朝食


朝練を終え、たまたま居合わせた中学生組と食堂に向かう途中、突然私の体がぐらりと前に傾いた。
慌てて足を踏み出すも倒れることはなく、ずしりと肩に重みが増す。


「…修さん、重いです」
「お、よー分かったやん」


えらいえらい、と撫で回される頭。
こんなことしてくるの貴方くらいなんでね、分かりたくなくても分かりますよ。


「いい加減急にのしかかるのやめてください」
「それは出来ひん相談やなぁ」


自分で乱した私の髪を整えるように、さらりと修さんの指が髪を梳いていく。
このスキンシップ魔人め…
流石にこう何度も何度もされれば慣れてくるものだけど、女子中出身の私としては対応に困るのもあるもので。


「…離れてください。てか、竜さんはどうしたんですか」


ん〜、とふわっとした返事をしつつ、素直に私から修さんが離れていった。
消えた肩と背中の熱と重みに内心ほっと一息…と思えばがしりと腕が捕まれ、


「んじゃ、名前は貰ってくで☆」
「どうして!?」
「油断しとったやろ〜?」


HAHAHA☆という笑い声が、私と中学生組をどんどん引き離していく。
こらそこ!何が「今日も平和だね」だ!助けて!?
そんな私の心中なんて察してくれる訳もなく、微笑ましそうに手を振る中学生組に、ほな〜、と軽く言った修さんは、私をずるずると引きずるように食堂へと向かっていくのだった。
竜さああああん!!助けてええええ!!!



* * *



「毎回毎回修二が悪ィな…」
「いえ…もう慣れたんで…」


呆れたように竜さんがじとりと視線を送る先では、テーブルに頬杖をつく修さんがにこにこと私を見ている。
めちゃくちゃ食べにくいんですが…


「せやかて、竜次も名前とご飯食べたいやろ?」
「…まぁ、な」
「えっ、竜さんとなら朝昼晩毎日一緒に食べます!むしろ食べさせてください!」
「えっ、ちょ、俺にも食べさせてくださいって言うてアダッ!?」
「テメェはちったァ自重しやがれ」


おぉ…痛そう…
酷いわぁ、と竜さんから殴られた肩を擦りながらも、へらりとした笑みを浮かべる修さん。


「かわええ女の子から食べさせてくれなんて、男のロマンやんか」
「はっ倒すぞ」


一緒に食べるのがロマンとは、え、修さんて実はこう見えて案外奥手…?
いや、絶対無い、有り得ない。
なぁなぁ言うて〜、と全く引く様子のない修さんと、わなわなと拳を握る竜さんに、まぁ言うだけならいいか、と折れた私。


「はいはい…修さんも一緒に食べさせてくださいー」


が、修さんはうーんと首を捻った。


「ちゃうで名前。修さんも一緒に、はいらん」
「言わなくていいし。黙って食ってろ」


はい…?食べさせてください、だけってこと?要望が多いな…
でも多分言わないと一生このままな気がするし、竜さんが疲れるだけだし。
それは勘弁だし。


「食べさむぐっ」


はいそこまで、という声と共に、後ろから生えてきた手に口を塞がれた。
すぐに離れていく手を追って振り返れば、


「奏多さん!」
「ダメだよ名前ちゃん、修さんの言ってること真に受けちゃ」


少し怒っているような奏多さんと、その後ろには呆れた様子の十兄さん、それからいつも通りのクールビューティな徳川さんもいる。
安心感を覚えるいつもの三人組だ。


「ちょお奏多、止めんといてや〜」
「入江か…助かった」
「全く…名前ちゃんも修さんも、迂闊に目が離せられないね?」


修さんはともかく私もですか?おかしいな?
ちぇ、と口を尖らせる修さんを他所に、奏多さん達も手持ちのトレイをかたりとテーブルに置いた。

少しの間皆で話しながら食事を進めていると、


「あ、おったおった!」


聞こえた明るい声に振り向けば、トレイを持ったじゅさくんとツキさんが近づいて来る。


「なんやお二人さん、遅かったやん?」
「月光さんにちょっとだけ打ち合い付き合うてもろてたんですよ」


言いながら、空いていた席に二人がトレイを並べた。
新しく二人が加わったテーブルはいつの間にか大所帯になっている。
あ、これここのテーブルだけで団体メンバー組めるぞ。
しかも普通に強いのでは。
D1に修さん竜さんで、D2にツキさんじゅさくん、S1は十兄さんかな、S2とS3はどっちにしよう…いや…二人のことだしS1を徳川さんに譲りそうだなぁ…


「おーい、名前ちゃーん」
「っはい!!」


突然ひらりと視界を横切ったのは修さんの手だったようだ。
大袈裟な程に体を揺らしてしまった私を、けらけらと面白そうに笑った。


「驚き過ぎちゃう?何考えとったん」
「あ、その、ここのテーブルで団体メンバー組めるなと…めっちゃ強そうだなぁと…」


ほ〜ん?と、修さんの視線がメンバーを一周し、また私に帰ってくる。
奏多さんはいつも通りにこにこしてて、徳川さんはちょっと驚いてるみたいだけどやっぱりいつも通り、十兄さんは満更でもなさそうな顔をしている。
ツキさんは微動だにしないが、じゅさくんはその隣で楽しそうな笑みを浮かべていて、竜さんも、ほぉ、と口元が上がっていた。


「一軍ならぬ、名前軍てとこやな」
「え!?それじゃ私がリーダーみたいじゃないですか!?」
「俺らは名前の選抜メンバーっちゅーことなんやから、当たり前やん?」


いいじゃねぇか、と十兄さんが笑った。


「案外、行く所まで行けたりしてな」
「絶対いけますよ!皆さんめちゃくちゃ強いんですから!」
「名前ちゃんにそう言われたら、もっと頑張らな思いますね、月光さん」
「そうだな」


そんな会話をしながら朝食タイムは続いていく。
その場のノリで決められたオーダーは、あの二人によってやっぱりS1に徳川さんの名前が挙げられたのだった。


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