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本日迎えた修了式も私の出番が来ることなく無事終わり、今年このクラスでの最後のHRも、いつもより長い時間をかけて終了した。
私達が卒業するわけでも、先生が離任するわけでもないのに、終盤でとある男子が、先生の面白い話が聞けなくなるのは寂しい、と言ったところで先生が大号泣し、皆で笑ったのはいい思い出になるだろう。
色々あったけど、総合的に担任の先生を含めていいクラスだったなぁと思うのと同時に、今年の後半はなんだかあっという間だったなぁと胸が暖かくなった反面寂しい気持ちにもなった。
教室を出れば、出入口から少し離れた所で相変わらず国光が窓辺に背を預けて本を読んでいる。
今ではもうほぼ当たり前となったこの光景は、来年になったらどうなるんだろう。
もしかしたら今日で見納めになるかもしれない。
そんなことを考えながら彼を眺めていれば、僅かに彼の目がどこかをさ迷った後、ちらりとこちらへ視線を投げた。
流石に不審に思われただろうか。
「……どうした、何かあったか?」
「んーん。今日はいつもより長かったでしょ。待っててくれてありがと」
いや、と短い返事をしながら国光が本をバッグへとしまい、いつものように並んで廊下を歩き出した。
穏やかで、静かな時間が、ゆっくりと進んでいく。
「さっきは、何を考えていたんだ」
校舎を出て人通りがまばらになった頃、徐に彼から質問が投げられた。
「あぁ、この光景も見納めかなー、って」
理解出来ていないような顔を向けられ、笑ってしまった。
色々省きすぎたか。
「来年のクラス分けとか担任の先生によってはさ、もうああやって廊下で待ってくれてる国光を見ることは出来ない訳じゃん」
「それは…そうだな」
「もし同じクラスだったら確定で見納めだし」
まぁ、生徒会の会長と副会長が同じクラスになるのはほぼ無いと思うんだけどね。
そう諦めた笑いと共に吐き出せば、
「それなら、頻度は落ちるかもしれないが来年も見られるだろう」
さも当然のような返事が返ってくる。
「んん?」
「クラスが違うなら、来年も今と変わらない」
「…それってつまり、クラスが違ったら来年もまた待っててくれるってこと…?」
「俺はそのつもりだったが…」
あのバレンタイン前の事件によって定着化したお迎えシステムは、てっきり今年で一旦終わりになるかと思っていた。
そう考えた時、心のどこかで寂しいという感情が生まれたのは確かで、来年になって誰もいなければ今度は私が皆を迎えに行けばいいや、なんて思っていたのだが…
もう必要ないと言うのなら、と言いかけた国光の言葉を慌てて止めた。
「国光が苦じゃなければ…!」
「全く思ったことは無い。それに、俺がしたくてしていることだ。気にするな」
ふわ、と心臓が浮いたような感覚に戸惑いが生まれてくる。
どこか気恥ずかしくて、嬉しくて、そわそわして、なんだこれ。
昨日もそうだった。
国光から唐突に出た、俺も好きだ、という言葉に一瞬頭が真っ白になって、変に焦って。
あの時は無理やり平常心に戻してなんとかなったけれど、自分の部屋に戻ってからはずっと頭の片隅からその言葉が離れてくれなくて。
彼は無駄に顔がいいし、声も優しいし、なんせその中身も強くて優しくて…
普段はあまり表情を変えず、寡黙で口数も少ないけれど、少し話せばきっとそれらは色濃く見えるようになってきて、優しさにも触れて……あー、これはモテる訳だよなぁ。
なんだろう、簡単に言えば、無自覚で人を落としていくタイプなのかもしれない。
真面目というか変に素直というか、なんでもない顔してサラッと恥ずかしくなるようなこと言ってくるし…天然…?
ていうかやっぱ言葉が足りないんだよね、国光は。
俺がしたくてしていること、という言葉に補足を付けるなら、あの件で私に対する警戒度が跳ね上がって、という事だろう。
私がふらふらあっちに行ったりこっちに行ったりして、また変なことに巻き込まれないように見張る保護者的立場。
それから、責任感と仲間愛。
なんかそう理解したら気が軽くなってきた。
全てはそう、悪く言えば言葉数が少ない無自覚天然タラシな彼の発言のせいだ、うん。
「名前?どうした?」
「…いや、何でもないです」
もう少し発言に気をつけた方がいいよ、女の子を敵に回すと怖いぞ、と言いたいところだったが、我ながら何様だよと思ったので言うのはやめた。
「来年のクラスさ、」
無理やり話題を逸らしてしまった感満載だったが、国光は、ん?と続きを促すように返事をしてくれる。
「もしクラスが別だったら、部活がない日は先にHRが終わった方が迎えに行くってどう?」
「確かに、来年の担任次第だな」
「今年は待たせてばっかだったからねぇ」
なんとなしに言った私に向いたのは、僅かに口元を緩く持ち上げた国光の優しい顔で。
「お前を待っている時間も新鮮で良かった」
まただ。
折角落ち着かせた心臓がまたふわりと浮いて、あぁもう、無自覚天然タラシめ…
いつからそうなってしまったんだこの人は。
いや、見えていなかっただけで最初からなのかもしれない…
あれか、仲良くなると凄まじく心配性になって、更に仲良くなると言葉もどんどんストレートに言うようになるのか、第三形態か?
名前?と心配そうな顔で微妙に覗き込まれて、思わず体が後ろに逸れた。
「様子が変だ。体調でも悪いのか?」
「ち、違う違う…!なんでもないから!」
疑うような目からさっと視線を逸らせば、何かあるならすぐに言え、といつも通りの言葉が追いかけてくる。
あなたの無自覚発言のせいです、なんて、言える訳がない。
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