勝者はアイス


ーーーーーーーーーーーーーーー

不二
明日、苗字さんも来るんだよね?
会えるのを楽しみにしてるよ

名前
え?明日?ちょっと待ってなんの事?

不二
あれ?幸村から聞いてない?

名前
なんも聞いてないんだけど私知らないところでハブられてんの?

不二
四天宝寺中の白石と、幸村と、僕
3人で植物園に行こうって話になってて
幸村が、それなら名前も誘ってみるよって言ってたんだけど…

名前
聞いてないよあの野郎
ていうか白石くんわざわざこっち来るの?

不二
そうみたい
そもそも白石から声をかけてくれたんだ
一緒にどう?って

名前
全てが初耳なんですけど…

不二
今幸村に確認したんだけど、忘れてたって
幸村には明日面と向かって文句でも言ったら?笑
で、明日空いてるでしょ?勿論来るよね

名前
色々ツッコミどころしかないんだけど暇なので行きます
精市には明日文句言います

不二
ギリギリになっちゃったけどキミにメッセージを送って良かったよ
一応明日の集合場所とか書いておくね

名前
ありがとー!

ーーーーーーーーーーーーーーー



次の日、不二くんから送られてきた集合場所に向かえばまだ不二くんと白石くんは来ていないようで、一人静かに読書をしている精市だけがいた。
遠目から見ればマジで出来のいい彫刻みたいで、本に落とされた伏し目や本体から滲み出る儚さなんかに、通りすがりの女性達が頬を染めながらチラチラと精市を振り返りつつ歩いていく。

あの中アレに声をかけなきゃいけないのか…しんど…
足取り重く精市へと近付いていけば、気配か何かで察したのであろう精市がふと顔を上げて私を視界に入れ、その顔が驚きに染まった。


「え、何その顔」
「…なんで名前がここにいるの?」
「は?ごめんなさいだろまずは」


"なんで名前がここにいるの"?謝罪は?
普通私を見たらすぐにごめんなさいだろうが。

は?え?とお互いにちぐはぐな表情での睨めっこが続き、痺れを切らした私は昨日の不二くんとのやりとりを表示したスマホの画面を精市の目の前へと突き出した。
精市の視線がスマホの画面を緩やかに走る。


「不二くんがメッセージ送ってくれなかったら、私だけ仲間外れになってたところだったんだけど?」


私の言葉には返事をせず、黙ってスマホを見つめる精市の顔がどんどん険しくなっていく。
やがてそれは薄らと青筋が見えそうな綺麗な微笑みへと変わり、


「……成程ね?」


…あれ?ちょっと待ってこれ、何?
なんか、え、大丈夫…?
大丈夫じゃない気がするのは私だけ?


「やあ、お待たせ」


何処と無く雲行きが怪しくなってきたところで私達に掛けられた明るい声。
精市が振り返り、不二、といつもより低い声と優雅な微笑みのセットで彼を出迎えた。
不二くんはにこりと精市に笑いかけ、それから私に向き直って同じような微笑を浮かべた。


「こんにちは、苗字さん。私服可愛いね」
「こ、こんにちは不二くん、ありがとう…?」


あの、精市が物凄い顔であなたを見てますけど大丈夫ですか?
私助けられませんよ?


「ねぇ不二、どういうことかな?」
「うん?何の事?」
「はは、しらばっくれる気かい?全部見せてもらったよ」
「あれ?キミが苗字さんを誘うって言っていた気がするんだけど、僕の記憶違いだったかな」
「夢でも見ていたんじゃない?今すぐ悪夢に変えて続きを見させてあげてもいいけど?」
「フフ、残念だけど今は全く眠くないんだ」


不二くん大丈夫そうでしたむしろ私が大丈夫じゃないですやばいです氷点下です。
美形が増えたことでさっきまで道行く人からの注目の的だったここは、今ではもう全員が全員なんとしてでも目を合わせるものかとあらぬ方向を向いて足早に通り過ぎていく。

ていうかこの状況何?結局何も知らないのは私だけ?
誰か助けて、白石くん早く来て。
そんな私の願いが天に通じたのか、この場に躊躇せず入り込んで来た影が一つ。


「なんやなんやお二人さん、ある意味注目の的になっとるで?」
「あああ白石くんんんん…!!」


助けが来た!!ありがとう神様!!
苦笑を浮かべていた白石くんは精市の影に隠れていた私に気づくと、え、と驚いたように目を開いた。


「苗字さん!?なんでここに、もしかして幸村クンが声掛けてくれたん?」


明るく精市を振り返った白石くんに返ってくるのは無言の微笑み。
えぁ、とたじろいだ白石くんは、精市と、それから不二くんの顔色を交互に窺ってからまた私に視線を戻して困ったように片眉を下げた。


「あー…なんや久しぶり〜なんちゅーとる場合やなさそやな…?」



* * *



「とりあえず精市、ごめんなさいだろとか言ってごめん、ほんとごめん」
「ほんとにね」
「全部不二くんが悪いね」
「酷いなぁ、僕は苗字さんに会いたかっただけなのに」
「嬉しいんだけどもっとこう、ねぇ、ね???」


ハハ…と白石くんが乾いた笑いを零した。


「まぁ俺も苗字さんとはまた話したい思ってたから、丁度ええわ」
「えっホンマですか?」
「中々会える距離でもないしなぁ。せやから、俺としては今日は不二クンに感謝やな」


ファインプレーっちゅーやつや、と白石くんが不二くんに向けて親指を立て、不二くんはどういたしましてとにっこり。
私の横では精市が全てを諦めたような大きな溜息をついた。


「ていうか精市、さっきから思ってたんだけどさ」
「…何?」
「私来ない方が良かった?」


不二くんと白石くんからは全く感じない、私がここにいる事をよく思っていなさそうな空気を纏う精市。
わざわざ回りくどいことをしてまで誘ってくれた不二くんと、素直に喜んでくれている白石くんがいる手前、こそこそと精市に聞けば彼は少し困ったような難しそうな表情を浮かべた。


「いや…そういうのじゃなくて…」
「帰った方がいいなら帰るよ?元々は3人で約束してたんだし」


精市は、あぁもう、と再度ため息混じりに私の頭にぽすんと片手を置いた。


「だから、そういうのじゃないんだってば。もう気にしなくていいよ。折角来たんだし、名前も一緒に行けばいいでしょ」
「んー…でも精市、気に入らなさそうな顔してたしぃ…」
「俺が気に入らないのは不二と白石がここにいることだから大丈夫」
「いや"大丈夫"じゃねーわ今日の本命だろその2人」


元々そこで約束してたんじゃないのかよお前。
全くもって意味が分からないんですけどあなたが大丈夫?


「あぁせや、苗字さん」
「ん?何?白石くん」
「折角やし連絡先教えてくれへん?」
「あ、いい」
「ちょっと待ちなよ白石。何勝手にうちのマネージャー誑かそうとしてるの」


どう見ても誑かされてませんけど目大丈夫ですか?


「ハハッ、苗字さんはいい言うとったで?」
「俺には聞こえなかったけど?」


ぱちりと精市と白石くんの間で小さな火花が散ったような気がした。
……あれ?白石くん、アレ……?
その爽やかなスマイルの向こうに見え隠れする何処と無く馴染みのある影はナニ…?


「ねぇ苗字さん」
「アッハイなんでしょう不二くん」
「良かったら一緒に写真でも撮らない?」
「あぁ、いい」
「ダメに決まってるでしょ俺に許可取ってからにして」
「お前は私のマネージャーか。いや私がマネージャーなんだよ」
「あっはは!ナイスセルフツッコミ!タイミングもテンポも完璧やったで、苗字さん」
「関西はちょっと黙っててくれないかな」


もうなんなんすかこの3人…
え、帰ろうかな…
ススス、と後ずさる私の肩を、まるで狙った獲物を掴む鷲のように精市の手が掴む。


「何帰ろうとしてるの?」
「ヒェ」
「帰るなんて言わないよね?苗字さん」
「アッ」
「せやで?折角来てくれたんやし、楽しもや」
「ハイ…」


変なところで波長合わせんのやめてくれ。





(おっ!毒草コーナーもあるやん!苗字さん、行かへん?)
(白石くん毒草好きなの?)
(せや、毒草っちゅーのはオモロいでぇ。大体のは説明も出来るし、どや?)
(あ、サボテンコーナーだ。苗字さん、行かない?)
(あぁ、不二くんはサボテン好きなんだよね。それは知ってた)
(キミに知ってもらえてるなんて嬉しいなぁ)
(ちょい待ち不二クン、俺が先やったやろ)
(決めるのは苗字さんだよね?)
(名前、あっちでバラのアイス売ってるよ。甘さ控えめでサッパリしてるって)
(えっ食べてみたい行こう!!)

(残念だったね)
(フフ…勝ち誇ったような顔が出来るのも今のうちだよ)
(花より団子って、苗字さんらしいわ…)



back