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ランキング戦はABCDの4つのブロックに分かれ、4コートで同時に試合が行われる。
なので流石に体一つで全試合を見れる訳もなく、毎回総当り表を見て私が客観的に残そうと思った試合を記録するようにしている。
レギュラー同士の試合は勿論だが、伸びしろがありそうだなと思った人同士の試合をなるべく沢山見るようにしていた。
ちなみにレギュラーVS他の部員の試合は一方的すぎるからあまり見ていない。
といってもたまにちらちら様子を伺いはするけれど。
リョーマの試合も見たい気持ちはあったが、レギュラー以外との試合は恐らく予想通りの結果になるだろうからあえてまだ見ないようにしていた。
Aブロックでの試合記録が終わり、次は…と足を向けようとすれば、2年生の池田くんがたたたっと走り寄ってくる。
「名前先輩、次の試合から代わります!よかったら休憩してきて下さい」
「助かる〜、ありがとう。じゃあCブロックの次の試合の記録と、それがもし早く終わったら…そうだなぁ、Bブロックの桃の試合、終わってなければ途中からでもいいからお願いしてもいい?ちょっとでも足気にしてる素振り見せたら書いといてくれると助かる」
「あぁ、捻挫のコトですよね。分かりました、バッチリ見ときます!」
記録用のもろもろを池田くんに渡して部室前のホワイトボードの元へと向かえば、私に気づいた秀がファイルを捲っていた手を止めた。
「お疲れ〜」
「お疲れ様。休憩?」
「うん。その前に見に来た」
「主に、Dブロックかな」
「当たり〜」
ホワイトボードに近づき、Dブロックの総当り表へと視線を落とした。
そこに並ぶ名前の一番最後にはリョーマの名前が書いてある。
横へと視線を動かせば、6-0と既に記入された2つの欄。
「凄いね、彼」
私の小さく笑った声が聞こえたのか、秀が少し困ったように言った。
「さっき試合結果の報告に来てくれたけど、全く疲れてなさそうだったよ。俺もうかうかしていられないね…」
「シングルスはやってみないと分からないけど……ふふ、ダブルスだったら秀達には絶対勝てないから大丈夫だよ」
「そうかな…?名前ちゃんにそう言って貰えると自信が出るよ」
少し前に越前家のコートで私とリョーマVS南次郎さんで打ち合いをした時のことを思い出した。
うん、リョーマは絶対シングルスだ。
ダブルスには全く向いていないことだけは分かる。
「2人共、お疲れ」
ふと聞こえた声に振り返れば、そこにはいつものノートを小脇に抱えた貞治が立っていた。
「乾、お疲れ」
「お疲れ。今終わったの?」
「ああ。大石、交代するからメシ行っていいよ」
ペン立てからペンを取った貞治が私と入れ違うようにDブロック表の前に立ち、キュキュ、とペンを走らせた。
「どうだい?試合の調子は」
「ああ、ほぼイメージ通りに勝ててるよ」
彼の欄に新しく6-0という数字が追加された。
ペンにキャップをした貞治が、トントン、とボードを叩く。
「でも、あの1年も予想以上にやるな。まだ1ゲームも落としてない」
「お前と同じDブロックだったな。あの子も可哀想に」
果たして、そう言い切れるだろうか。
うちのレギュラー陣は強い、それは確かだ。
でも、それと同じくリョーマも強い。
どちらもまだまだ成長を続けるこの段階で、果たしてどんな試合になるのだろうか。
「レギュラー陣とリョーマの試合、楽しみだなぁ」
「おっと、名前はあの1年の応援かな?」
「んーん?皆!」
「ははっ、名前ちゃんだもん、そりゃそうだ」
秀と入れ替わるようにして貞治がパイプ椅子に座った。
そっと彼のノートが机に置かれ、そのノートが苦手だと言う秀はじりりと後ずさる。
ちなみに私は興味しかない。見せてくれないけれど。
「もうリョーマのデータも取ってるんでしょ?只今の勝率は?」
ふむ、と貞治が閉じられたノートに視線を落とす。
「今のところは一方的すぎてあまり正確じゃあないが、92%と言ったところかな。この次の彼"ら"の試合を参考にして、もっと煮詰める予定だよ」
「へぇ?」
「フフ…俺より前に、厄介な相手がいるだろう。2年に」
ちら、とDブロックの対戦表を見た。
貞治の下に書かれている名前は…
「ケンカ売ってんスか……先輩」
ホワイトボードの向こうから聞こえた声に、えっ、と後ろを覗き込んだ。
今まさに聞こえた声の主であり、次のリョーマの対戦相手でもある薫が、大きな木の根元にどかりと座っていた。
「薫、いつからいたの…?」
「…ずっといたっス」
「ウソ…全然気づかなかった…」
「フフ、気配を消す様はまさに蛇のようだね、海堂」
「……ケンカ売ってんスか」
「いいや全く」
フシュー、と息を吐く彼の後ろ姿に笑いかけた。
「次の試合、見に行くから頑張ってね、薫」
「ッス。誰が相手だろうと、負けません」
さて、と私は秀に向き直る。
「遅れたらやだから、ぱぱっとご飯食べちゃお!」
「そうだね、行こっか」
* * *
「卵焼きもーらいっ!」
「あっ!?言ってくれればあげるのに…」
「んん…!秀ママの卵焼き美味しいね!」
「本当?母さんも喜ぶよ。今度多めに作ってもらおうか?」
「え、いいの?お礼何がいいかな」
「気にしなくても大丈夫だよ」
「紅茶とかどう?」
「…ふふ、喜ぶと思うよ」
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