ、いいんじゃない?」
「「それは勘弁…!!」」


わいわいと騒ぐ彼らの声に混ざる、名前先輩、という小さな呼びかけに振り向けば、隣にいた薫がぺこりと頭を下げた。
校内ではバンダナをしていないから、さらりと彼の髪が揺れて光に反射する。


「勉強、教えてくれてありがとうございました」


そうか、いつもちょっと離れた所にいる薫だったけど、今日はお礼を言うためにわざわざ近くに座ってくれていたんだ。


「全然。成果が出たなら何よりだよ」
「100番以内、入れました」


おぉ、順位が3桁から2桁になるだけで心持ちは相当変わってくるはずだ。
彼は根が真面目だし、努力家だし、私を含む先輩メンバーに教えてもらったこともあって半端なことは出来ないと頑張ったのだろう。


「頑張ったね!今日はちゃんと自分を褒めてあげるんだよ〜」
「自分を……考えたことも無かったです」
「私にありがとうって言ってくれたの以上に、過去の自分にも頑張ってくれてありがとうって。よくやった!ってね」


ぽん、と肩を叩きながら言えば、すぐに難しそうな顔が返ってくる。


「沢山褒めたら、次は75番以内、その次は50番以内を目指せ!ってまた自分に課題を出したらいいと思うよ。勉強だけじゃなくて、テニスも同じだからね」
「!…ッス、やってみます」


真面目な顔で頭を下げ、素直にアドバイスを受け取る薫に小さく笑った。
彼が自身を褒めている姿は全く想像が出来ない。
ストイックな薫だからこそ、ある意味これも課題なのかもしれないと内心思った。


「そう言えば、名前」


英二達とわいわいしていた貞治が、ふと私に言う。


「ん?」
「目標は達成した?」


あぁそうか、貞治には昨日話したんだっけ。


「うん、バッチリ」
「ほう?それは良かった」


目標?と英二達が揃って私と貞治を見た。


「詳しくは聞いてないんだけど、今回のテスト、名前には目標があったみたいでね」
「へぇ?なんだったの?」


ふふ、と笑ってから、秀と何やら話しながらお弁当を食べていた国光へ視線を移せば、皆の視線も自然と国光へ移る。
一斉に注目の的となった国光が、食べにくそうに箸を止めた。


「…なんだ?」
「名前ちゃんのテストの目標の話だよ。手塚にも関係があるみたいなんだけど…」
「あぁ、あれか」
「ん?名前ちゃんの目標?」


タカさんの言葉を聞いた秀が、タカさんから国光へ、そして私へと視線を移して首を傾げた。


「んふふ、国光の1つ下に名前を載せることだよ」


なるほどね、と貞治が笑う。


「てっきり打倒手塚だと思っていたから、目標達成したと聞いた時はまた別の何かかと思ったよ」
「それは来年の目標。もう宣戦布告済み」


へぇ、と何人かが国光を見て、彼はかちゃりと眼鏡を押し上げた。


「臨むところだ」
「おぉ、気合いが入るなぁその言葉」


と、英二がにやりと笑って桃の肩に腕を回した。


「桃もさ、打倒海堂って目標立てたら〜?」
「なっ!?」
「あははっ、いいんじゃない?今回2人共頑張ったけど、薫の勝ちだったもんね?」
「うぐっ!?」


ひくひくとこめかみを震わせながら桃が薫を見れば、薫はそんな桃にふんと鼻で笑う。


「テメーには負けねぇよ」
「くっそぉおおお!次は覚えとけよ海堂テメェ!!」
「それ負けるヤツのセリフじゃん…」


菊丸、と国光が呼び、英二はにゃに〜?と明るく国光を振り返った。


「その言葉、お前にも言えるぞ」


今度は英二がうぐっと言葉を詰まらせた。


「お、俺はいーの…!」
「はは、俺でよければ相手になるよ、英二」
「いきなり大石に勝てるわけないだろー!?」


俺で良ければ…と苦笑しながら言うタカさんにも、勝てるかぁー!と声を張り上げ、暫く笑い声と共に平和な時間が過ぎていったのだった。



* * *



「…あ、そうだ」


暫くのほほんと過ごした後、思い出したように言う私にその場が一瞬静かになった。
そんな中、私はラケットバッグを左肩に背負って立ち上がり、


「竜崎先生に呼ばれてるんだけどさ」
「何かあったのか?」
「ボールを新調するの。ほぼ全部」


少し前の部活の時、そろそろボールを変えた方がいいなと思って竜崎先生に相談したところ、新しいものを用意しておくと言ってくれた。
そして昨日廊下でたまたまばったり会った竜崎先生から、明日の昼休みにご飯を食べ終わったら来て欲しいと言われたのだ。
今はテストが終わったばかりで先生達も忙しいようで、すまないが放課後は顔を出せないから昼休みのうちにボール缶を取りに来てくれ、とのことだ。


「ボールを全部、って結構な量じゃない?」
「そー。だから竜崎先生が、あと一人くらい連れて来なって。てことでお手伝い募集〜」
「なら、俺が行こう」


そう言ってすぐに立ち上がったのは国光だった。
国光か秀かタカさん辺りがすぐに反応してくれるだろう、と密かに思っていた私の予想は大当たりだ。


「助かる、ありがとー」
「行くぞ」
「ん。じゃあ皆、また放課後にね〜」


手を振る彼らに見送られながら、私と国光は屋上を後にした。


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