心理テスト 前編
ミーティングのみの部活を終え部員達がまばらに帰り出す中、赤也が私の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
ゲーセン行きません?と、お前は言う。
なんて蓮二の真似事を脳内でしながら返事をすれば、赤也は遠足前の子供のような笑みを広げて制服のポケットから少し皺の寄った紙切れを取り出した。
「心理テストしません?」
「勘が外れた」
「へ?」
「てっきりゲーセンかと思って」
そんなことより!と赤也は楽しげな笑顔を向ける。
いつもあんなにはしゃぐゲーセンを「そんなこと」にしてしまうほどの心理テストがこの世にあったのか…
「今日うちのクラスで女子がやってて!聞いてメモってきたんで名前先輩もやりません?」
そんな話をしていれば他のやつらもわらわらと集まり出すのはいつものこと。
「ほ〜う。どんな心理テストなんじゃ?」
「言葉に合う人を答えて、その人があなたのなんなのか、みたいなやつッス!」
「へぇ、面白そーじゃん」
すぐそこでは弦ちゃんが蓮二と比呂くんから心理テストについての説明を受けていて、ふむ…とよく分かっていなさそうな返事をしている。
私より弦ちゃんにやらせた方が数倍面白いと思うんだけど。
「お前はもうやったのか?」
「うちのクラスの人で、って言われてやったんスけど、どうせだったら部活の人で答えたかったッスね…」
ジャッカルに聞かれた赤也がつまらなそうに言う。
赤也のクラスの人限定だったら、後で答えを聞いたところで誰か分かんないかぁ。
「てことで名前先輩!丁度いいんでうちのレギュラー限定で当てはめてみてくださいよ!」
「何が丁度いいのか分かんないけどいいよ」
「っしゃ!先輩達もやります?」
赤也が聞いたけれど、謎に全員私の答えを聞いて楽しむ方にまわりやがった。
ブン太お前さっき面白そうとか言ってただろ。
* * *
赤也がメモを見ながら教室の黒板にいくつかの単語を書いていく。
字がお察しなのと、"太陽"の"陽"を間違えて弦ちゃんに怒られたのとで、結局字が綺麗な蓮二が代筆することになった。
「えーと?"太陽"、"月"、"水"、"砂"、"岩"…に当てはまる人を答えればいいの?」
「そッス!」
ふむ…
改めてレギュラー陣をぐるりと見回す。
ここにいるのは8人で、単語は5個。
そうだなぁ…先にすぐ思いついたのからにしよう。
「とりあえず"岩"は弦ちゃんだな」
「っブフッ…」
「む…赤也、何が可笑しい」
「い、いやっ!?何でもないッス…!!」
赤也の様子からしてきっと"岩"はまぁ、そういう感じなんだろう。
弦ちゃんには先に謝っとこ、心の中で。
蓮二が"岩"の横に弦ちゃんの名前を書いていく。
心理テストとはすごい関係ないけど、流石、生徒会書記っぽい。
「んーと…どっちも当てはまる感じがして迷ったんだけど、"水"は精市。…で、"月"が蓮二」
「フフ、俺の予想は当たったな。答え次第ではあるけれど」
「予想では五分五分だったが、てっきり"月"には仁王を当てはめると思ったな」
どことなく悪寒がする精市の微笑みの向こうで、"月"の横に自身の苗字を書きながら蓮二が小さく笑った。
「雅治は風って感じだなぁ。掴み所がないっていうか」
「ほう…もしこの心理テストに風があったら、どんな答えだったんじゃろうな」
「なんだろ。あなたにとって…掴み所のない人?」
「そのまんまじゃねーか…」
残すは"砂"と"太陽"か…
太陽は分かるけど砂って何?
砂のような人って何?
「んんん…"太陽"も難しいな…」
「え、んな難しいか?当てはまるやついねーの?」
「いや、ブン太と赤也で悩んでる」
おっ!勿論俺だろい!
お、俺が太陽なんスか!?
意外にも別々の反応が返ってきた。
だって2人ともそれぞれ違う意味で太陽みたいだし…
「うーん……"太陽"はブン太にしとくか」
「しょうがねぇみたいな言い方すんなっての!」
「まぁ太陽なのは間違いないから」
「んまぁ…いいけどよー…」
そして残るは最大の難関である"砂"。
「砂…砂かぁ…なんで砂なのこれ考えた人…」
「それ俺も思ったッス…砂ってなんだよ…」
「ね…」
正直一日考える時間が欲しいけど流石に待たせる訳にもいかない。
うぅん、と必死に頭を動かし、まだ名前をあげていない彼らをイメージしていく。
ほぼ消去法だけど…
「"砂"は比呂くんかなぁ」
「おや、私ですか?」
「"岩"が弦ちゃんだから。"砂"って固い岩の逆で柔らかいじゃん?小さな石には変わりないんだけど…同じ風紀委員だし、地面系繋がりで固い弦ちゃんと柔らかい比呂くんかなーって」
「ふふ、答え合わせが楽しみですね」
私の回答が出揃い、ほぼ全員が赤也の方を向いた。
赤也は黒板とメモとを視線を行き来させながら、むにゅむにゅと口角を上げたり下げたりしている。
ニヤけるのを抑えているような顔だな、何か面白い答えにでもなったんだろうか。
「んじゃ上から順番に答え言いますね〜。俺と丸井先輩で悩んでた"太陽"ッスけど、これは"あなたが憧れている人"らしーッスよ」
「え、お前俺に憧れてたのかよ。んだよ、言ってくれりゃサインしてやるのに」
「ファンの子に高く売れるかな」
「お前すぐそういう発想になんのどうにかしろマジで」
にしても憧れねぇ…
まあブン太に限らず憧れというか、尊敬はしてるけどそれはまた違うんだろうか。
「次は柳先輩ッスね。"月"は"あなたが落ち着ける人"だそーですよ」
「あーーー、分かるかも」
「ふ、変な意味合いでなくて安心した」
「落ち着くにもいろいろあるけど、ひっくるめたら精市と悩んだのもなんとなくしっくりきたな」
へぇ、と精市が満更でもなさそうに口端を上げた。
蓮二はたまに人を嵌めてくるけど、煩くないしいたらいたで結構な安心感もある。
精市は付き合いが長いからなのかなんだかんだ一緒にいて当たり前というか、心地良い距離感があるというか。
どちらも違った意味で落ち着ける存在であるのには変わりない気はする、と思う。
多分。
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