4
「青だ青っ!ブルー!!」
「赤!!」
たったの数日で、彼らは思った以上に動けるようになっていた。
足にかかる負担にも負けず、的確にボールを返す彼らを頼もしく思いながら球を出していると、ふと視界の端にちらついた人影。
思わず二度見して、球出しの手が止まった。
「あっ…!?」
赤也!?なんでここに!?
ここにいるはずが無いその姿は、遠目だけどどう見ても立海大付属中の2年生、切原赤也。
フェンスの向こうでキョロキョロと辺りを見回しながら歩いてくる赤也と私の目がぱったりと合った途端、赤也はぱあっと顔を輝かせてぶんぶんと両手を振った。
「名前さぁ〜ん!!!」
「い゙っ!?」
その明るい大声のせいで、一瞬にして私と赤也は注目の的である。
「あれ?他校生だ」
「誰だ…?」
「名前先輩の名前呼んでたよな…?」
「え、名前先輩の知り合い?」
そんな声が聞こえる中、持っていたボールをカゴに放り慌ててフェンスゲートまで走った。
ゲートの向こうにいた秀と貞治が、私よりも先に赤也の元へと近づいていく。
秀が何やら赤也に話しかけ、
「立海大附属中2年エース!噂の切原赤也って俺の事っス!」
と、何時ぞやも聞いたなんとも赤也らしい自己紹介が聞こえてきた。
「立海中…」
「ちょっ、ちょっと赤也!?」
「あっ、名前さん!」
2人と赤也の間に割って入れば、先程と同じように顔を明るくさせた赤也がニコニコと嬉しそうに私を呼ぶ。
ぶんぶんと振られた尻尾が見えそうな勢いだ。
「うわ、マジで青学のジャージ着てんスね…なーんかショックだなぁ」
「いや、ていうかなんでここにっ…」
「へへっ、ちょっとばかしスパイに」
へらりと笑う赤也に、はぁ!?と素っ頓狂な声が出る。
立海には弦ちゃんや蓮二がいるし、わざわざ赤也を単独でここまで来させるとは思えない。
もしかして赤也の独断…?
頭をフル回転させていると、ふと視線をめぐらせた赤也が、おっ!とフェンス内を指差した。
その先には…
「もう一人見っけ!あんた手塚さんだろ?立海(ウチ)の先輩達も一目置いてる」
腕を組み、険しい顔をしてこちらを一瞥している国光がいる。
やばい、これは非常にマズそう、ていうかマズい。
「ちょ、赤也、」
慌てて止めようとしたものの、時すでに遅し。
赤也はスタスタとフェンス内へと歩いていってしまった。
「昨年の関東大会の団体戦でうちの先輩を破ったのあんただけだし。いやー、ちょっとお手合わせしたいなあ!!」
「お、おい!」
「ちょっとちょっと…!」
秀が慌てて赤也を追い、私もそれに続いたのだが、
「部外者は出ていけ」
ばっさりと赤也を切り捨てた国光の声。
ひええ、一悶着起きそうなんですけどどうしよう…!
助けて弦ちゃん、助けて蓮二、助けて精市…!!
「そんなー、手塚さん、1セットでいいっスよ?堅い人だなぁ。こーんな顔ばっかしてると疲れちまいますよ」
「………」
これ以上大事になる前に私が止めるしかない、と腹を括って赤也の肩に手を伸ばそうとしたその時だった。
「おいコラくせっ毛!!うちの部長と名前先輩に失礼なことしてんじゃねぇよ!!」
聞こえた荒井くんの声に振り向けば、丁度荒井くんがボールを宙に放ったところで。
「とっとと出て行けよ!!」
「!!」
荒々しい声と共に打ち込まれたボールと、バカ!荒井!!と焦ったような秀の声。
ああもうなんで事を荒げるような…!!
他校生とはいえ、これから大事な試合が待つ彼に怪我をさせる訳にはいかない。
咄嗟に持っていたラケットをボールと赤也の間に差し込もうとした、が。
「えっ…!?」
突然手からラケットが消え、私の体は強い力で思わぬ方向へと引っ張られた。
「俺のショットをイナした!?」
驚いたような荒井くんの声に、知らずのうちに瞑っていた目を開ける。
あまり見慣れない制服、そして私のラケットの上でポンポンと跳ねるボール。
見上げれば赤也が荒井くんへと挑戦的な笑みを向けていた。
「…横から口挟まないでくれる?つか、名前さんに当たったらどーすんだよ」
「うっ…」
「ダイジョブっスか?名前さん」
「え、あ、うん…」
良かったー!とにぱっと笑って、赤也が私の肩口に回していた手を離した。
「ねね!今の俺、カッコよかったっスか!?」
「えぁ、え、うん…?」
「っしゃ!へへへっ」
呆然。
なんて暇もなく、また腕が引かれて私の体がふらりと傾く。
「うちのマネージャーが世話になったことは感謝しよう。ただ、お前が部外者であることには変わりない。すぐに出て行け」
私の前に立ち塞がり、赤也と対峙した国光が静かな声でハッキリと言う。
じ、と赤也が目線だけで国光を見上げた。
「…ふーん。……手塚さんさぁ、別に深い意味じゃなくて1球2球交えようって言ってるだけじゃん。そんな言い方、気分悪いなぁ」
アンタ、潰すよ。
「っ赤也!」
「なーんて」
ニッと人当たりのいい笑みを浮かべた赤也は、それまでぽんぽんと低く跳ねさせていたボールを高く打ち上げた。
「おーい荒井くん!ボール返すぜ!」
ノールックで脇下から荒井くんの方へと打たれたボールは、真っ直ぐに荒井くんの方へ…
「うごっ!?」
…飛ばず、荒井くんの隣にいた桃の頬に直撃した。
back