落ち着いた頃に皆から詳しい話を聞いた。
何日も前から皆で相談して決めてくれたらしいこのテディベアは、大元は英二の提案だったようだ。
英二の家に大きなテディベアがあることは知っていたから、なんとも英二らしいチョイスだと思った。
カラーはいくつか候補があったようだが、最終的な多数決で満場一致でこの色になったそう。

そしてトリコロールカラーのリボンはセンスのいい周助のアイデア。
そこに文字を書く提案をしたのが桃で、本当は寄せ書きのようにしたかったけどスペースが少なくて断念。
そこで貞治が大体1人1文字書ける文を考えてくれたらしい。
とするとこのビニールの袋は誰かが綺麗に再ラッピングしたもので、聞けばまさかの周助のお姉様がやってくれたとか。
部外にまで及ぶ大掛かりな準備にとても驚いた。


「最近バタバタしてたからホワイトデーのことなんて完全に忘れてた…ほんとにありがとう」
「喜んでもらえて安心したよ。お礼はいらないって言ってたからちょっと不安だったんだけど」


ホッとしたように笑う秀にぶんぶんと首を振った。


「んふふ…めちゃくちゃ嬉しい」


ただのお菓子が、世界にたった一つしかないこんなに素敵な物になって返ってくるとは思ってもいなかった。
テディベアを戻した紙袋を優しく抱きしめた。


「周助のお姉さんにもいつかお礼を言わなきゃ」


そう言えば周助はくすりと笑った。


「今回の件で姉さんに名前のことを話したんだけど、姉さん、名前に会いたがってたよ」
「へ、変なこと話してないよね…?」
「まさか。凄くテニスが上手で、優しくて、頑張り屋な女の子だよって」
「それはそれで、恥ずかしいんだけど…」


本当のことだよね、とタカさんが周助に笑いかけ、周助もすぐに頷いた。



* * *



部活がない日に皆で帰るのはなんだか新鮮な気分だ。
交差点や分かれ道に来る度に今日のお礼と一緒に手を振って、最後はいつも通り私と国光だけが残った。
今日も彼は当たり前のように交差点を通り過ぎ、私の家まで来てくれる。


「国光も、今日はありがとう。返ったら早速部屋に飾るね」


そう言って見送ろうと家に背を向けたが、国光は背を向けることなく黙って自身のラケットバッグを地面に降ろした。
なんだ…?と見ていれば、彼がそこから取り出したのは掌に乗る程の紙袋。
国光はそっと、それを私に差し出した。


「個人的な物なんだが…良かったら貰ってくれないか」
「え!?」


驚きに目を開けば、国光の口からはご丁寧にもその事情が語られた。
今回皆でプレゼントを贈ることが決まる前に、元々国光が私にと考えていた贈り物。
全員のプレゼントととしてその案を使ってもらおうとしたが、どうやらまだ何も決まっていなかった皆から、折角考えたんだから、と個人的に渡すことを提案されたらしい。


「う、嬉しいけど…でも、流石に貰いすぎだよ…!」
「そんなことは無い。日頃の感謝もある」
「……、ありがとう…」


受け取った紙袋は予想より少し重く、中には布製の袋が一つ。
角張っているから、恐らく何かの箱が入っているのだろうか。


「ちなみに中身って…?」
「出来れば、帰ってから開けてくれ。落とさないようにな」
「き、気を付けます」


落とすなということは割れ物か何かが入っているのだろうか。
ではまた明日、と今度こそ背を向けた国光に慌ててお礼を言って見送った。



* * *



「ただいまぁ」


玄関で靴を脱いでいると、奥からおばあちゃんがおかえりとやってくる。
彼女は私の両手を塞ぐ皆からのプレゼントと国光からのプレゼントを見て、あら、と一度目を丸くしてからふわりと微笑んだ。


「ホワイトデー?」
「お礼はいいよって言ったんだけど…」
「ふふ、随分大きいわね。良かったじゃない」
「そだね、めちゃくちゃ嬉しいや」


何貰ったの?と尋ねてくるおばあちゃんと一緒にリビングに向かい、貰ったプレゼントを机に置いた。


「そっちの大きいのが、部活のレギュラーの皆から」


紙袋を覗いたおばあちゃんが明るい声を上げた。
私に断ってそれを取り出したおばあちゃんは、可愛い、と笑う。


「"目指せ全国NO.1!"…ふふ、まるで名前ちゃんが応援されてるみたいね」
「ふは、確かに」


こっちは?と聞いてきたのは、国光から貰った物だ。


「それは…ほら、この前おばあちゃんも会った、うちの部長から」
「ああ、手塚さんね」
「うん」


ふふふ、と可愛らしく笑うおばあちゃんの前で布製の袋を取り出した。
空色のその袋のリボンをしゅるりと解き、中身を取り出せば、


「まぁ、マグカップじゃない。これも可愛いわねぇ」
「ほんとだ…」


だから落とすなって言ってたんだ…
箱には、手描きのような温かみのあるテニスラケットとテニスボールが中央に描かれた白いマグカップの写真。
ぱかりと開いた中には、やはりそれと同じものが入っていた。


「おぉ…」
「個人的にも贈ってくれるなんて、律儀な方ね」
「ほんとにね。なんかお菓子がここまでの物になるって申し訳ないけど」
「あら、贈り物は中身じゃないわ。気持ちが全てだもの。皆に贈りたいっていう名前ちゃんの気持ちと、皆から、手塚さんから名前ちゃんに贈りたいっていう気持ちはイコールなのよ」


むず痒いような暖かい気持ちで胸が一杯だ。


「…青学に入ってよかったなぁ」
「あらあら、北斗が聞いたらどんな顔するかしらねぇ」
「んふふ、今なら父さんの立海愛が分かる気がする」


だけど、ごめんね父さん。
来年私達はその立海にも勝って、必ず全国NO.1になるから。

ベッドの端、壁に背を預けるように座った青学テディベアに、私と、そして皆の想いを託して。


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