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こういう時は集中してしまおう、と、私用に作ってくれた棚から昨日の試合記録郡を引っ張り出して、なるべく細かく思い返しながら雑にメモされていたそれを改めて綺麗に書き直してていく。
清書された記録は私の棚から、部誌なんかも置いてある共用の棚の記録ファイルへと移され、ここ半年で数冊のファイルが棚を埋めていた。
「(正面からぶつかって決まったらかっこいいし やったー!なんだけど、わざとロブを打って自分の体制を整える時間稼ぎをするのも戦略の一つだよ、と…)」
文字を書く手をふと止め、棚の増えたファイルを振り返った。
最初は主に弾道とプレイヤーの動きの記録だけだったのだが、所々にアドバイスなんかも書き加えるようになってからは、今では皆が試合記録を見返してくれるようになった。
量も増えてきたし、見やすいようにそろそろ一度整理をした方がいいかもしれない。
今は大きくランキング戦と普段の部活での練習試合の2つに分けて、ただ日付順に並べてるだけだけど…
あと少ししたら新入生も入ってくるし、今のうちにそれぞれレギュラー同士のものと、そうじゃないものを更に細かく同学年試合、他学年試合のもので分けた方が自分の試合も見つけやすいだろう。
とすると、あと何冊かファイルを用意しないといけないかな…と、必要なファイルの数を指折り数えていると、ノックの音の少し後にかちゃりとドアが開いた。
「帰るぞ」
「ん、分かった」
閉じたファイルを私用の棚に戻そうと持ち上げたところで、あ、と思い立って国光の方を見れば、不思議そうな顔。
「持って帰っていい?」
ファイルを揺らした私に国光は僅かに眉を寄せたが、すぐに、いいだろう、と小さく言った。
我ながらずるいタイミングで言ったものだと思ったけど、何も言わずに許可を出してくれたのは彼の優しさ故なんだろう。
「あと今までの記録もちょっと整理しようと思って。もしかしたらもう少しファイルが必要かも」
「必要数が分かったら教えてくれ。それから、人手が必要だと少しでも感じたらすぐに誰かに声をかけろ」
「ふふ、分かったよ」
ファイル等をバッグにしまって国光の後に続いて部室を出れば、案の定そこにいたいつものメンバー。
変に心配されたらどうしよう、優しい彼らのことだから、気を使われそうだな…
重荷にならないようにしようって、思ったばかりなのに。
「ごめんごめん、お待たせ」
普段通りを装って皆の元へと合流すれば、
「ぜーんぜんっ!帰ろ〜!」
「、うん」
全くいつも通りの明るい英二の返事にほんの少し思考が途切れた。
「気づいたらいなくなってたからどうしたのかと思ったけど、手塚から頼まれ事をされてたんだってね」
「え」
「昨日のコート表の直しをして貰っていただけだ」
「そうなんだ、お疲れ様」
いや違くて、なんて言う隙間も無く、周助からにっこりと微笑まれて、あ、うん、と微妙な返事をしてしまった。
「そう言えば、名前」
「な、何?」
思い出したように言う貞治に身構えれば、彼も至って通常通りに言葉を紡ぐ。
「コート表で思い出した。そろそろ量も増えてきたし、もう少し細かく分けるのはどうかなと思ってね」
「あ…それ、私も思ってて…!帰りながら相談乗ってもらってもいい?」
「勿論。俺で良ければ」
いつも通りの帰り道の光景だ。
皆、まるでさっきのことが無かったかのように…して、くれているんだろうな…
あの時あの場にいた誰しもが聞いていたはずのやり取り。
一部始終を見聞きしていたはずなのに、そこだけ記憶から切り取られたかのように会話が続いていく。
皆優しいなぁと嬉しく思いながらも、心のどこかで生まれる申し訳なさに、きゅっと胸が締め付けられるような気がした。
* * *
次の日の朝練以降も、あの時の話題は誰一人として口から出すことなくいつも通りの日々が過ぎていく。
皆がそうしてくれていることは勿論分かっていて、それに対して感謝を伝えたい所ではあるが、折角の皆の好意だ。
今回は私もそのことに関しては口を閉ざしたままにさせてもらう事にした。
卒業式から数日後、本日の部活も終わり、女テニの部室へ向かえば何やら室内が明るい声に包まれている。
ノックをしてから中に入ると、あっ!と楽しそうな顔をする彼女達の視線が真っ直ぐに私に向けられた。
「お疲れ様、どしたの?」
「お疲れ様〜!ねぇねぇ名前ちゃん!」
「うん?」
くいくいと手を引っ張られ、彼女達の輪の中に入れば、
「名前ちゃんは、男テニで付き合うとしたら誰!?」
は?と声にならない声が出る。
ぽかんと彼女達を見る私には、先程よりも楽しそうでどこかそわそわした様子の目が向けられていて。
「やっぱ手塚君!?」
「えぇ!?菊丸君じゃない!?」
「でも不二君とだっていい絵になるよ!」
何がどうしてそんな話になったのか…
付き合うとしたら、って…
「そんなこと、考えたこともないな…」
ええー!?と彼女達の声が重なるが、そのうちの1人がすぐに苦笑した。
「まぁ、それもそうなのかな…だからこそ名前ちゃんがマネージャーやってるっていうか…」
「確かにねぇ。目移りしてたらマネージャーなんてやってる場合じゃないもんね」
「でもさ、もしだよ、もし!もしも付き合うとしたら、誰選ぶ?」
「えぇ…」
選ぶ、って…とは思いつつ、身を乗り出す彼女に最初は真面目に考えようとしたが、すぐに頭を振った。
「そもそも、私には勿体ないって。逆に皆はどうなの?」
ジャージを脱ぎながら言う私に、一段と声を高くさせた彼女達の口からはぽんぽんと彼らの名前が出る。
なんとか話を逸らすことには成功したようだが、聞いておいて彼女達の話は全く頭に入ってこなかった。
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