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「でも、授業が終わったことにも気づかないなんてね。何を考えてたの?」
改めて周助にも聞かれ、うーんと頭の中で考える。
「…今日は見たい試合が多いから、体がいくつあっても足りないなーって」
見たい試合?とタカさんが首を傾げた。
「確か…レギュラーだと今日は手塚と大石、菊丸と桃、それから…」
「レギュラー同士の試合だけじゃないよね、名前は」
「今日俺と試合予定の、例のルーキーだろう」
「…まぁね」
国光が上手く試合開始時間を調整してくれてはいるだろうが…
それでも、3試合丸々見れるとは思えないし、しかもCコートも見ておきたいし…と考えるとやっぱり体が4つは欲しい。
「おチビちゃん、昨日は海堂に勝っちゃったけどさぁ?なんてったって今日はあの乾が相手だもんな〜」
英二がちらりと貞治を見れば、貞治はふふふと笑って傍らで閉じられているノートへ目を落とした。
「勝率は95%ってところかな」
「昨日より3%上がってる…」
「昨日の海堂戦を見て練り直した結果だよ」
相変わらず怖〜と英二が肩を竦めた。
ところで、と貞治が目線を上げ私を見る。
「名前が考え込んでたのはそれだけかな?」
うん、相変わらず怖い。
「ほんっと、お見通しだね。主にDブロックのことだよ…」
出来ることなら、貞治も薫もレギュラーでいてほしい。
そして、リョーマもレギュラーになってほしい。
でもそれはどうしても叶わない願望だ。
「どんな結果になっても、しっかり見届けようとは思ってるんだけどね…」
「やはり俺の予測は当たっていたよ」
「え?」
「名前が気を使うんじゃないかと思って、海堂と、ついでに桃城もこの場に来ないようにしたんだ」
なーるほどなぁ…
うちのデータマンは相変わらず先を読む力が素晴らしいことで。
「…お気遣いどうも」
「どういたしまして」
* * *
お昼休憩も終わり、私達は教室に戻った。
5限目までまだ少し時間がある。
「…秀はどう思う?」
「Dブロックのこと?」
「うん…」
そうだなぁ、と秀が目を伏せた。
いつしか青学の母と呼ばれるようになっていた彼は、誰よりも部員のことを常に考え、心配し、時には頭を悩ませている。
秀は、誰が勝ちそう、みたいな予想はしているんだろうか。
「今まで同じ時間一緒にやってきたから、勿論乾への信頼は厚いし、勝つと思うし、勝って欲しいよ。…でも…」
「でも?」
「海堂には、負けを踏み台にする力があるのは名前ちゃんも知ってるだろう?」
「それはね…」
薫らしく這い上がっておいで、と伝えた時の彼の闘志に燃えた目は、必ず何かを起こしてくれるであろう期待を持たせてくれた。
「それに、越前も間違いなく強い。名前ちゃんが推すくらいだし…昨日の海堂戦を見て改めて彼の強さを知らされたよ」
ちょっと悔しいけどね、と秀は苦笑した。
「正直誰が勝ってもおかしくない。出来ることなら3人ともレギュラーであってほしい、っていうのが俺の個人的な意見かな」
「…うん」
やっぱり、秀も私と同じようなことを考えていたんだ。
「私ね、思ったんだけど…」
と、タイミング悪く予鈴が鳴り響いた。
「ごめん、次の休み時間までに話すことまとめとく!」
「え!?それって授業中…!?」
「考えてないと逆に落ち着かなくてさぁ」
「まぁ蒼ちゃんなら心配はないだろうけど…ほどほどにね」
* * *
貞治と薫とリョーマをDブロックにまとめたのは国光だ。
絶対に理由があるはず、と考えた先にたどり着いた私なりの答え。
薫は今まで貞治と何度か戦ったことはあるが、一度も勝ったことは無い。
貞治に対しては相当な敵対心があるだろう。
そしてそこに、リョーマという新しい芽を混ぜ込んだ。
多分この組み合わせは、国光から薫へのある種の課題なのではないか。
来年の今頃、私達はもうここにはいない。
必然的に薫と桃が次の青学を背負っていくことになる。
都大会という大事なスタートを切るレギュラー決めにもなるこのランキング戦で、薫は貞治を倒すことが出来るのかを、国光は見たいのではないかと思った。
貞治も恐らくだが、なんとなくその意図を汲んでいるのではないだろうか。
私に気を使わせないために今日の昼休みは薫に席を外してもらったと言っていたが、それは薫、そして自分のためでもあるのかもしれない。
大事な試合前だからこそ、私情を挟む余計な顔合わせをすることなくコートへ向かうための。
そして、そんな2人と並べることで、リョーマの力量を見ようとしているのだろう。
水面下で熱く燃える彼らに、リョーマがどこまで着いていくのか、はたまた軽々と越えてしまうのか。
そう考えればこの組み合わせには納得出来るし、もしこれが合っているとするならば、早々にここまで考えていたのかと、流石は部長だと感心してしまう。
授業が終わってすぐに秀の元へ向かった。
「…なるほど」
「全部私の考えだから、あまり鵜呑みにはしないで欲しいんだけどね…」
「いや、…凄いね、名前ちゃんは」
…やっぱり3人共勝って欲しくなっちゃうね、と秀は相変わらずの優しさを全面に出して困ったように笑った。
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