20


とりあえずジローくんは一旦置いといて、先に私の知らない3人の紹介をしてくれることに。
誰に言われる前にさっと前に進み出てくれたのは、さらりとした茶髪を揺らす超絶美人さん。


「初めまして、噂は聞いてるよ。俺は滝萩之介」
「滝さん、ですね。苗字名前です」


綺麗な顔に似合う優しい笑みと共に差し出してくれた手を握った。


「ふふ、敬語はいらないよ。同じ2年生だしね」
「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしく、滝くん」
「よろしくね、名前ちゃん」


続いて一歩前に出たのは、キリッとした目を持つ、立海の蓮二に似た髪型の男の子。
似た、といっても彼は金に近い茶髪だけど。


「日吉若です」


全く表情を変えずにそれだけ言ってぺこりと頭を下げる彼は、どことなくうちの薫を彷彿とさせる。
少し困ったような笑みを浮かべて、長太郎が補足してくれた。


「日吉は俺と同じ1年生なんです」
「なるほど。苗字名前です。名前でいいですよ。日吉くん、でいいですかね…?」
「ご自由にどうぞ。敬語も必要ありませんから」


日吉くんはそのままくるりと私に背を向けた。
あら、と思っていれば、芥川さんを起こしてきます、とベンチの方へ歩いて行ってしまう。


「す、すみません…!あいつ、誰にもあんな感じで…悪気があるわけじゃなくて、良い奴なんです…」
「大丈夫だよ、うちにも似たような子がいたから」


初めて会った頃の薫を見ているようでむしろ微笑ましい。
それに、起こしてくるというのはきっと私に挨拶をさせるためなんだろう、と、思いたい。
ほっとしたような顔をする長太郎は長太郎で、仲間思いでいい子だなぁ。
最後に、樺地、と景吾に呼ばれた大柄な男の子が、私の前にのそりと進み出た。


「氷帝学園、1年…樺地崇弘です」


ゆったりとした動作で頭を下げる樺地くんも表情は変わらないものの、日吉くんのような人と触れ合うのが苦手そうな雰囲気はそこまで感じない。
ていうかでかいな…これで1年生とは…


「樺地くん、ですね。苗字名前です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「敬語じゃなくていいだろ。なぁ、樺地」
「ウス」


うん?と景吾と樺地くんを見ていれば、改めて樺地くんが私に向き直り、


「敬語、いらないです」


言わされてない…?大丈夫…?


「本当に…?」
「はい」
「…じゃあ…よろしく、樺地くん」
「よろしく、お願いします」


氷帝は氷帝で、なんとも個性的なメンバーだ。
一人はまだ寝てるし…とベンチの方を見れば、ちょうど日吉くんが彼の頭をぺしりとはたいているのが見えた。



* * *



結局ジローくんは起きることなく、日吉くんも諦めてコートに戻ってきた。
改めて景吾から私を連れてきた主旨が説明されて、喜びと共に不安そうな戸惑いの顔がいくつかこちらを向く。


「お前、足大丈夫なのか…?」
「大丈夫だよ。さっき景吾にめちゃくちゃいいサポーターももらっちゃったしね」
「ならいいけどよ…無理はすんなよ」


代表して声をかけてくれたらしい亮にありがとうと返せば、くすくすと笑う声。


「名前ちゃん、跡部のこと名前で呼んでるの?」
「えっ、やっぱり跡部様の方がいい…?」
「おい滝、余計なこと言ってんじゃねぇ」


じろりと睨まれた滝くんは臆することなくくすくすと笑う。
なんか、周助っぽいかも。


「本人にいいって言われたならいいんじゃないかな?それより、俺のことも名前で呼んでくれると嬉しいな」


にこやかに言われ、うーん、と考えた。
滝…萩之介、だったよな。
萩之介…萩…


「萩くん?」
「うん、いいね」


満足そうに頷く萩くんにほっとしていれば、突然景吾に名前を呼ばれた。
アップするか?と聞かれたので、二人が来るまで家の庭で壁打ちをしていたことを伝えれば、ならそのままコートに入れ、とのこと。
いきなりですか。


「シングルスとダブルス、好きな方を選びな」
「ダブルスだとありがたいな。たくさん打ちたいし」
「いいぜ」


鳳!と景吾が長太郎を呼んだ。
驚いたように肩を揺らした長太郎が慌ててこちらに駆け寄ってくる。


「名前とコートに入れ」
「は、はいっ!」


おぉ、長太郎とペアか。
景吾が気を使ってくれたのだろうか、とりあえずはペアが知っている人で安心だ。
よろしくねと笑いかければ、彼は嬉しそうな、少し不安そうな笑顔を向けてくれた。


「足を引っ張らないように頑張りますね…!」
「そんなそんな、こっちのセリフだよ!」


長太郎は岳人と違ってがっつりネットプレイヤーじゃないから、どうやって動こうかな。
なるべく長太郎を生かしたゲームに出来たらいいんだけど、如何せんまだ長太郎のプレイスタイルをしっかり把握している訳でもない。


「相手の希望は?」


なんと、まさかの希望制。
それなら、と前回打ち合いが出来なかった侑士の名前を伝えた。


「少し期待はしとったけど、ホンマに選んでくれるとは思わんかったわ」
「前回見学にさせちゃったからね」


おおきに、と笑う侑士の横に岳人がぴょこりと並ぶ。


「なら、もう一人は俺だな!」
「まぁそうだよねぇ。よろしく」
「おう!なんだって全部返してやるぜ?」


他の皆は後ろで見ているのかと思いきや、まさかの全員がぞろぞろとコート横のベンチに集まった。
主審は景吾がやってくれるらしい。
敵陣に一人、こんなに囲まれて打ち合いをすることになるとは。


「名前さん!頑張りましょう!」
「そうだね。頼りにしてるよ、長太郎」
「はいっ!」


思ったより緊張を抱えつつ、ラケットを握りしめてコートへ入った。


back