後追い先回り


最近ハマっているシリーズ小説の続きを借りに図書室に来た。
3巻を返却し、次は4巻だ、とその本が並んでいる棚まで来たのはいいが、シリーズもののそれは3巻と4巻の場所が空いている。
2巻にもたれ掛かるように斜めになっている5巻を抜き取って、少し悩みながらその表紙と睨めっこをした。


「んんー…」


誰かに借りられないように先に5巻を借りておいて、4巻が返却されるのを待つか…
でも4巻が借りられたばかりだったら急いで読まなきゃいけないしなぁ…
5巻を借りるか借りないか、表紙を見つめたまま悩んでいると、


「お捜し物はこれですか?」
「うわ!?」


聞き覚えのある声と、にゅっと私の顔と本の間に突然上から生えてきた1冊の本。


「びっくりした…脅かさないでよ比呂…」


くん、じゃない。
振り返った私の前には、目を細めて楽しそうに笑みを浮かべる雅治がいた。


「どうじゃ?似とったじゃろ」


そりゃそうだ。
紳士な比呂くんがあんな子供じみた脅かし方なんてする訳が無い。


「これは本物の雅治だ」
「正真正銘本物の雅治ぜよ」
「過去最高レベルで嘘くさい"正真正銘"って言葉を聞いた」
「酷いのう」


で?と、雅治が再度私の前でふらりと本を揺する。
やっとしっかり目視したそれは、今まさに私が借りたかったシリーズ本の4巻だ。


「なんで雅治がそれ持ってんの…?」


聞けば、なんと雅治もこのシリーズを最近読み始めたらしい。
偶然だねぇと言えば、そうじゃのう、と普段と変わらない調子の返事が返ってくる。


「もう読んだ?それ」
「ん。次のを借りるついでに戻しとくって持ってきたトコに、丁度名前がいた」
「まじか、ナイスタイミングじゃん」


ていうか雅治案外優しいな、私もついでに戻しとくよーって言ってあげたら良かったかも。
4巻を受け取りながらそんなことを思っていれば、雅治は私が元々持っていた5巻をのろりと指さした。


「それ」
「え?…あぁ、そっか、雅治は5巻を借りに来たのか」


受け取った4巻の代わりに5巻を差し出し、平和に一件落着である。


「これ、俺が読み終わったら読むか?」
「どうせついでに返却させる気だろお前」
「バレたか」
「でもいいよ。ここまで借りに来んのもめんどいし読み終わったら貸して」
「ん」


出会ったついでに一緒に貸し出し手続きをして、並んで3年の教室へと戻る。
その途中で雅治が、次の授業は?と聞いてきた。
普通なら単純な質問なのだろうが、この言葉は私と雅治にとってはただの質問では無い。


「残念ながら次は音楽なんでサボりませーん」
「絶好のサボりチャンスじゃな」


そうだった、こいつ音楽苦手なんだっけ。


「音楽と体育だけは皆勤なんで無理」
「真面目じゃのう」
「たった2教科の皆勤で真面目って言われんの簡単すぎんな」


ちなみに雅治に皆勤の有無を聞けば、間髪入れずに無いと返ってきた。
でしょうね。


「私よりサボってんのによく勉強ついてこれるよね」
「頭いいから」
「言い返せないのが腹立つ」


雅治の次の授業はどうやら視聴覚室でなんかのDVDを観るらしく、確かにそれならサボるだろうなぁと適当な相槌を返した。
きっと彼はこの足のまま屋上へと向かうのだろう。
私も次が音楽じゃなければなぁ…一緒に行って本を読めたのに。


「…あれ?」


通りかかった屋上へ続く階段を、雅治は素通りして教室の方へと向かっていく。


「屋上行かないの?」


後方に過ぎていく階段を指しながら言えば、気が変わった、と雅治は言った。
どうやら次の授業にはちゃんと出るようだ。


「お前さんが来るなら、並んで本でも読みながらネタバレしちゃろうかと思ったんじゃが」
「その尻尾引っこ抜くぞ」
「おぉコワ」


思ってもいないような人を小馬鹿にする表情で肩を竦め、持っていた本を銀色の尻尾を隠す仕切りにしてこちらを見下ろしてくる。


「ま、視聴覚室でも本は読めるからの」


折角視聴覚室行くんならDVD見とけよ、とは思ったけど、どうせ興味無いとか言いそうだからな。
雅治の興味ポイントは2年経った今でも謎である。
…そういえば、雅治はなんでこの本を読もうと思ったんだろ。


「雅治はこの本の何に興味持ったの?」


そう聞けば、一瞬微かに笑うような息が聞こえた後すぐに、


「たまたま目に入った」
「へぇ?雅治って結構図書室行くの?意外」
「いや、俺が最初にこの本を見たのは図書室じゃあないぜよ」
「は?」


あぁ、あれか、誰かが読んでるのを見て興味持った的な?


「さて問題」
「え、何急に」
「俺が最初にこの本を見たのはど〜こだ」


全くもって問題を出すテンションではない、低く変動しない声での問読み。
当ててみろとでも言いたそうなゆるく細められた流し目がこちらを見下ろした。


「図書室じゃないなら教室じゃないの?ブン太が読むとは思えないから、クラスの誰かが読んでたのを見たとか」
「残念。半分ハズレ」
「もう当たりでいいじゃん…」


校内で誰かが読んでいたのは間違いない、というざっくりとしたヒントを貰ったものの、マンモス校の立海は人が腐るほどいるんだから分かるわけがない。
もしかしたら私の知らない人かもしれないし。
かと思えば、


「ヒント。お前さんもよーく知る人物ナリ」
「えぇ…?うちのレギュラー?」
「ハズレ」
「あ、先生とか?」
「ハズレ」


分かるかボケ。
絶対分からないだろうという勝ち誇ったような視線を睨み返した。


「…で?結局誰が読んでたの」
「秘密」
「あーはいはい出た出た。いいもん別に興味無いし」


問題と出されれば答えは気になるところだが、正直誰が読んでたとかはこれっぽっちも興味が無い。


「ッフ、拗ねなさんな」
「拗ねてねーわ。モヤモヤしてるだけだわ」


クク、と雅治が笑う声を無視して、このモヤモヤと共にここ数分の記憶をゴミ箱に捨てた。





(あれ、お前いつの間に名前が読んでんの抜かしたの?)
(ネタバレするには先回りが大事じゃろ)
(殺されんぞ…ってかその本面白い?俺も読んでみっかな〜)
(まぁまぁじゃな)
(まぁまぁでも読んどきゃ名前と話くらいは……ん?仁王お前さては)
(プリッ)
((あー…なるほどな)俺も読むわ、それ)



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