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一通り打ち終えた頃には、レギュラー全員が息を上げてコートにその身を落としていた。
「思ったよりは動けたね。流石」
「んふふ、薫って結構素直だよねぇ」
「っ…もう、騙されねぇッスから…!」
さて、と貞治が座り込む彼らに向き直る。
「菊丸はインパクト時にグリップがずれる傾向がある。前腕筋を鍛えればもっとショットが安定するよ」
「秀と薫は前後、タカさんと周助は左右へのダッシュ強化かな。ちなみに貞治、その場合は?」
「大腿四頭筋と下腿三頭筋だね」
どこだよそれは!と4人からのツッコミに思わず笑ってしまった。
私にも分かりません。
「桃城はショットを70%位の力で抑えて打った方が確実性が増す」
「へーい」
「手塚にはもっと柔軟が必要だ。表情も堅いしね」
「ププッ…!」
「表情は、まぁ…」
英二の笑う声を気にすることなく、国光は眉間に皺を寄せてじっと貞治を見つめている。
最近の日常では表情の柔らかさは増えたものの、もう少し柔らかくいればいいのに…とはいえ、部活中だし真面目な国光だからこその顔ではあるんだろうけど。
「そして、越前」
お、と私は貞治を横目で見た。
彼はリョーマに何を言うんだろう。
内心わくわくしていると、どこからともなく貞治が取り出したのは2本の牛乳瓶。
「毎日2本ずついこう」
「っふふ…!」
じとり、とコートに大の字になっているリョーマに横目で睨まれた。
「…いくら牛乳飲んだって、10日間でデカくなるわけ…」
ムスッとしながら起き上がるリョーマだったが、
「「「「飲めよ!!」」」」
「乾が言うんだ、間違いないだろう」
先輩達、そして部長からの言葉にリョーマは帽子のつばを下げて、ちぇ、と小さく呟いた。
「おやおや、一本とられたね」
「貞治もそれでここまで背伸びたの?」
返ってくる無言の笑みは肯定か否定か…
貞治は身を屈め、ダンボールの底に乱雑した鉛の板に手を伸ばした。
「じゃあそろそろ本題に戻って、鉛の枚数を1枚追加…」
「待って、乾」
聞こえた周助の声に貞治と共にコートの方を振り返れば、いつの間にか立ち上がっていた皆が真っ直ぐに貞治を見つめていた。
「5枚でいい」
「お前と同じ枚数だろ?」
ちらりと見下ろした貞治の両足首。
ジャージの裾からはパワーアンクルが覗いている。
着けていたのは知ってたけど、いつの間にそんな枚数を…
そこには最大数である5枚の鉛の板がしっかりとはめられていた。
「ね、乾先輩、どーせ5枚までやるんでしょ?」
「6枚でもいーけどね」
ニヤリと笑う桃、なんでもない風に言うリョーマに、私はそろりと貞治を見た。
貞治との話じゃ…
「いや、レギュラーは10枚まで」
単純計算で両足合わせて5kg。
ピタ、と皆の動きが止まる。
「ふざけんな!」
「鬼コーチ!!」
ビュンビュンと貞治に向かって飛んでくるボールから逃げるように、薄らと笑みを作る竜崎先生の方へと数歩下がった。
「やっぱり5kgはやりすぎましたかね」
「フフ、そんなことないさ。体力を強化すれば、技術は何倍も生きる」
だが、と優しい目を送る竜崎先生の目線を辿れば、まずは5枚ずつ、鉛を両足のパワーアンクルへとはめ込む彼らがいる。
「こいつらの最大の武器は技術よりも、この向上心…」
「んふふ、案外負けず嫌いが多いですからね、ここは」
「おや、それはお前さんもだろう?」
竜崎先生がちらりと私と目を合わせ、それからふっと目線を下げた。
「…バレてましたか」
私の両足にかかる1.5kgの負荷。
「無理はするんじゃないよ」
「大丈夫です。貞治と相談した上での重さですから」
彼らには遠く及ばないが、私だってまだまだ負ける訳にはいかない。
「…あっ、でも貞治以外には内緒にしといてくださいね。怒られそうなので」
「全く…揃いも揃って負けず嫌いばかりが集まったもんだねぇ」
目指すは中学ナンバーワン!!
青学ー!ファイ!!オー!!
本日一の明るく大きな声援がコートに響き渡った。
* * *
そんな日が数日続き、現在は日曜日の早朝、コートにて。
準備やウォーミングアップにざわつくコートをざっと見回し、ため息をついた。
「名前、越前が来ていないようだが…」
「あー…たぶんまだ寝てる気がする…」
あからさまに眉間の皺を増やした国光に、再度息を吐きながら苦笑することしかできない。
朝弱いのは相変わらずなんだなぁ、あの子…
「来たらまず走らせておけ」
「何周?」
「20周」
「はぁい」
部室の方へと戻ろうとする国光に、あ、と声を漏らせば、声に反応した国光がちらりとこちらを振り返った。
「部活終わったら時間ある?ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?今で良ければ時間はあるが…」
「ここだと話しにくいから」
「…分かった」
察しよく頷いてくれる国光に感謝を伝え、先日から導入された新メニューの準備へと向かった。
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