お兄さん達


本日は練習がお休みの日。
という事で昨日から爆睡をかまし、しっかり二度寝もして、いつもより大分遅い時間の起床です。
寝すぎてまだぽわぽわする頭で身支度を整え、軽食でも食べに行こうとカフェに向かっていた途中、


「お、名前じゃねぇか」
「んぇ」


呼ばれて振り返れば十兄さんと奏多さんがいらっしゃいました。
徳川さんは…自主練かな?


「おはようございま、…こんにちは…?」
「ふふっ、起きたばっかりかな?…あれ、」


ふと何かに気づいた様子の奏多さんがこちらに近寄ってきて、すっと私の頭の後ろ辺りを指さした。


「寝癖、直し忘れ?」
「えっ!?」


慌てて指された辺りへ手を持っていけば、くすくすと笑う奏多さんと、呆れたように笑う十兄さん。


「なーんてね。冗談だよ」
「な…、っもー!焦りました…!」
「ごめんごめん。でも、寝癖があってもそれはそれで可愛いんじゃない?ね、鬼」
「フッ、寝癖が似合いそうだもんなァ、名前は」


寝癖が似合うってなんですか!!

そのまま話をしていればどうやら二人もカフェに行くようで、有難いことにご一緒させてもらえることに。
ちなみにさっきまで徳川さんも一緒に朝練をしていたらしく、徳川さんは越前君達との打ち合いが終わったら合流するんだとか。

微妙な時間だったからか、カフェ内には誰もいない。
先に注文を済ませ、私はサンドイッチとココアが乗ったトレイを、二人はそれぞれドリンクだけ持って、適当な四人席に腰掛けた。
のほほんと他愛もない話をしながらサンドイッチを食べていれば、ふと目が合った十兄さんがくくっと低く笑う。


「?」
「いや…かえでみてぇだなと…」


かえで、っていうと、十兄さんのペットのハムスター…で…?


「んん…?それはあの、私がハムスターに見えると…?」
「そうじゃねェが、違うとも言い切れねェな」
「どういうことですか!?」
「見てて飽きねェ妹が出来た気分だ、ってとこか?」
「ふふっ」


なんだか上手く丸め込まれたような気もするが、そう言われて悪い気はしない。
ていうかむしろ十兄さんがほんとのお兄ちゃんだったらそれはもう毎日遊んでくれそうだし、楽しいんだろうなぁ…


「妹と言えばさ、」


そう言い出す奏多さんに顔を向けた時、奏多さん越しに映るカフェの入口から今まさに入ってきた人影。
私の視線の動きにすぐ気づいた奏多さんが振り返り、お疲れ様、とそちらへ朗らかな声をかけた。


「お待たせしました。苗字さんも一緒だったんだな」
「偶然お会いしまして。お邪魔してます」


相変わらずクールビューティな、と思えば、私の言葉に応えるように僅かに笑みを見せた徳川さんがサッとカウンターへ向かっていく。
少し離れていて良かったと思いました。
不意打ち心臓に悪い。


「そ、そうだ、奏多さん」
「ん?」
「さっきの、妹と言えば、って…?」


徳川くんが戻ってきたら話すよ、と言われ、自然と視線が徳川さんへと向く。
思えば徳川さんの後ろ姿をまじまじと見るのは初めてかもしれない。
スタイルいいなぁ…足なっが……うわ、頭ちっさ……


「!」


くるりと振り返った徳川さんとばっちり目が合った。
慌てて目を逸らしてしまったが、逆に変に思われたかもしれない。
うわあああ自分の馬鹿!なんでもない風を装って何頼んだんですかーとか声かければ良かったのに!


「どうかしたか?」
「なっ、なんでもないですどうぞ!!」
「?そうか、ありがとう」


空席だった隣の椅子をがたりと引けば、徳川さんは不思議そうにしながらもそこへと座った。
目の前からの奏多さんの押し殺すような笑い声が地味に心にぐさぐさくる。


「それで、さっきの話の続きなんだけど」
「は、はい」
「名前ちゃんて、徳川くんのことどう思ってるの?」


……はい?
思わずぽかんとしてしまった私の隣で、徳川さんも口に運ぶ途中のドリンクが空中停止している。


「い、入江さん…?」
「あぁ、変な意味じゃないよ?単純に気になってね」


ひらりと奏多さんの手が十兄さんへ向けられ、


「鬼は名前ちゃんからしたらお兄ちゃんみたいな感じでしょ?兄さんて呼んでるくらいだし」
「そう、ですね…?十兄さんがほんとのお兄ちゃんだったら楽しいだろうなぁとはよく思います」
「改めて言葉にされると照れるが…まぁ、嬉しいもんだな」


今度は自身の胸へとそっと翳し、こてりと首を傾げる。


「僕の事は?」
「奏多さんも優しいお兄さんです!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、徳川くんはどうなのかなーって」


どう、と言われても、私からしたら高校生組は皆お兄さんなんだけどな…?


「徳川さんもお兄さんですよ?」


当たり前のように口から出た言葉に、奏多さんが徳川さんへ、だって、とにっこり笑う。
だって、なんて言われても、ほら、徳川さん反応に困ってるじゃないですか…!


「あ、あの、私が勝手に思ってるだけなので…!」
「だが徳川、お前この前名前みてぇな妹がいたらいいって言ってたじゃねぇか」 
「っ鬼さん…!?」
「え」
「いやっ、…た、確かに言いましたけど…」


まさかすぎるカミングアウトにじっと徳川さんを見つめれば、きまりが悪そうに視線が逸らされた。
徳川さんにとって私はただの合宿所のマネージャーとだけの認識で、良くも悪くも何とも思っていないと思ってたから正直びっくりである。


「それでさ、名前ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」


そう言って私にだけ見えるようにスマホの画面を向けてきた奏多さん。
お願い?とその画面を覗き込んで、また奏多さんを見れば、相も変わらずにっこり笑顔。
え、これを言えと…?
まぁいいですけど……事故ったら責任取ってくださいよ。


「えっと…あの、」


服の裾をちょいちょいと引っ張れば、どうした、と少し視線をさ迷わせながらも徳川さんはこちらを向いてくれる。
元気よく、だよね、よし。


「カズ兄、朝練お疲れ様!…です!」


ピシ、と徳川さんが固まった。


「えっ?と、徳川さん!?ちょ、奏多さん…!!」
「あはははっ!大丈夫だよ、そのうち戻るから」
「いや事故です事故!!どうするんですかこれ!?」
「…ある意味、事故か…?」
「徳川さあああああん!!?」


その後、暫くして徳川さんはいつものクールビューティに戻りはしましたが、私と会話はしてくれるものの何故か目を合わせてくれなくなりました。
奏多さんは、照れてるんだよ、なんて笑ってましたが、完全に事故です。
奏多さん、恨みます。
徳川さん、すみませんでした。


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