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Dブロック近くの木陰に腰を下ろし、周助の手伝いも借りて記憶を引っ張り出しながらなんとかコート表を埋めることが出来た。
私のお礼の言葉に、全然、とにっこり笑ってくれる周助はやっぱり女神だと思う。
「加藤くん達にも後でお礼言わないと…」
「頼もしい1年が入ってきてくれて良かったね」
「ほんとにね…」
コート表を埋めるのに他の試合が見られなくなってしまうことを危惧した私に、加藤くんを筆頭に堀尾くんと水野くんが他ブロックのビデオを撮りに行ってくれたのだ。
周助の言う通り、本当に頼もしい新入部員達が来てくれたものだ。
試合も粗方終わり、今はもう各コートで行われている試合が終われば今日のランキング戦も終わる。
周助と共に受付付近まで戻れば、先に戻っていた桃やその他レギュラー陣が笑い半分でお疲れ様と声をかけてくれた。
どうやら桃から一通り話を聞いていたらしい。
「いやぁお恥ずかしい…」
「フフ、名前を楽しませられる試合になったようで良かったよ」
「貞治もお疲れ様。周助にも手伝ってもらって丸々一試合分コート表埋まってるから、良かったら参考にしてね」
「あぁ、ありがとう。使わせてもらうよ」
そこから皆で先程の貞治VSリョーマの試合の話をしていると、少し離れたところにリョーマの姿を見つけた。
一緒にいるのは桜乃ちゃんと、…もう一人は知らない女の子だ。
桜乃ちゃん、リョーマの試合を見に来たのかな、なんてちょっと微笑ましい気持ちになる。
「青春だなぁ〜」
私の呟きに方々からハテナが飛んできて、誤魔化すように笑いを返した。
「そろそろ終わるし、コート整備の準備してくるね」
「それなら俺も手伝うよ。重いものもあるし」
「ありがとう、助かるよ〜」
タカさんからの有難い申し出に甘え、バインダー等を国光に預けて2人で倉庫へと向かった。
「そうだ、タカさんも今日は全勝だよね。おめでとう」
そう言えばタカさんは照れたように頭を掻きながらありがとうと笑う。
昨日のランキング戦ではタカさんは周助に負けてしまったものの、それ以外は今の所全勝だ。
試合は明日もあるが、試合結果からしてタカさんがレギュラーとして残るのはほぼ確定している。
…なんだけど、何故かタカさんはどうにも浮かない顔をしていた。
「…どしたの?」
「あぁ、いや…」
複雑そうに笑うタカさんに首を傾げれば、彼は少し悩んだ様子を見せてからぽつぽつと話し出した。
「俺…他の皆と違って先輩達がいなくなってからやっとレギュラーになったんだ」
「…うん、その辺は竜崎先生から聞いてるよ」
「レギュラーになれたのは嬉しいことだし、皆と肩を並べられるのも嬉しいんだけど……今回のランキング戦は都大会レギュラーを決めるものだろ?」
はは、と力無く笑うタカさんは、普段あまり見ない彼本来の弱々しさが滲み出ていて、何故だか妙にその姿がストンと胸落ちた。
「俺は昔っからパワーだけが取り柄でさ。それ以外はからっきしなんだ。だから、大事な都大会で俺なんかがレギュラーになっていいのかなって…」
「なんで?」
「え、なんで、って…」
なんで?
単純にそう思った。
あぁ成程、彼はずっとこれを抱えていたのか。
「心が弱ってるからこそ、ハッキリ言うね。確かにタカさんはコントロール、テクニック、スピード、どれも他のレギュラー達よりは低い」
「そ、うだよね…ハハハ…」
「だからって、なんでそこだけを見るの?」
え、と笑みが消えたタカさんの顔が私を見下ろした。
足が止まった彼に合わせて私も一度足を止め、彼に真っ直ぐに向き合う。
「さっき言ってたじゃん。パワーだけが取り柄って。なんでそこを見ないの?」
「で、でもそれしか…」
「それしか、じゃないよ。それ"が"あるんだよ。タカさんは誰にも負けないパワーがある。青学最強の武器じゃん!」
「…!」
それにね、と思い起こすのは、レギュラー達のステータス。
部室のファイルには過去行われたスポーツテストの記録なんかも、貞治がまとめてくれていたのが残っている。
「タカさんには柔軟性だってあるじゃん。私ビックリしたから覚えてるんだけど、上体そらしが英二と同率一位だったのすごいなって思ったよ」
「あれはたまたま…!」
「ううん、ちゃんとしたタカさんの結果だよ。タカさんにはちゃんと武器がある。十分うちの大事な戦力だよ」
もっと自信持ちなさい、と彼の二の腕辺りを叩けば、あわあわと表情を変えるタカさんはやがて先程よりも照れくさそうにへにゃりと笑った。
「…ありがとう…ハハ…」
「で?他に悩んでることがあるなら私が全部ひっくり返してあげるけど?」
「え!?いやっ、…十分ひっくり返してもらったよ。ありがとう」
仲間だからこそ、普段支えてくれている分支えたい。
去年タカさんが言ってくれた言葉を、昨日改めて国光によって思い起こされた。
「私で良ければ、話せることなら沢山聞かせて?私だって、いつも支えてくれる人を支えたいもん」
「名前ちゃん…」
「あ!」
突然声を上げた私にタカさんが少し驚いたように、え、と身を引いた。
「タカさんのパワー増し増し作戦なんてどう?」
「えっ、え?」
「後で早速貞治にいいトレーニング方法が無いか聞いてみよー!」
「ええっ!?」
まずは筋力アップと、それから…と考えながら軽やかに歩き出した私の後を、ちょっと待って…!と慌てた様子でタカさんが追いかけた。
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