スズメとシマエナガ


それは、私のお目当てのプライズがついに行きつけのゲーセンのUFOキャッチャーに追加された日。
都合良く学校も部活も休みで、私はほくほくでゲーセンに向かった。
の、だが…


「………は?」


ごしごしと目を擦り、一度顔を逸らしてまたそちらを向いても、ゲーセンの入口に立つその姿はどう見ても…


「…弦ちゃん…?」


え、なんで?
すっっっごい似合わない。
なんで?え、マジでなんでいるの?

どこかへ行くのか、それとも帰り道か、足を止めじっと店内を見つめる弦ちゃんは、周りの様子等は全く頭に入っていないようだ。
何があの弦ちゃんをあんな風に…?
そう思って彼が向ける視線を追えば、そこにはよくある上下二段の比較的取りやすいUFOキャッチャーの台達。
中身はどれも小物系のぬいぐるみやキーホルダー、子供用のフィギュアが無造作に転がっている。

暫く様子を観察していれば、やがて弦ちゃんは小さなため息をついて歩き去ろうとして、私は慌てて足を進め、少し丸まってはいるもののその無駄にでかい背中に声を掛けた。


「おーい弦ちゃん」


ぴくりと伸びた背中が向こうを向いて、驚いたような顔の弦ちゃんが私を見下ろす。


「な、名前…なぜここに…」
「ゲーセン。で?なんで弦ちゃんはゲーセンなんか覗いてたの」


珍しいね、と言えば弦ちゃんは少し居心地が悪そうに視線を逸らし、やがて小さなため息をついた。


「…たまたま目に入ったのだ」
「ん?何が?」


何かを思案するような素振りを見せた彼は、


「名前、お前はゆーふぉーきゃっちゃーとやらは得意か?」
「え、うーん…ブン太達とは良くゲーセンに来るし、得意かは分かんないけど結構やりはするよ。なんで?」


またしても何か悩んだように目を逸らした弦ちゃんはやがて、来てくれ、と私を通り越してゲーセンの方へと歩いていく。
自動ドアを潜り着いて行った先で、弦ちゃんは先程も見ていたであろう二段のUFOキャッチャーの前まで来ると、その筐体の中身をじっと見下ろした。


「コイツと目が合ってしまってな…」


弦ちゃんの目が見つめる先には、手のひらにころりと転がりそうな小さな鳥のマスコットチャームがぽつぽつと置かれている。


「…待ってこれ?え?これ?」
「そうだ。これだ」
「えーっと…欲しいの?」


肯定も否定もせず、黙ったまま目を逸らされる。


「……欲しいのか…」
「む…コイツの目を見ろ」
「どれよ…」


コイツだ、と弦ちゃんが指したのは、アクリル際にひっくり返っているスズメっぽい鳥。
その子は確かにこちら側に顔が向いていて、


「見ろ、この捨て猫のような目を」


と、言われましても…


「…分からんけど、この子を取ったらいいの?」
「取れるのか!?」
「こういう台は子供でも取りやすいように設定されてる事が多いし、たぶんすぐ取れるよ」


先程とは違って期待の込められた目に見つめられながら、私は早速その台へと手を伸ばした。
慌てて財布を取り出そうとする弦ちゃんを、いいよ、と止め、硬貨を入れてレバーに手を添える。
それにしても、弦ちゃんはこれを取ったところでどうすんだろう…
カバンに付けんのか…?
え、似合わな…

そわそわしながら私が動かすアームを食い入るように見つめる弦ちゃん。
地味にやり辛い。
カチャカチャとレバーを微操作しボタンを押せば、弦ちゃんの体にぐっと力が入った。
体がでかい弟を連れているような気分だ。


「っ…ぐ、」


呻くな。
スズメを持ち上げたアームがゆらゆらと揺れながら、取り出し口に繋がる透明な筒へと動き出す。
もう少し、というところで謎の力によってアームがゆるみ、それはぽろりと床に転がり落ちた。


「…くっ…あと少しだというのに…!」
「たぶんすぐ取れるから。もうちょい待っててよ」
「そ、そうなのか…?」


続くセカンドチャレンジでは、今度はアームは緩むことなく景品を運び、


「む…!」


弦ちゃんの声と共に、スコンとスズメが取り出し口に転がった。
メイン機でもこれくらい緩い設定にして欲しいものである。


「ほら」


ころんと弦ちゃんの手のひらに転がる……え、なんか異様に小さく見えるのは私だけ…?


「おぉ…小さくて可愛いな」


礼を言うぞ、と口元を緩める弦ちゃんは、今だけは年相応に見える。


「それどうすんの?」
「む、そうだな…」


弦ちゃんはまだいくつかの鳥が転がる筐体の中をちらちら見ながら、何やら考えている様子だ。


「…これは、俺でも取れると思うか?」
「取れると思うけど?回数重ねればそのうち」
「そうか…」


一匹取ってもう一匹欲しくなっちゃったとか?
悩んでいる様子の弦ちゃんに、じゃ私はあっちに用があるから、と伝え、私は当初の目的であるプライズが置いてあるであろう店内の奥へと足を進めた。



* * *



何度目かのチャレンジで無事ゲットした景品をカバンにしまい、他に何か良さげなものが無いか店内をうろうろしていた時だった。


「名前」
「ん?」


呼ばれた声に振り返れば弦ちゃんが立っていて、やっぱりこの背景に似合わないな、なんて思う。
弦ちゃんは真っ直ぐに私の方へと歩いてきて、スッと片手を差し出した。


「何?」
「いいから、手を出せ」
「はぁ…?」


差し出した私の手のひらにころりと転がる、シマエナガらしき小さなマスコットチャーム。
先程取ったスズメと同じものだ。


「あぁ、取れたんだ。おめでとー」
「お前にやろう」
「…は?」
「先程の礼だ」


律儀だな…


「あー…じゃあ、貰っとく。弦二郎って名前にしよ」
「む、こういうものには名前を付けるものなのか?」
「それは人によると思うけど…折角弦ちゃんが取ってくれたからね。だからげんじろー」


言いながらシマエナガらしきそれをカバンの紐に繋ぎ、そうだ、と弦ちゃんを見た。


「さっきのスズメは?」
「ここにあるが…」


ごそごそとポケットを漁り、すぐに取り出された弦ちゃんの手のひらでスズメがころりと転がる。
私はそれを摘み、弦ちゃんの持つ手提げカバンの紐に同じように繋いだ。


「ほら、お揃い」


たじろぐ弦ちゃんの視線が、スズメからシマエナガへ、そしてまたスズメへと戻る。


「…そ、そうか……」
「何照れてんだ」
「てっ、れてなどいない…!」
「んはは」
「くっ…」


だが、と弦ちゃんの手がそっとスズメに触れた。


「…悪くは無いな」
「そーですか」


次の日、手提げカバンに繋いだはずのスズメは弦ちゃんのラケットバッグのチャックに繋がれ、ひっそりとゆらゆら揺れていた。





(ところで名前に真田、その鳥は何かな)
(あぁ、これはゆーふぉーきゃっちゃーで名前に取ってもらった)
(私のは弦ちゃんが取ってくれた)
(…は?何?二人でゲーセンにでも行ったってこと?)
(いや、偶然会ったのだ)
(ふぅん…?ま、どうでもいいけど名前、今日の帰りにゲーセンに寄るよ)
(え?今日?)
(ふふ、俺の分も取ってくれるよね?)
(アッハイ勿論デス)



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