かくれんぼ


「あの野郎…また練習に来ねェでフラフラと…!!」


ひぇぇぇ…
お頭様が激おこです、やばいです、怖いです、顔が。
彼の怒りの行先はもう名前を聞かなくても分かる。
越前リョーガ。
ここU-17合宿所の一軍の一人、そして、青学一年生の越前リョーマくんのお兄さんだ。
一軍といっても彼は高校生ではなく私と同い年で、どうやらちょっとした特殊な経緯があって中学生組とは別でここの合宿に参加しているらしい。


「あ、あの…私、探してきますね…」


もう何度目かになるセリフを言えば、お頭様はチッと舌打ちをしてからギロリと私を見下ろした。
ひぇぇ怖い怖い怖い…!!


「…悪ィな、頼む」
「滅相もないです…!」


言葉は優しいのに顔は怖い…!!
お頭様が実は優しいのはもう承知だけど、やっぱりこの瞬間のその顔は怖い。


「ブン殴ってでも連れて来い」
「は、はぁい…」


殴れるか。



* * *



「リョーガくーん!どこー!」


このセリフももう何度目だろうか。
今までにリョーガくんを見つけた場所を巡って探し歩いているものの、今日はまだ彼を見つけられないでいる。


「今日のかくれんぼは難しいなぁ…」


幼少期には友達とよくしていたかくれんぼ。
中学に入ってそんな遊びもめっきりしなくなってしまったけれど、まさかこの合宿所に来てかくれんぼの鬼をやらされ続けることになるなんて思ってもいなかった。
覚えのある最後の場所を覗いて、うーんと眉を寄せた。


「ここにもいない……合宿所広すぎだよもう…」


あとリョーガくんがいそうなのは…
振り返った少し先には、木が鬱蒼と覆い茂る森がある。


"あっちに森があんだろ?あそこにな、俺のとっておきの場所があんだぜ"
"森!?至兄さんからは極力入るなって言われてるし、危ないよ…!"
"んな深いとこじゃねーからダイジョブだって。今度連れてってやるよ"
"…うーん…危なくない所なら…"
"決まりだな!"


至兄さんには、万が一森に入る時は必ず誰かを連れていくように言われたけれど…
そんなに奥までは行かないだろうし、入り口辺りをちょっと探すくらいなら、と、私は足早に森へと向かった。


「リョーガくーん…いたら返事してよ〜…」


パキパキと小枝の音を立てながら森へと足を踏み入れていく。
すぐに合宿所の建物は見えなくなり、昼間なのに陰るここに自然と声のテンションが落ちてしまう。
なんか変な生き物とかいないよね、大丈夫だよね…?
急に落とし穴とかあったりしないよね…!?
恐る恐る足を進めていきながら口元に手を当ててリョーガくんの名前を呼び続けるが、辺りは自然の音がするだけで彼からの返事は無い。


「っもぉー!どこ行ったんだあの人は…!」


バサバサッと突然の鳥の羽ばたきにびくりと肩を揺らし、挙句の果てには自分で踏んだ枝の音にも驚いて足を止め……ちょっともう戻ろうかな…
探してくると言っておいて見つかりませんでした、なんて…お頭様には誠心誠意謝ろう…
これで実は私と入れ違いでコートにいました、なんてことがあったら怒るぞ…!

ため息を零して合宿所の方を振り返り、トボトボと数歩歩いたその時、突然私の両肩が何かに掴まれ、


「わっ!」
「っぅぁああああ!!?」


驚きに体制を崩し、半分パニックのまま私の身体が傾いていく。
もう何もかもが分からなくなって、咄嗟に目をつぶって体を縮こませることしか出来ない。


「っと…!」


とさりと小さな衝撃。
私の体は倒れることなく何かに支えられていて、目を開いてその何かへ視線を向ければ、


「ワリィワリィ、んな驚くとは思わなかったぜ」


悪びれる様子もなくけらけらと笑いながら私を見下ろすリョーガくんがいた。


「りょっ、ぁ、あ…!!」
「んん?なんだって?」
「み、見つけた…!!」


きょとんと目を丸くしたリョーガくん。
彼はすぐにプッと吹き出すと、私の体制を整えてからいつもの様に乱雑に私の髪を掻き回した。


「お前、あんだけ驚いておいて最初に言うのがそれかよ」
「ちょっ…!?ボサボサになる…!」
「見つけたんじゃなくて、見つかりにいってやったんだっての」
「えぇ!?」


あんなに驚くとは思わなかったぜ、と笑うリョーガくんをひと睨みしても、やっぱり少し悪そうな笑みが返ってくるだけ。


「っていうか…!お頭様が激おこだよ!早くコート行きなさい!」
「ん〜、名前、なんかこう上手いこと誤魔化せねぇか?」
「もう何回目だと思ってんの…!!」


初めの頃はリョーガくんにこんなにサボり癖があるとは思いもせず、中学生達に頼まれ事をされてるみたいで、とか、ちょっとお腹が痛いらしくて、とかありもしない逃げ道を作ってはいたものの…


「これ以上は私がお頭様に怒られるから無理…!」
「怒られる時は俺も一緒に怒られてやるからよ」
「私が怒られる必要ないよね!?」
「連帯責任っつーだろ?」
「なんの!?」


カッカッカ、と豪快に笑うリョーガくんは、こうやっていつも私の言葉をひらひらと交わしていく。
くそう…!いつかからかい返してやる…!


「っわ、」


突然ポンッと頭に大きな手が乗って、折角整えた髪をまたぐしゃぐしゃにされた。
もういいや…直す気も起きない…


「んな顔すんなって。折角の可愛い顔が台無しだぜ?」
「な、っだ、誰のせいで…!!」


こうやってサラリと恥ずかしい言葉を言ってくる所も、リョーガくんの悪い所だと思う。
顔に集まりつつある熱をなんとか振り払い、もう!と彼の手首を掴んで合宿所の方へと歩き出せば、


「おいおい、そっちは逆だぜー?」
「えっ」
「ックク、嘘だけどな」
「〜〜っ…!!あああもう!!リョーガくんのいじめっ子!!」


先程とは別に顔に集まる熱を彼の視界から消し去って、未だにけらけらと楽しそうに笑う彼の腕をひたすら引っ張った。
ほんとに…!!いつか仕返ししてやるからな…!!

ちなみにこの後リョーガくんはやはりお頭様に怒られたのだが、相変わらずヘラヘラとお頭様のお言葉を交わしていた。
心中お察ししますお頭様……


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