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青学ー!!ファイ!!
オー!!
青空の下に部員達の声が響く。
地区予選を10日後に控えた今、テニスコートは普段よりも何倍もの熱量が溢れていた。
そんな中私はというと、
「ほら、走って走って!次はこっち!」
新たに選出された8名のレギュラーを相手に絶賛球出し中である。
「桃!パワーだけじゃダメだって言ったでしょ!」
「っハイ…!!」
「タカさんはもっと腰落として!」
「っぬどりゃぁぁああああ!!カモーン!!」
「ほら薫!いつもの粘りはどこいったの!」
「ッ…くそっ…」
荒い呼吸を繰り返す彼らに、息をつく間も与えることなく個々人の苦手位置に球を送る。
「…なーなー、名前ってあーんなに厳しかったっけぇ?ねぇおチビぃ…」
「まぁ…たまに…ってか、その呼び方止めてくれません」
「大事な時期だからね。頼もしいコーチじゃないか」
「フフッ、楽しそうだね?名前」
「あぁ。的確な良い球出しだ」
コートにラケットをついて息を整える薫の向こうで、何やら話している彼らに視線を投げた。
時間的にはそろそろまた英二の出番だ。
「英二!コート入って!」
「っぇえええ!?また俺!?さっき休憩したばっか…」
「は い ん な さい!」
「は、ハイ〜っ!!」
あわあわとコートに入るも、すぐに目付きを変える英二に1球目を打とうとした時だった。
「何だい、その球出しは」
キィ、という音と共にコートのフェンスゲートが開かれ、部員達の声援は挨拶の声へと変わる。
入ってきたのは男子テニス部顧問である竜崎先生だ。
3年の数学教師との兼任だから、普段から忙しくしている彼女がコートに来ることはあまり無い。
どうしたのかとその動向を見つめていれば竜崎先生は、まったく…と零しながらレギュラー以外が集まるコートに置かれたカゴの中の球を数個掴み、
「少しは苗字の球出しを見習わんかい!ちんたらしてんじゃないよ!」
間を開けず、ボカボカと力強い球を部員達へと送り出した。
「ほらぁ!声どうしたぁ!!」
声高らかに言い放つ竜崎先生に、一旦球出しは終わりかな、と持っていたボールをカゴに戻せば、向かいのコートで英二がホッとしたように胸に手を当てていた。
* * *
「今回の校内戦で決定したレギュラー8名は、都大会まで団体戦を戦い抜く。どの学校も年々レベルが上がってきているからね。決して油断するんじゃないよ」
整列した部員達の前で、以上、と締めくくった竜崎先生の目線の先では、リョーマがあらぬ方向を見ていて内心ため息をついた。
国光が練習再開の指示を出し、レギュラー達はA・Bコートでラリー練習…かと思えば、ちょっとお待ち、と竜崎先生の声が彼らを止めた。
「お前達(レギュラー)には、苗字とこの男にとっておきの練習メニューを頼んでおいた」
ハテナを飛ばすレギュラー達が一度私を見てから、この男…?と再度竜崎先生の方を振り返る。
彼らの視線の先でスっと一歩踏み出したのは、
「「「乾!?」」」
「やあ」
レギュラージャージではなく普通の白Tシャツと学校用のジャージを履き、大きなダンボールを抱えた貞治だった。
いないと思ったら、色々準備をしてくれていたのか。
「全国大会までの今後の長い試合を乗り切るには、まず足腰の強化から。さぁ皆、これを足につけて」
どさりとコート外に置かれた重そうなダンボールの中には、溝がカラフルに塗り分けられたテニスボールがたくさん。
それから、パワーアンクル。
「一つのパワーアンクルには250gの鉛の板を2枚さし込んである。両足で1kgの負荷がかかるよ」
「ふーん、そんなにたいした重さじゃないっスね」
各々がパワーアンクルを装着し、それに体を慣らすために細々と動く中、私は貞治の元へと向かってダンボールのそばにしゃがんだ。
「準備ありがとう。言ってくれたら手伝ったのに」
「適材適所。重い物を運ぶのと球出しは同時には出来ないからね」
カラフルなボールを球出し用のカゴに2等分し、その片方に3つ重なったカラーコーンを乗せてよいしょと立ち上がる。
「よし。じゃあ皆、2グループに別れてAコートかBコートに入って〜」
「赤、青、黄のカラーコーンと、同じように赤、青、黄に溝を塗り分けた3種類のボールを沢山用意した」
「ボールの溝の色と同じ色のコーンに当てましょう!」
そうして始まった、私と貞治考案の新メニュー。
「黄!!」
隣のコートで英二が見事にリターンを決め、黄色のコーンがパァンと乾いた音を立てた。
流石は英二だ。
動体視力に関しては、英二がうちのレギュラーの中ではダントツだろう。
「負けてらんないね〜?」
「…早く球出してよ」
はいはい、と対面に立つリョーマに適当に掴んだ球を送る。
「青」
リョーマは涼しい顔をして青のコーンに青のボールを命中させた。
英二もリョーマも今は軽々とやっているけれど…
「青!」
「赤!!」
今の所全ての球を見事に命中させている2人に、私と貞治の後方で見守っている竜崎先生が、2人ともやりおるな、と笑う。
「でも、これからですよ」
「そろそろ…1kgを実感する頃」
ほぼ同時に2人の動きが一瞬鈍った。
「「!!」」
体力が落ちれば、判断力も鈍る。
「なんだこりゃ、急に足が重く…」
「…っ」
「ほらほらリョーマ、休んでる場合じゃないよ〜」
「菊丸もね」
貞治と共に、間を開けずにボールを送る。
「なるほど、こりゃキツイかも……あ、赤!」
「っ、黄!」
私と貞治は互いににやりと目配せし、
「菊丸、それ青じゃない?」
「え?あれ、ウソ……わ!!」
「あれっ?今の赤だった気がするんだけど…」
「っえ、……あ」
2つのボールはほぼ同時に2人を追い越し、トン、トンと小さく壁にぶつかって跳ねた。
「あーっ!乾ひでー!!やっぱ赤でいいんじゃん!!」
「フフ」
「…ウソツキ」
「んふふ、気がするって言っただけじゃん」
「成程ね。心理作戦もメニューのうちかな」
「俺、あの2人の球出しこえーんスけど…」
「…油断せずに行こう」
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