お疲れ様でした!とコートに声が反響する。
今日の部活も誰一人怪我することなく無事に終わって何よりだ。
本日の片付け当番である1年生達と共にコート整備をする名前ちゃんは、作業をしながら彼らと楽しそうに何か話している。
そんな彼女にいつも通り心の中でお疲れ様とありがとうを伝え、俺達は先に部室へと戻った。

本来片付けは毎年1、2年生がローテーションを組んでこなしている仕事だった。
ただ、3年の先輩が抜ける秋からは、人数次第ではあるが基本的に1年生だけの片付けへと移行していく。
だからそもそも2年生であり、研修期間の時から俺達が求める以上の仕事をしてくれていた名前ちゃんには勿論やらなくていいと伝えてあったのに、業務を覚え始めて早々に私もやると言い出したのだ。

手塚が理由を聞いた時彼女は、皆と早く仲良くなりたいから、と答えた。
元々テニスの知識も力量も十分にあった彼女は、主に2年やレギュラー相手の業務が多かった。
だから、普段あまり関われない1年生との繋がりが欲しいのだと。
そう言われてしまえば断れるはずもなく、それから彼女は週に2日程、ローテーションする1年生に混ざってああして片付けを共にしている。
それならと俺達2年もローテーションに戻ろうとしたのだが、そこは名前ちゃんから、私が勝手にやるだけだから皆は継いできた流れはそのままにして、と断られてしまった。

本当は片付けも部活だから黙々と素早くという暗黙のルールがあったのだが、会話をしながらも部員達を上手く動かしてテキパキと作業を終わらせる名前ちゃんに、手塚はこれまで何かを言ったことは一度も無い。
だから俺達も何も言うことなく、ただただ感謝を込めて彼女を見守っていた。

最後の数人が部室を出ていき、部室にはいつものメンバーだけが残った。
これから始まるであろう話し合いを知っている手塚以外の面々が、どことなくそわそわとしているのが見て分かる。
ちょっといいかな、と最初に話を始めたのはやっぱり不二だ。


「もうすぐホワイトデーじゃない?お返しはいらないとは言われたけど、やっぱり名前に何か贈りたいと思ってね」
「えっ、不二も!?俺もそう思ってたんだよにゃ〜!」


少し声が上擦っているものの、英二が上手く話を繋げていき、更に桃とタカさんもそれに同調した。


「奇遇だな。俺もその話をしようとした」
「やはり手塚も考えていたか」
「あぁ。昨日大石とは少し話をしたんだが」


全員の視線が俺に向き、ドキリと胸が鳴る。
大丈夫、大丈夫、落ち着け俺…!


「そ、そうなんだ。実は俺も名前ちゃんにお返しをしたいと思ってて…でも何をあげたらいいか悩んで手塚に相談したんだよ」


なるほどね、と不二が微笑んだ。


「何をあげるとかは決まった?」
「いや…それがまだで…」
「俺からは、部活や学校で使える物か日用品はどうかと提案した。ただ、大石も考えていたとなるとお前達も恐らく同じようなことを考えているだろうと思ってな。これだけの人数となると品被りも出そうだから、今日にでも聞こうという話になった」


手塚の言葉に繋げるように、そうなんだ、と不二へ頷いて見せれば、


「それなんだけどさ手塚、というか、皆かな」


不二があの秘密のグループで話していた、皆で一つの贈り物を、という話をし始めた。
良かった…なんとか自然に繋がったみたいだ。


「なるほど…確かに、それもいいかもしれない」
「でしょ?他の皆はどう?」


同意を求める不二に、皆も口々にいいと思う、と返していく。
にこりと笑った不二が、じゃあ決まりだね、と言い、ふと手塚の方を見た。


「ちなみに手塚はもう決めていたものとかあるの?」
「一応、考えていた物はいくつかあるが…」
「え、なになに!?」


英二に聞かれた手塚がいくつかの候補の品を挙げていく。
元々一人で用意しようと思って考えられていたそれらは、俺達で出し合えばそこそこ良い物が渡せそうだ。
手塚が候補品を言う度に皆が反応を返していく中で、何故か不二は一人考えるような仕草を見せた。


「うーん、でも手塚は元々個人的にあげようと思って決めてたんだよね?」
「?そうだが…」
「他に名前へのプレゼントの候補を考えてた人っている?」


不二の問いに、俺を含む全員がふるりと首を振った。


「ならさ、折角考えたんだし、手塚はその中から個人的にも名前に贈ったら?」


珍しく手塚が呆気にとられたような顔をした。


「皆で贈る物はさっきの候補以外の物にすれば被らないよね」


そう言って不二が手塚ににこりと笑う。
どうやら不二が天才と呼ばれるのはテニスだけではないようだ。
こうも自然と2人を近づけられるような事を思いつくなんて。


「いや、だが…」
「いーじゃんいーじゃん!だったら俺1個思いついたのある!」


英二らしい提案は、確かに名前ちゃんへのプレゼントとしては結構いい物かもしれない。
他にも色々な案を出しているうちに、コンコンとドアがノックされた。
どうやら片付けの1年生達が戻ってきたようだ。


「すぐに名前も着替えてくるだろうから、この話はまた後でしようか」


そしてその日の夜に、今度はホワイトデー作戦に向けてのグループが出来上がったのだった。


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