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ゲームカウント0-1から続く私のサーブ。
ていうか今更だけど、皆私の昔の映像見てるってことはサーブも知られてるって事だよね?私は皆のサーブ知らないのに、ズルくない?
やっぱり景吾は私のサーブをあっさりと返してきた。
先程と同じように続くラリーの末、景吾にポイントを取られて現在のカウントは30-30。


「おい、アレはどうした?」
「"百錬自得"のこと?もう使わないよ」


前のゲームではアレを見せることで隙をついての逆転を狙うつもりだったが、流石と言うべきかそう上手くはいかなかった。
このゲームを取るにはここから2ポイント連取……景吾がそう簡単に取らせてくれるとは思えない。


「アーン?随分と舐められたもんだな」
「だっ…未完成なんだってば!」
「なら、ただそこを突くまでだぜ!」


打ってこい、と言わんばかりに景吾はまた膝の死角を狙ってくる。
あぁもう…!!
マネージャーといえど、私だって青学男子テニス部の一員だ。
敵校相手に負ける訳にはいかない。

オーラを纏う左足が強く地面を蹴った。
クロスへのドロップショット。
景吾が走り出すのと同時に私も前へと出た。


「っ…相変わらず、読めねぇ球打ちやがる…!」


バウンド後、軌道が逸れた球は景吾のラケットのフレーム付近に当たり、チャンスボールが返ってくる。


「そう言えばさっきのスマッシュ…破滅への輪舞曲、だっけ?」
「!」


ラケットを振り下ろす私に景吾が大きく後ろに下がるのを見て、ボールが当たる瞬間、ピタリとラケットを止めた。
とん、という軽い重さがラケットに伝わる。


「40-30」


威力を失ったボールがネット際を低く数回跳ね、景吾が小さく舌打ちをした。


「ふふ、打つなんて言ってないけど」
「チッ…嘘が上手いのも"傀儡師"の所以か?」
「さぁ?どうだろうね?」


そもそもほら打ってこいばりの球を先に打ったのはそっちじゃないですか。
私はそれに応えただけだもんね。

あと1ポイント、されど1ポイント…
どう勝負をしようか。
私の技はほぼほぼ知られている、ということは、新しい何かをしなければ…
後方から吹く風が、ふわり、と髪を持ち上げた。

……新しい、何か…



* * *



今日だけじゃなく、映像でも何度も見た外側へ大きく跳ねるサーブが打ち込まれる。


「そのサーブはもう見切ってんだよっ!」


確実に捉えた球をサイドへ打ち込んだ時、


「!」


名前の全身をオーラが包んだ。
…なるほど、百錬自得の次は"無我の境地"ってやつか。
やはりテメェは面白ぇ奴だぜ。
これほどまでに楽しい試合は久しぶりだ。

どんな球が返ってくるのかと思えば、名前のそれは至って普通のスピンボール。
何を狙っていやがる…
名前の動向を伺いながらラケットを引いた。


「…なんだ…?」


風…?
打ち返す間際、確かに感じた僅かに重い風圧。
今のは自然の風か…いや、向かい風だが大した風は吹いてねぇ…

再度打ち返してきた球も、先程と同様のスピンボール…だが、確実にスピードが増している。
それと同時に、先程よりも強い風圧が俺を襲った。
ネットがまるで船帆のように膨らみ、髪がばらばらと空を舞う。


「っ…何を、する気だ…?」


この先が読めねぇが、このままではまずいことだけは確かだ。
変にラリーを引き伸ばすより、早めに決めちまった方がいいだろう。
コーナーギリギリを狙って強く打ち込んだ球を名前が追いかける。
景吾、と名前の口が動いた。


「You'd better not cross "Kamikaze".("神風"には逆らわない方がいいよ)」
「なん、」


また同じ球が返ってくる。
先程より更に増したスピード、そして、目を瞑りそうになるほどの風圧。
神風に逆らうな、だと?


「神だかなんだか知らねぇが…っ上等だ!!」


何だって、何度だって打ち返してやる。
そして、勝つのは俺様だ。


「警告はしたからね」
「…?」
「いい球をありがとう」


そう言って笑う名前の右腕は、いつの間にかオーラが纏わりついていて。
今まで左足だけに纏っていたそれを腕に纏い、名前がラケットを振り抜いた。
真正面から向かってくる重い風に自然と瞼が落ちる。

っ目を、開けろ…!勝つのは、


「っ!?く、」


ラケットを引いて身体を開いた途端、その風圧によってぐらりと体が後方へ傾いた。
ドサッと音を立ててコートに尻もちをつくのと同時に、俺の真横を風が駆け抜けていく。
持ち上がっていた前髪が、はらりと顔に垂れ落ちた。


「…げ、ゲーム、苗字…1-1…」


何事も無かったかのようにしんと静まり返るコート。
ハッと顔を上げたその先で、身体を纏うオーラが溶けていくのと同時に、名前がふらりと倒れるようにコートに座り込んだ。


「!?っおい…!」


その場にラケットを置いたまま駆け寄った俺を見上げ、名前は困ったように笑った。


「言ったじゃん…未完成だって…」


先程までの威勢はどこへいったのかと思う程に弱々しい声。


「自由に使えはするんだけど…消耗、激しいんだよ…どっちも」


なんとなく嫌な予感がして、


「…テメェまさか…膝は、」
「あー……ハハハ」


クソ、こいつ…!


「でも、ちょっと休めば大丈夫だし」
「そんなんで歩けるのかよ」
「…ごめん、ベンチまで手貸してっぇえ!?ちょっと!?」


予想以上の軽さに驚く暇もなく、間近からの声に耳を遠ざけた。
さっきの死にかけみてーな声はどうした、元気じゃねぇか。


「うるせぇ静かにしてろ。俺様が運んでやってんだから光栄に思え」
「強引だよほんとにぃ…」
「樺地!ラケットを回収しておけ」
「ウス」


人使い荒いよ…いや、樺地くん使い…?なんて、恥ずかしがるどころか変なボケをかますこいつを一旦ベンチまで運べば、あっという間に全員に取り囲まれた。


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