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Dブロック前まで来れば、もうお馴染みのあの1年トリオがそわそわとコート内を見守っている。
私達の足は自然とそちらに向かっていた。


「3人共、リョーマの応援かな?」
「よっ」
「「「名前先輩!桃ちゃん先輩!」」」


声をかければ、お疲れ様です!とやっぱり息ピッタリな元気な返事が返ってくる。
しかし桃ちゃん先輩か、可愛いな。


「いよいよ3年レギュラーの乾先輩との試合なので…!」
「勝てたら越前君はレギュラー入りだもんね!」


レギュラー入り…
聞いたところによると、やはりと言うべきか国光も1年の頃からレギュラーだったらしい。
桃と薫も1年からレギュラーだったし、果たしてリョーマはその彼らに並ぶのだろうか。
しかも異例の、まだ仮入部の段階であるこの4月に。


「乾先輩って強いかな」


加藤くんの呟きに桃が、強いよ、と返した。


「3年の中でも強い。ここ半年間レギュラーから落ちたことないしね。ちなみにオレは苦手な相手だね」
「そもそも、貞治に対して得意な相手って言える人の方が珍しいんじゃない?」
「そうなんですか!?」
「あぁ、乾先輩は」


桃がそう言いかけた時、


「おーい桃、おチビちゃんの試合見てんの?」


桃の言葉に被せるように後ろからかかった声に振り向けば、いつの間にいたのか英二が立っていて、やっほー、と手を振ってくれた。


「あっ、エージ先輩!これからッス、越前の試合!楽しみで…」
「お前、今から試合だよ。オ・レ・と」
「えっ」
「えぇっ!?ウッソォ!!」
「残念無念また来週〜」


まさか2試合が丸被りとは…


「なら、私も先にそっちに行こっかなぁ」
「えっホント!?名前見に来てくれんの!?」
「2人共、長期戦向きじゃないからね」


先に見ておかないと、と笑えば、心当たりがある様子の英二がうっと言葉を詰まらせた。
だがすぐに悪戯っ子のような笑顔を見せ、


「なら、桃なんかパパっと倒しちゃうもんね〜!」
「お、俺だって負けませんからねっ!?」


追いかけっこのようにパタパタと走っていく彼らに笑いを漏らしながら、1年トリオを振り返った。


「てことでまた後でね。リョーマの応援、よろしくね」
「「「はいっ!!」」」


多分、最初は貞治のデータテニスが火を噴くだろう。
前半の試合は見なくてもなんとなく予想は出来るが、問題は後半だ。
リョーマが貞治に対してどんな戦法をとるのか、その瞬間は見られるだろうか。
……あぁ、誰かに試合の記録をお願いしてくるんだった…



* * *



英二と桃の試合は思っていたよりお互いが粘っていた。
長期戦向きじゃないと言った私の言葉への反抗心だろうか。
2人共まだまだ焦る所も沢山あるが、決着を急がないような慎重なプレイも同じように見られて、とても面白い試合だと思う。
桃の得意なパワーショットも、前に出た英二にはなんのその。
その威力を上手く利用してショットを決めるが、桃だって諦めはしない。

今のところ、全体的に見て押しているのはやはり英二の方だ。
ゲームカウント3-2で英二リードのチェンジコートとなった時、Dブロックの方から一際大きな歓声が聞こえた。
ベンチに座る英二と桃も、揃ってDコートの方へと顔を向ける。
あっちは今どうなっているんだろう…
DコートはA〜Cコートとは別のフェンス内にあるから、少し移動しないと試合を見ることは出来ない。
あと1ゲーム見たら移動しようかな…

サーブと同時に英二が走り出す。
クロスに打たれた桃のボールを、お得意の動きで鋭い角度へと返球した。
ギリギリ間に合った桃がロブを上げる、が、僅かに浅い。


「ほいっと!」


ぴょんと飛び跳ねた英二のラケットが、しっかりとその球を捉えた。


「ゲーム 菊丸!4-2!」
「へっへーん!」
「くっそぉーっ!!」


あぁ…この先の展開も凄く気になる……気になる、けれど…
ごめん2人共、この後も頑張って…!
そっと応援の想いを送り、Dブロックへと急いだ。



* * *



Dコートは丁度チェンジコートのようだ。
次のゲームが始まる前に、と急いで足を進めれば、フェンスの前にはまさかの月間プロテニスの2人組がいる。
まさかもうリョーマに目を付けたのだろうか。
それとも、リョーマが南次郎さんの息子だと知って…?
いや、南次郎さんがわざわざ大っぴらにするとは思えないし、偶然目に付いたのだろう。
そもそも仮入部の段階で3年レギュラーと試合をしているリョーマが異質なのだ。

何やら話している彼らの後ろをこっそり大回りしながら1年トリオがいた方へ向かえば、そこにはなんとバインダーを片手に持った周助がいる。


「周助!見てたの?」
「名前、おかえり。5-0で乾リードだよ」


こちらを振り返った1年トリオは何やら興奮している様子で、そんな彼らを前に周助は、はい、と私に持っていたバインダーを差し出した。


「まさか…!」
「誰も録ってなさそうだったから。ここまでのゲーム、気になるでしょ?」
「神様ぁ…!!!」
「ふふっ、大袈裟」


英二達の試合が気になるから、と、私が持っていたバインダーと交換してくれた周助は、本当に色々と良く気が付いてくれると思う。


「へぇ…あの2人にしてはちゃんと打ち合いしてるね」
「あぁそれね、長期戦向きじゃないから先に見に行くって言ったのを根に持たれたのかも」
「なるほど、それはいい鼓舞だね」


周助が書いてくれていたコート表はとても見やすい。
やっぱり、最初のゲームの流れは予想していた通りだ。
リョーマのどんな球も、貞治はまるで最初から全て分かっていたかのように的確に返している。


「それにしても、彼は面白いね」
「…この、わざとフォルトしたやつとか?」


"わざと"と周助の字で書かれたそこをとんとんと叩きながら言えば、それもだけど、と周助は笑った。


「彼、チェンジコートの前にこう言ったんだ」


"青学(ここ)に入って良かったよ。色んなテニスを倒せるからね"


「…へぇ。いいタイミングで来れたみたいだね」
「ここからどうなるのか、楽しみだね」


コートでは2人がベンチから立ち上がり、主審台の後ろで互いに真っ直ぐ前を見たまますれ違った。


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