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南次郎さんとの通話、それから夕飯を終えた私は、明後日の地区予選のことを考えながら少し長めのお風呂を満喫してぐっと伸びをした。
ほかほかと熱のこもった体を冷ましながら部屋に戻れば、スマホに新着メッセージの通知が届いている。
南次郎さんかな?と思いながらそれを開けば、十数分前に"ねぇ"とだけ書いて送信されたそのメッセージは、珍しくリョーマからだ。



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名前
ごめんお風呂入ってた
どしたの?

越前
明日の部活の後、うちに来て

名前
え、なんで?

越前
いいから
予定ある?

名前
ないけど…

越前
じゃ、そういう事だから

名前
はいはい

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それ以降リョーマからの返事はない。
何の用だろう…?
まぁついでにこっそり南次郎さんに会えれば直接お礼やらも言えるからいっか。



* * *



次の日、部活後の着替えを済ませてすぐリョーマの姿を探した。
どうせなら一緒に帰ればいいや、と思ったのだが、リョーマの隣には当たり前のように桃がいる。
そこに混ざって帰るか、一旦別で帰るか、うーんと悩んでいると、


「名前〜!帰ろ〜!」


いつものように私の後ろからぴょこりと英二が顔を出す。
あぁ、うん、と曖昧になる返事をしながら英二達に着いて行こうとすると、


「あ、名前…センパイ」


皆がいる手前だからなのか、たどたどしく先輩を付けて呼ぶリョーマに少し笑いそうになりながら振り返った。


「ん?」
「親父から、名前に用があるから今日連れて来いって言われたんだけど」
「え?」


南次郎さんが…?
昨日のリョーマのメッセージはそれのことだったのだろうか。
でも例の件のことだとしたら南次郎さんにはリョーマに言わないように伝えてあるし、そもそも個人的に連絡してくれるだろうし、別件…?
じっと私を見つめるリョーマの視線は何かを訴えているようだけど、ごめん分からない。


「そっかぁ、名前ってアメリカにいた時はおチビの家族とも仲良かったんだよね?」
「うん。リョーマのお父さんは私にとっても半分お父さんみたいなものだよ」


ならしょーがにゃいか〜、と英二はへらりと笑った。


「んじゃまた明日っ!地区予選、頑張ろーな!」
「うん。皆も体調管理しっかりね」


ひらひらと手を振る英二やその他の面子に軽く手を振り、私を待つリョーマと桃の方へと向かった。
じゃあ帰ろっか、と2人の隣に並んで歩き出すも、リョーマは平然としているものの桃はどこかそわそわしている様子。


「お、おい越前…」


ちらりと見る桃は、困惑の表情でリョーマを見ている。


「助っ人」


リョーマがさらりと一言そう言った。
助っ人…とは…?


「すけ、…あー!!そりゃいいぜ!名前先輩がいりゃあ怖いもの無しってもんだ!」


会話が読めない私を他所に桃は何かを察した様子で、先程とは反転、満面の笑みで吹っ切れたように言う。
え、だからどういう話の流れ…?
桃も越前家に…南次郎さんに用があるのだろうか。
でも桃と南次郎さん、接点が全く見つからないぞ…


「ねぇリョーマ、用って何か知ってる?桃も関係あるの?」


疑問をそのまま口に出せばリョーマからは、嘘、という言葉が返ってきた。


「…はい?」
「だから、嘘。親父は別に何も言ってない。名前に用があんのは俺と桃先輩」
「え、っと…?」


リョーマと桃の顔を交互に伺えば、桃が期待を込めた眼差しで私を見つめた。


「名前先輩!」
「は、はい?」
「名前先輩って、ダブルスの経験もあるんスよね!?」



* * *



桃と越前と共に去っていく名前ちゃんを少し目で追っていると、ふと聞こえたのは不二の声。


「フフ、弟くんに取られちゃったね?」


振り返れば、僅かに首を捻って持ち上げられた不二の視線は真っ直ぐに手塚に向かっていた。
俺の隣で英二がギョッとしたように不二と手塚を窺い、タカさんが動揺を隠すようにそろそろと視線をうろつかせ、乾は見た目だけはいつも通り、海堂は我関せずといったように目を閉じて明後日の方を向いている。


「…?」


僅かに眉を寄せる手塚は、果たして不二の言葉に含められているものに気づいているのかいないのか。
理解してなさそうなその様子に、全く気づいていないだろうなぁ…と苦笑した。


「キミの隣に名前がいないのなんて、いつぶりかな」


少し分かりやすくされたその言葉に、手塚は一度ちらりと名前ちゃん達の背中を見てからすぐにその視線を外した。


「…誰と帰ろうが、本人の自由だろう」


それは、"弟くんに取られちゃったね?"という最初の不二の言葉に対する返事だろう。


「それに、越前の父親が名前に用があるのなら当然だ」
「もしそれが越前の嘘だとしたら?」


何が言いたい、と目を細めた手塚が不二を見下ろした。
半分睨まれているその状況でも不二は面白そうにクスクスと笑い、別に?と首を傾げた。


「何にしても、余計な詮索をする気は無い」


ふい、と不二や俺達から視線を外すように、ラケットバッグを背負い直した手塚が歩き出す。
口元を隠して静かに笑う不二がすぐその後に続いた。


「………」


そろり、と英二が俺を見た。
こわぁ…と声には出さず、口元だけが動く。
斜め後ろからタカさんが深く息を吐くのが聞こえ、その少し後ろから、海堂、帰るぞ、という少し面白そうで冷静な乾の声が聞こえた。


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