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青春学園中等部 男子テニスコートーーー
「よしっ!今日も頑張ろう!」
「ふふ、そうだね」
「…あり?今日は名前いないの?」
「恐らく今頃、竜崎先生と一緒に柿の木坂テニスガーデンに向かっている途中だろう」
「あぁ、この前言ってたやつか。そういえば今日だったね」
「しっかし、竜崎先生と名前先輩がわざわざ見に行くってことは、つえーんスかね?その子」
「…フン、くだらねぇ」
「お前達、無駄話をしている暇があるなら早くウォーミングアップを済ませろ」
「はいは〜い」
* * *
「竜崎先生のお孫さん、ですか?」
ただ今私は竜崎先生が運転する車に揺られている。
向かうは先日竜崎先生からお誘いを受けた通り"柿の木坂テニスガーデン"なのだが、今日はもう一人一緒に見に行く人がいるそうで、どうやらその子は竜崎先生のお孫さんらしい。
今は柿の木坂に行く前の寄り道として、青春台駅にその子を迎えに行く所だ。
「あぁ、桜乃という女の子だよ。どうもおっちょこちょいな子でねぇ……来年青学に入学するから、何かあったら助けてやってくれ」
竜崎桜乃ちゃん、可愛い名前だ。
「はい、勿論です」
…にしても、彼は元気だろうか。
周助や国光には同じように背中を押してもらったけれど、やっぱり不安要素は拭えない。
少し顔が合わせ辛いところもあるけれど、久しぶりに彼のテニスが見れると思うと楽しみでもある複雑な心境だ。
「…元気かな、リョーマ」
「南次郎が言うには、昔と変わらずくそ生意気なガキだとさ」
「んふふ、南次郎さんも元気そうでなによりですね」
「まぁね」
青春台駅に着くと竜崎先生は私に車で待つように言い、桜乃ちゃんを迎えに行った。
すぐに戻ってきた竜崎先生の隣には、名前にぴったりな可愛らしい三つ編みの女の子が立っていて、車に乗り込みながらあわあわと自己紹介をしてくれた。
可愛いし、礼儀正しいし、とてもいい子だ。
「さて、少し遅れちまったから急ぐよ」
竜崎先生が車が発進させた。
私がいて緊張しているのか、桜乃ちゃんはどこかそわそわしたように竜崎先生をちらちらと見ている。
「今日の大会はどいつもこいつも小粒ばっかの試合だろうけどさ、アタシの教え子の息子が出場しててね」
「あのっ…」
「そいつは、後ろにいる苗字の知り合いでもあるんだよ」
「あ、あの、おばあちゃん…」
しかし、彼女の様子はどうやら緊張だけではなさそうだ。
「桜乃ちゃん、どうかした?」
「あのっ…そのっ、もし試合に遅刻しちゃうと、どうなりますか…?」
「遅刻?」
タイミング良く車が止まり、竜崎先生が口を開く。
「そりゃDefだね。"失格"さ!」
「ええっ!?」
「勝負の世界はシビアだからね…」
私達の返答に先程よりも慌てた様子の桜乃ちゃんは、私達が向かう方向とは正反対にくるりと体を向け走り出そうとしている。
「おばあちゃん、私あっち見てくるね!!」
そう言いながら彼女の足は前へと進んでいった。
「おかしな子だね。気をつけるんだよ!」
「…なんかあったんですかね?桜乃ちゃん」
「さあねぇ?」
ふぅ、と竜崎先生が小さく息を吐いた。
「さて……例の王子様はどーなってんだろうねぇ」
「受付はあっちみたいです。トーナメント表見に行きましょうか」
「そうだね」
もう試合が始まっていたとしても、そこに行けばコート番号が分かるだろう。
しかし、わくわくと足を進める私達を待っていたのは、彼の名前、"越前リョーマ"という文字の上にでかでかと書かれた"失格"の二文字だった。
「え、っと…?」
「どうなってんだい、これは…」
「と、とりあえずリョーマを探しましょ!」
慌てて会場内を探してもそれらしき人物は見当たらない。
あと探していないのは練習用コートの方だけだ。
まさかなぁ、と思いながらも竜崎先生と練習用コートへ向かえば、沢山の人がボールを打ち合っている。
その中で、どう見ても練習ではなく試合をしている様子のコートが一つ…
「…あ」
片方のベンチに高校生らしき三人組。
もう片方のベンチには、何故か桜乃ちゃん。
そしてネットを挟んで対面しているのは、ベンチの彼らと同じく高校生かと思われる男の人と、白い帽子を被った少年。
彼の活躍は父さん経由で聞いていたけど、暫く見ないうちに随分と大きくなったなぁ。
まぁ、向こうからしたら私もなんだろうけど。
「…やれやれ」
呆れたように笑う竜崎先生の後に続いて、私もそのコートの方へと向かった。
コートに近づいた私達の目の前で、少年が放ったサーブが相手のコートへ深く突き刺さる。
「う、うめーぞあのチビ!!」
そりゃそうだ。
なんてったって、小さい頃からあの人達と打ち合いをしているんだから。
その辺のただの高校生なら、彼にはまず勝てるはずがない。
「会場におらんと思ったらこんな所にいた。こまった王子様だ…」
キィ、と金網のフェンスドアが音を立てる。
「試合ほっぽって何遊んでんだか…」
「綺麗なフォームだね。アイツの親父にそっくりだよ!」
入ってきた私達に気づいた桜乃ちゃんが驚いたようにこちらを振り返った。
「おばあちゃん!!名前さん!!」
「驚いたねぇ。リョーマと桜乃ちゃんが一緒にいたとは」
「も、もしかして"教え子の息子"ってあの子なの!?」
「まあね」
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