心理テスト 後編


そして…とちらりと見上げた黒板の次の文字は"水"。
"水"には精市を当てはめてしまったけれど、ここまでマイナスなものは無いし多分大丈夫だと思いたい。
いや、ここにきて実はよく思ってない人とか来たらどうしよう、明日を迎えられないかもしれない。
そんなことを考えていれば精市が赤也に続きを促した。
たのむ、変なのマジでくんな。


「"水"は"あなたの親友"だそーですよ、幸村部長」
「…ふぅん、"親友"ねぇ」
「えっ、いいじゃん親友!心の友だよ!いやーマジでよかった!!」
「ま、良くないものが来るよりマシかな」


マシって…お前は何を望んでたんだよ…
いいじゃん親友で…
ていうか合ってんじゃん、長い付き合いなんだしさぁ……え?私だけですかそう思ってるの。


「そんで、次なんスけど…」


語尾を濁らせる赤也に、ついに変なのが来てしまったかと内心ひやりとする。
どうしよう、"砂"には比呂くんを当てはめちゃったんだけど…
先に申し訳ない気持ちを込めてちらりと比呂くんを見れば、大丈夫ですよ、とでもいうように比呂くんの口元がふわりと弧を描いた。


「"砂"は、"あなたのことが好きな人"ッスね…」


私の視線の先で、ぴく、と比呂くんが小さく揺れた。
なんだよもう…全然マイナスじゃないじゃん焦らせんな赤也め。


「んはは、比呂くん私のこと好きなのか〜」


なんてけらけら笑えば、方々から変な視線。


「…え、何?何?」


微妙な顔をしている皆の顔を伺っていると、ふふ、と笑う比呂くんの声がした。


「ええ、私は名前さんが好きですよ」


っはぁ!?と赤也が素っ頓狂な声を上げる以外、他はしーんとしたまま。


「えーと、ありがとう…?」


優雅な微笑みと一緒に向けられる好意の言葉はきっとファンの子達からしたら卒倒ものだろう。
正直私も今のそれには心が跳ねたし、やるな、比呂くんめ…
ていうかなんとなく教室内の温度が下がった気がするのはなんでだろう。


「…柳生」
「おや、どうかしましたか?仁王君」
「…なんでもないぜよ」


ふいっと廊下の方を向いてしまった雅治と、固まったままの弦ちゃんとブン太、いたたまれないような居心地の悪そうな顔をしているジャッカル、謎に目配せをする精市と蓮二。
赤也もあの素っ頓狂な声以降は固まったまま比呂くんを凝視しているし、どうしたお前ら。


「てか、そもそもライクの話っしょ?まさか恋愛に直結?思春期かよ」
「名前ってほんとにおめでたい頭してるよね」
「なんで急にディスられてんの私」


はぁ、と精市が謎にため息をつき、


「で?赤也、次」
「っあ、は、ハイ…!」


じとりと視線を投げられた赤也が肩を揺らし、手元のメモに視線を落とした。
それからそろりと弦ちゃんを見て、へらりと取り繕うような笑みを向ける。


「あのー…副部長、ショック受けないでくださいね…?」
「…む…?」
「つーかその発言でもうマイナスがほぼ確定じゃねーか…」


ジャッカルの呟きに弦ちゃんの眉がぴくりと動き、うげ、と赤也が小さな悲鳴を漏らした。


「…心理テストについては先程蓮二と柳生から聞いた。所詮は運が絡んだお遊びだろう。何が来たところでどうということは無い」


まぁ予想はしていたけども、お遊びなんだからもう少し楽しめよ。
じゃあ…と赤也がまたメモに視線を落とし、


「"岩"は"あなたが苦手な人"…ッス…」
「……つまり名前、お前は俺が苦手なのか…?」


いや所詮はお遊びなんだろ鵜呑みにすんな。
そんな捨てられた子犬のような目で見るな。


「えぇ…いや、そんなことは…な…ナイヨ」
「ありそうな言い方だな」
「蓮二は口閉じてろ」


目をつり上げるかと思っていた弦ちゃんは意外にも、そうなのか、と肩を落としてしまった。


「あー、まぁ確かに口煩いとは思うけど苦手なわけじゃないし……てかそもそもな?キミ達が誰か一人でも苦手だったら私ここにいないから。あと蓮二、無言でノートに書き殴るのをやめろ」


"口閉じてろ、と言われた"
ノートの見開きを丸々使って書かれたそれをこちらに見せつけてくる。


「っだぁぁあ!揚げ足取りって言うんだよそれ!もう話していいよ!」
「お前にしては珍しい言葉を聞いたからつい」
「やっぱ黙ってて」


口煩いと言った所は意外とノータッチで、弦ちゃんはそうかと満更でもなさそうに視線を逸らした。
ていうか今更だけどなんでこれ私だけ被害者みたいになってんの?
見てないで全員やっとけよ。


「…あ、でも思ったんだけど、もしこれ皆がやってたら"砂"が面白いことになってたかもね」


案外相思相愛とかあったかもよ?とにやにやしながら周りを見回せば、精市がにっこりと笑った。


「俺は"砂"は名前だと思ってたけどね」
「奇遇じゃな幸村、俺も"砂"は名前だと思っとったぜよ」
「おや、ということは私と名前さんは相思相愛ということでよろしいですか?」
「ちょっと待てお前ら」


なんでそんなに私が"砂"なんだよ。


「え、俺も名前が"砂"だと思ってたぜぃ?」
「俺も…!クラスでやった時はあれッスけど、ここでやんなら名前先輩が"砂"ッス!!」
「…そうだな、俺も名前が"砂"だと答えていた」


蓮二まで!?
いや、蓮二が言うならそうなのか…?
え、私って砂なの…?
そう思って頼みの綱(?)であるジャッカルと弦ちゃんを見れば、


「あー…そうかもな…」
「…む、ぅ…否定はせん…」
「いや流石におかしくね?え?おかしいの私?私って前世砂だったのかな」
「前世が砂ってなんだよ…」


え?私ってそんなに砂なの?
てか砂って何?
ちょっと待って頭が変な方向に回りそう。


「え…?ん?…えぇー…?」
「…本当に、おめでたい頭ぜよ」
「あ!…え?おめでたい頭が砂ってこと?ん?」


馬鹿だね、馬鹿だな、馬鹿だ、と聞き捨てならない言葉が聞こえるけれど、今の私の頭の中は砂で一杯なので聞かなかったことにしておいた。


「はぁ…ほら、もう帰るよ」


精市の声でのそのそと皆が立ち上がり、蓮二が黒板に書かれたチョークの跡を綺麗にしていく。
私も一旦砂を頭から追い出し、皆の後に続いて教室を出た。


「それにしても心理テストってたまにやると面白いね。今回は私だけだったけど、なんか面白そうなの探して皆にやらせようかな」
「じゃあ俺もクラスの女子に良いの無いか聞いとくッス!」
「俺も聞いてみっかな〜」


その後、立海男子テニス部の一部で暫く心理テストブームがあったとかなかったとか。


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