歴史のプリント
「蓮二、蓮二くん、蓮二さん」
「"歴史のプリント見せて"…だろう?」
「話が早い」
人の名前を三段活用のように並べるな、と文句(?)を言いつつ、蓮二は自身のクリアファイルから一枚の紙を抜き取った。
え、いつもは自分でやれとか、自業自得だ、とか言うのに。
「あざす!!」
すか、と私の手は宙を切った。
「まだ見せるとは言っていない」
「分かってたよ少しでも期待した私が馬鹿だった」
ふっと笑った蓮二は、折角取り出したプリントをまたファイルへと仕舞ってしまう。
は?私をおちょくるためだけに出したのかコイツは。
「念の為に聞いておくが、お前のプリントは何かしら記入はされているんだろうな?」
「されている訳がなかろう」
「だろうな」
興味の湧かない暗記科目は嫌いなんですぅ。
「歴史の授業は午後だ。それまでにお前がそのプリントを自力で埋めたら、答え合わせとして見せてやろう」
「えぇ〜…」
仕方ない、弦ちゃんがいなさそうなタイミングを見て比呂くんか、ジャッカルにでも聞きに…
「あぁそうだ、柳生とジャッカルには手を貸すなと伝えておく」
「はぁ!?それは無しだろ!!」
「変な考えを起こす前に、まずは教科書を開け」
私の考えを見透かしたように言われたその言葉が重くのしかかる。
くっそ…結局自分でやるなら家でちゃんとやればよかった…
「自業自得だ」
そういつも通りの言葉と共に、蓮二は勝ち誇ったような腹の立つ笑みを浮かべた。
* * *
昼休み。
数人からのお昼の誘いを泣く泣く断り、早めにお弁当箱を空にして、現在真っ白な歴史のプリントと睨めっこ中。
教科書のそれっぽい所をパラパラとめくりながら、出ないやる気を無理に出すなんてことはせず、ぷらぷらとシャーペンを揺すっていると、
「名前」
「…んぁ?」
かけられた声は蓮二のもので、のそりと見上げれば、蓮二の隣には何故か精市と弦ちゃんがいる。
全く…と困ったように笑っている精市とは逆に、普段赤也に向けているような厳しい目を向ける弦ちゃん。
「お前はまた宿題をやってこなかったのか!」
たるんどるぞ!とお決まりのセリフに眉を寄せれば、蓮二が、助っ人がいた方がいいと思ってな、と笑った。
悪魔の笑みにしか見えない。
「召喚の義間違えたんじゃないの」
なんでよりにもよってこの二人なんだよ。
もっといただろ、人選ミスだ。
「効果的面な召喚だと思ったんだがな?」
くっそ、ある意味その通りだよ悪魔め!
「馬鹿なこと言ってないで早くやっちゃいなよ」
「だってこれ教科書に全部答え書いてあるんでしょぉ…?答えの丸写しと変わらんじゃんか。そもそもやる意味あんのかこれ」
「意味があるから宿題になっているんだろう!答えの丸写しだと思わず、覚える努力をしながら」
「あーはいはい分かりました分かりました」
「名前!人の話は最後まで」
「ほら、ヒントくらいは出してあげるから手を動かして」
私と同じように弦ちゃんの言葉を遮った精市が、隣の空席の椅子を引っ張ってきてふわりと腰掛ける。
手と足を組んで私のプリントに落とされる視線は、部活の時よりは若干優しいものの鋭い目だ。
「助っ人ってより見張りじゃねーか…」
弦ちゃんは精市の言葉に頷きながらも仁王立ち+腕組みで私を見下ろしているし、蓮二はどこか面白そうにこちらを眺めている。
なんで私は三強に囲まれて歴史のプリントの穴埋めをせないかんのだ、まじで。
はぁ、と頭を落とせば、ぺしりと後頭部に小さな衝撃。
「いてっ」
「余計なこと考えてる暇あるの?そのプリントの範囲は次のページからだよ」
「…うっす…」
そんなこんなで、私の周りに座る三人の圧に縮こまりながらもなんとかプリントを埋め…
「……お、終わりました…」
マジで家でやらなかった自分を呪いたい。
「ふっ、少しは家でやって来ようという気になったか?」
「なりましたもう絶対家でちゃんとやってきます」
シャーペンをペンケースにしまいながら言えば、ひらりと机の上に乗せられたのは蓮二のプリント。
「ここで見ていた限り全て合っているが、一応見るか?」
「…合ってんなら……いや、やっぱ見る」
蓮二のプリントと自分のプリントを上から見比べていく。
ていうかやっぱ蓮二って字綺麗だよなぁ…
字だけ見たらめちゃくちゃ綺麗な年上のお姉様を想像しちゃうね現実はアレだけどいや普通に綺麗な顔はしてますけども。
「ほら、差し入れ」
「へ?」
そう言って精市が机に置いたのは、今の時期に購買で数量限定販売されるフルーツティーの紙パック。
え、これめっちゃ人気高くて全然買えないやつじゃん…!
「精市、いつの間に買っていたのか?」
「本当は少し遅くて買えなかったんだけど、たまたま柳生が最後の一つを買っていてね。ワケを話したら、名前にあげるなら是非どうぞ、って」
「比呂くんんんんんんん…!!!!ありがとう…!!!!」
「は?俺にはお礼無し?」
「精市ありがとう大好き神様まじ天才」
「ふふ、どういたしまして」
後で比呂くんにもお礼を言わねば…!
早速喉に通したフルーツティーは、面倒事を片付けた後だし、久しぶりに飲んだこともあってめちゃくちゃ美味しい。
自然と頬が緩むし、自分の周りにカラフルな花々が生成されてる気分だ。
「…全く…少し甘やかし過ぎではないか、幸村」
「そう?でもほら、」
くすくすと笑う精市の視線を感じ、ごくりと喉を潤しながら、ん?と声を漏らせば、謎に三人の視線は私に一点集中していて。
「成程。確かに、精市が言いたいことは分かる」
「ん?え?何が?」
「ふふ、美味しい?」
「めっちゃ美味しい」
「それは良かった」
「…名前、これをお前にやろう」
そっとプリントの上に置かれたのは、久しく見ていない黒飴。
「…黒飴て…しっぶ…」
「なっ…体に良いのだぞ!!」
「んはは、ありがと〜貰っとく」
「…うむ」
「ふふっ、真田も大概じゃない?」
「……用が済んだのなら俺は戻る」
ふいっと私達から身を翻し、弦ちゃんは教室を出て行ってしまった。
そんな弦ちゃんを笑う精市と蓮二に、私はまたフルーツティーを啜りながら首を傾げた。
(あぁ?歴史のプリント?)
(柳君からは何も聞いておりませんが…)
(俺も何も言われてねぇぞ?)
(…っあのヤロウ…謀ったな…!あ!!ていうか比呂くんフルーツティーありがとう!!)
(いえいえ、喜んで頂けたなら何よりです)
(今度お礼するからね!)
(ふふ、楽しみにしてますよ)
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