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「ダブルス…?」
歩きながらもぽかんと2人を見比べれば、桃が詳しい説明をしてくれた。
なんでも昨日、2人で一緒に帰った際に偶然寄ったダブルス戦のみのストリートテニスコートで一悶着あったらしい。
負けず嫌いというか、プライドが高いというか…気持ちは分からなくはないが…
「まさか2人共、大事な初戦で一夜漬けのダブルスをするつもり?」
う、と桃が少し難しそうな顔をするが、でもぉ…!と食いさがらないその表情にはどうにも揺るがなさそうな固い決意が現れている。
ストリートテニスコートで言われたらしい、"あんなチグハグコンビ、何回やっても勝てるぜ"という安い挑発にこうも簡単に乗ってしまうのは如何なものかとは思うが、問題はそれを言った相手。
どんな運命のイタズラか、彼らは地区予選で青学が最初に当たる可能性のある玉林中のダブルスペアだったようだ。
「あんなこと言われてそう簡単にシングルスに行けっかよ!なぁ越前!?」
「やられた分の借りは本人達にキッチリ返すッス」
はぁ、と頭を抱えたくなる。
借りを返すと言えどそもそも玉林中が勝ち上がればの話だし、そのダブルスペアがD1で出るのかD2で出るのか、はたまたどちらかが補欠の場合だってあるのに…
まぁでも…どこと当たったとしてもD1には秀と英二が控えてるし、2人がダブルスに行くのならシングルスも残りの面子を考えれば安泰ではあるだろう。
どう転ぶかは本人達次第だが、ここまで闘志を燃やす2人がどんなダブルスをするのか見たい気持ちもあり…
「…分かった。出来る限り協力するよ」
ぱぁっと桃の顔が明るくなり、すぐにその表情と同じような明るい声がついてきた。
「でも、オーダーの最終決定は竜崎先生だからね。どんなオーダーになっても、ちゃんと自分の位置はしっかりこなすんだよ?」
「勿論ッス!!」
…とはいえ、私もメインはシングルスだ。
ダブルスをやったことはあるし、基本的な動きも理解しているけれど、それを上手く2人に教えられるだろうか。
「助っ人って、私じゃなくて秀と英二の方が良かったんじゃないの…?」
思ったことをそのまま伝えれば、桃が苦笑しながら首を振った。
「いやぁ…あの2人はなんつーか、一夜漬けでどうこう出来るレベルじゃないじゃないっスか…」
「ダブルスの基礎なら名前だって知ってるでしょ。別にいいじゃん」
「…それ、あの2人が聞いたら怒られるよ」
秀は呆れ半分困ったように笑うかもしれないけど、英二はダブルスを甘く見るな!と目を釣り上げそうだ。
…うーん、どうやって…ていうかどこから教えたら良いんだろう。
そもそも即席ダブルスをたった数時間の練習だけで大会に出すなんて普通はしない。
それから桃は普段から部活でダブルスをやったりしてるけど、問題はリョーマの方だ。
以前南次郎さん相手にリョーマとダブルス紛いのことをした時、ハッキリとリョーマはダブルスには向かないと思ったのは確か。
協力すると頷いてしまったものの、これは荷が重いぞ、と頭を悩ませていればやがてお寺の門が見えてきた。
* * *
境内へ繋がる大きな門の前で、それぞれ動きやすい服に着替えた桃とリョーマの中央に置かれた一冊の本。
"初めての方のダブルス"というタイトルの本をわざわざリョーマが買ったのだと思うと、なんとも言えない笑いが生まれる。
ぱらぱらと本を捲る桃はとあるページを開いて指でとんとんと本を叩いた。
「ダブルスの基礎1、"真ん中はフォアの人が取りましょう"…な?」
オレが言ったろ、と桃がしゃがんだままリョーマを見上げた。
「バックの時だって取りたいっス」
「同感だけどよ、それじゃダブルスになんないんだって」
「そうだリョーマ、桃とダブルスを組むならサーブ以外は右で持った方がいいんじゃない?」
右利きと左利きのダブルスペアは基本的に有利ではあるが、それはお互いの癖や動きを理解し合っている秀と英二のようなペアならば、の話だ。
実際に見ていたわけじゃないけれど、敵ペアから"チグハグコンビ"と言われたというのが本当なら持ち手は合わせた方がいいだろう。
「…じゃあ、今回は右手で持つ」
ラケットを右手で握り直したリョーマは、でもあれッスよね、と桃をちらりと見た。
「自分のコートになんかチラチラいると、ボールぶつけたくなりません?」
「お前俺を先輩だと思ってないだろ」
「ほんとにダブルスやる気あんの…?」
協調性よ…
これは思った以上に先が思いやられる…
「合図欲しいなぁ。お互いOK出し合うとか…」
ぽつりと漏らしたリョーマに、確かに、と私の視線はダブルスの本へと落ちた。
「ダブルスには声かけは必須だからね。自分が取るよ、任せたよ、って」
前に氷帝で打ち合いをした時を思い出す。
あの時長太郎と組んだダブルスで、長太郎が私の名前を呼んでくれたから私は安心して長太郎にボールを任せることが出来た。
その後の萩くんとのダブルスでもそうだ。
萩くんの場合は互いのプレイスタイルが似ていたのもあって目線でのやり取りが多かったけど、どんな方法であれ意思疎通は大事なのには変わりない。
「んじゃ、掛け声決めとくか」
よっと立ち上がった桃が辺りをくるりと見回し、やがて視線をとある一方へ止めた。
「あれでいこうぜ」
私とリョーマの視線が桃のそれを追う。
「…あ、アレ…?」
困惑に思わず眉が歪む。
その先では、2体の阿吽像が門下を厳格な表情で静かに見下ろしていた。
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