お昼休憩も終わり、まずは池田くんのいるであろうBブロックコート前へ向かった。
わぁと盛り上がるそこでは丁度試合が終わったところらしく、コートでは桃が試合相手と握手をしている。


「あちゃ〜、桃の試合終わっちゃったかぁ」
「名前、お疲れ様」
「お疲れ〜」


桃の試合を見ていたらしい周助と英二に軽く挨拶を返せば、周助がにこりと笑った。


「桃の足、大丈夫みたいだよ」
「そっか!良かった」
「今回は間に合わないと思ったのになぁ」
「こら英二」
「はぁ〜ぃ」


むむぅ、と口を尖らせる英二はきっと、桃と同じBブロックだからなんだろう。
素直な英二だからこそ、そういう事をさらっと言ってしまうくらいには桃を危険視しているのだと分かるから、そんなに強くは怒れずに苦笑してしまう。


「池田くんお待たせ!ありがとね、代わるよ」
「お疲れ様です!桃の試合、途中からなんですが大丈夫でしょうか…」


そう言って渡してくれたバインダーを見てみれば、とても分かりやすくきっちりと記録が取れている。


「ばっちり!助かるよ」
「よかったです…!あ、桃の足も大丈夫そうでしたよ」
「うん、そうみたいだね。良かった良かった」


Dブロック前に歩き出しながらぱらぱらと流し見する限りでも、今日の桃は絶好調そうで安心だ。
…と、ふと顔を上げた先に、リョーマがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「リョーマ」


名前を呼べば、彼がちらりと上目に私を見る。


「ぐっどらーっく」
「…ん」


小さく返事をしてすれ違って行ったリョーマが、キィ、とコートへのフェンスゲートを開けた。



* * *



「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ!越前 サービスプレイ!」


ついに薫とリョーマの試合が始まった。
言わずもがな、見物人の数は相当なものだ。
リョーマがトスを上げ、サーブを放つ。
素早い球のラリーが続き、少し体制を崩した薫がチャンスボールを上げてしまった。


「………」


高く上がったボールをしっかりと捉え、リョーマがスマッシュを打ち込んだ。
ふわりとリョーマの帽子が頭を離れていく。
薫はそれを打ち返したものの、僅かにスイートスポットを外して打たれた球は勢いよくネットに当たり、そして薫のコートへと落ちた。


「惜し〜」


しんと静まり返った場に、なんとも呑気な私の声だけが消えていく。
ちょっと恥ずかしい。


「…す……」


誰が絞り出すような声を漏らし、


「すげぇえ!!ハイレベルな試合だぜ!!」
「瞬きしてたら見逃しちまいそうだよ!!」


一気に盛り上がりを見せたこの場にびくりと肩が跳ねた。


「やっぱり!!越前君だって全然負けてないよ!!」


すぐ近くで聞こえた聞いたことのある声に振り向けば、先日部室でリョーマと一緒にいた仲良し3人組が並んで試合を見守っている。


「…で、でもまだ海堂先輩のアレが…」
「へぇ、堀尾くん、知ってるの?」
「「「名前先輩!!」」」
「面白そうな話が聞こえたから声掛けちゃった」


聞いた話によれば、なんでも加藤くんが薫の1つ前の試合のビデオを撮っていたらしく、彼らはそれを見たそうだ。
なんとも有望な1年生が来てくれたものだ。
私も後で見せてもらおうかな。


「で、でも越前君は興味無さそうで…」


加藤くんの声を遮るように、ドッ、と打球音が聞こえ、自然と私達の顔はコートを向く。
リョーマが薫のレシーブをサイドへ返し、


「越前、上手く逆をついたぞ!」
「決まったー!!」


誰もがそう思った、のだろうが。


「来るよ」
「「「え…?」」」


薫が腕を大きく振り抜く。
とてつもない回転がかけられたその返球はギュルリと弧を描き、リョーマのコートのネット際を叩いてサイドへ跳ねた。
驚き等でザワつく周囲を他所に、私の口元は上がっていく。
去年私が薫と初めて打ち合った時に見せた短いバギーホイップショットもどきを、彼はこの数ヶ月で見事に自分のモノとしてみせたのだ。
しかも、そのリーチを活かして何倍にも威力を上げて。


「あのビデオに映ってたやつだ…!!」
「あれが海堂のスネイク!」
「「「桃城先輩!?」」」


突然聞こえた声に1年トリオと一緒に振り向けば、受付に報告を終えたのであろう桃が立っていた。


「"桃ちゃん"でいいって。っつーか名前先輩!来るの遅いッスよ!」
「ごめんごめん、後でちゃんと記録見返すよ」


持っていたバインダーをとんとんと叩きながら言えば、応援して欲しかったと拗ねたように口を尖らせた。
なんとも素直で可愛らしい後輩である。


「あ、あの…」
「ん?」
「スネイク、って…?」


横を見れば、恐る恐る尋ねてきた堀尾くんと、もう2人分の視線が私と桃に向けられていた。


「右足から左足へ体重が移動する瞬間に、ラケットを大きく振り抜き異常なスピン回転をかけるショット」
「リーチの長い薫だからこそ、ボールにあそこまでの急激な角度がかけられるんだよ」


桃の言葉を引き継ぎ、私はまた薫へと視線を戻した。


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