受付にオーダーを提出し、コートの周りで諸々の準備をしながらチラリと視線を送るのは、本日第一回戦の対戦相手校。
先程確認したその学校名は、玉林中。
桃とリョーマがダブルス戦への闘志を燃やした件のペアがいる学校だ。
まだ例の2人が対戦相手と決まった訳では無いけど、まさかこんなにも上手いことハマるとは思っていなかった。


「ええっ?手塚部長、玉林戦に出ないんですか?」
「温存してるんスかね?」


聞こえた声に振り向けば、丁度貞治が2年生達に先程受付に提出したオーダーを見せている。
それを覗き込んだ2年生達が驚きに目を見開いた。


「越前と桃がダブルス!?」


…まぁ、そういう反応になるよね。


「2人の希望だそうだ。竜崎先生も直前まで悩んでたんだけど、名前の一言で腹を決めたみたいだよ」
「どういう風の吹き回しだ…?」
「いやでも、名前先輩がOKを出したならいいんじゃねぇか…?」


OKを出したというか、背中を押したというか…
いや、後押ししてしまったのは確かだし、何かあったらしっかり責任は取ろうとは思うけれど…
まぁ責任といっても何をすればいいのかは全く思い付かないから、2人には何としてでも勝ってもらうしかない。
ほんの少しのハラハラとした気持ちで試合前のベンチの様子を伺えば、


「英二」
「ん」
「ほい」
「サーンキュ」


まるで仲良し熟年夫婦かの如く息ピッタリ意思疎通な我らがゴールデンペアの横で、


「越前ー、それ取ってくれ」
「それって何?」
「お前の尻の下にあるそのタオルだ!!」


…後押しはしたけれど、先が思いやられるなぁ…

やがて、整列してください、という審判の声で各校の顧問の先生とオーダー面子がぞろぞろとネット前へと歩いていく。
ベンチに残るのは補欠である国光ただ一人。


「試合、出たかった?」


黙ったままじっと整列を見つめている背中にフェンス越しに声をかければ、僅かにゆるくその背中が動いた。
返事は返ってこない。


「(出たかったんだろうなぁ…)」


小さく笑いを漏らせば、んん、と小さな咳払いが聞こえた。



* * *



玉林戦は青学が緒戦のため、途中で決着がついても5試合全てが行われる。
まずは桃とリョーマのD1、それから英二と秀のD2、薫のS3、タカさんのS2、周助のS1。
フェンスを隔てて、貞治と共にネット越しに対面する青学と玉林中を眺めていた時、ふと彼らの足元に目線が落ちた。


「え、パワーアンクル付けたままやるの?」


ジャージを履いていないリョーマや薫の足首には、今日までの部活でも毎日のように使っていたパワーアンクルが当然のように巻かれている。
きっと他の皆もそのジャージの裾を捲れば同じようにパワーアンクルが巻かれているのだろう。
あぁ、といつものノートを片手に持つ貞治が当たり前のように言った。


「このくらい、負荷有りでも余裕で勝ってもらわないとね」
「…まぁ、余裕だとは思うけど。トレーニングにもなるし、いっか」
「そもそも誰も付けろとも外せとも言ってない。アイツらが自分で付けてるだけだけどね」
「貞治も付けてる?」
「勿論、付けてるよ」


私も付けてくれば良かったなぁ、と皆より数倍軽い足をふらつかせていれば、ぺこりとお辞儀をして桃とリョーマをコートに残した他の皆がぞろぞろとベンチに戻ってきた。


「大丈夫かなぁ2人共…」


平然とコートに立つ桃とリョーマに、なんだか逆に心配になってくる。


「あれ?自信があるから推したんじゃなかったの?」


フフ、と笑いながら貞治が言う。


「自信と同じくらい心配もある」
「大丈夫だろう。2人なら」
「そうだといいけどね…」
「俺は新しいデータが取れそうで楽しみだよ」
「桃はともかく、リョーマのダブルスから取れるデータが今後に使えるかどうかは不明だけどね」


審判の声で桃とリョーマペア、玉林中の泉くんと布川くんペアが握手を交わした。


「お前らが天下の青学だったとはなぁ。色んな意味でビックリだ」
「いやぁ、ラッキーかな」


早速そう言葉をかける彼らが、あの日桃とリョーマをダブルスで落としたペアだということはすぐに分かった。
果たしてラッキーなのはどちらなのか。


「ユカイだぜ!!シングルスならお前らの方に分があったのにな」


笑いながら踵を返した玉林ペアにかかる、だろうね、というリョーマの声。
申し訳ないけど、シングルスならば桃もリョーマも分があるどころか簡単に勝てる相手だとは思う。


「でもさあ」


驚きつつ振り返る彼らにリョーマも桃も強い目を返し、


「相手の土俵で叩きのめした方がユカイだからね!」
「お前ら…!その為にダブルスへ…!?」
「ホッとしたぜ。思い通りに対戦できて」


隣で貞治が小さな息を吐いた。


「揉めてるよ」
「成程。ねぇ名前、あの2人のダブルス希望はあれが原因?」


周助が私に笑いかけ、まぁね、と力無い笑いを返した。


「…一日二日でマスターした気でいるのなら…ダブルスはそんな簡単じゃないってことを教えてやるよ!!」
「どうかな。俺達天才的にのみこみ早いぜ」
「助っ人もいたからね」
「はぁ…?助っ人…?」


頼むから余計なことを言わないで欲しい。


「よし越前!阿吽戦法いくぞ!」
「ウィース」


コツ、と桃とリョーマの拳がぶつかり、ワァ青春っぽい、と引いた目の私に集まる諸々の視線。
違います阿吽戦法は私が考えたんじゃないんです。


「阿吽戦法…?にゃにそれ、乾知ってる?」
「いーや、…名前」
「違う私じゃない何も知らない」
「え、どしたの名前…?」


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