緒戦で見事勝利を収めた桃とリョーマを待っていたのは…


「バカモノ」
「「イテテテ!!」」
「勝ったから良かったようなものの!」


ぎゅむりと竜崎先生に頬を抓られる桃とリョーマに、フェンス越しに苦笑が漏れる。
本当に、竜崎先生のおっしゃる通りです…


「お前達、次の試合が終わるまで正座しとれ!」
「「うげ…」」


はよせんか、と竜崎先生に詰め寄られた2人は、顔を引き攣らせながらもベンチ横の空きスペースでのろのろと正座をした。
玉林サイドから、あいつら勝ったのに正座させられてる、と笑いを含んだ声が聞こえ、桃とリョーマの顔がぐぐぐと下がっていく。


「…これ、私もここで正座しようかな…」
「えっ、名前先輩!?」
「なんで先輩が!?」
「そうですよっ、越前達勝ったじゃないですかぁ!?」
「いやぁ…」


そうなんだけど、と1年トリオ達にもにょもにょと口ごもっていると、ふと振り向いた竜崎先生と目が合う。
仕方なさそうに笑った竜崎先生は、お前さんはせんでいい、と言った。


「いやでも…」
「苗字が言った、あいつらの可能性とやらはしっかり見させてもらったよ。だからお前さんは正座なんてせずにこの後の試合もしっかり見て、今後に活かして欲しいねぇ」
「うっ…じゃあ、そうさせて頂きます…」


正直正座は苦手なので有難いです。



* * *



「次は秀と英二だね。いってらっしゃい」


フェンス越しに声をかければ、笑顔の英二がくるりと振り返った。


「ほいほーい!すぐ終わらしちゃうから、ちゃんと見といてよねっ!」
「行こうか英二!あの2人にちゃんとしたダブルスを見せてやらないとな!」


しっかり見とけよ〜!と英二が正座中の桃とリョーマにへらりと笑いかけ、秀と共にコートに入っていく。
そんな2人を俯きつつも目で追う桃達はきっと、相当悔しいのだろう。
後ろから見ていても、ほぼ同時に膝の上で握られた拳に力が入ったのが分かった。


「ーーーゲームセット!ウォンバイ青学、6-0!」


流石は青学黄金ペア。
英二が言った通りあっという間に試合が終わり、ほぼ汗もなく余裕そうな秀と英二がベンチに戻ってくる。


「…あっという間すぎてしっかり見たって分かんねーよ…なぁ越前…」
「…やっぱオレもうシングルスしかやらないっス」


そんな呟きの会話に内心笑いながら、戻ってきた2人にお疲れ様と声をかけた。


「ほんとにあっという間だったね。流石黄金ペア」
「ははっ、さっきのが青学ダブルスだと思われたら」
「困るからね〜」


にひひ、と笑う英二に秀がドリンクを渡し、逆に英二が秀にタオルを渡す。
私を交えた会話の中で、互いを見もせずに当たり前のようにやってのける2人に、こういう所だぞ、と正座を崩して苦い顔をしながら足を伸ばす桃とリョーマをちらりと横目で見た。

…さて、次は…


「薫!」


私の呼びかけに応えるようにすくりと立ち上がった薫は、わざわざ私の前まで来てしっかりと目を合わせてくれた。
そして、


「良い試合、見せますから」


そう言ってくるりと背を向け、コートへゆらゆらと歩いていく。


「いってらっしゃい!」


言葉での返事はなかったけれど、代わりにラケットを持つ手にクッと力が入った。


「ーーーウォンバイ青学!6-0!」


本当は少し心配していたけれど、息を詰めるどころかとてもリラックスして見ることができた試合だった。
いつもより少し力んでいるようだったが、それも試合あるあるだし、薫の持ち味がしっかり見られたし、こう言うのも変だけど息子の発表会が大成功を収めた時の親のような気分なのかもしれない。
戻ってきた薫にベンチ勢共々、ナイスゲーム、と声をかければ、小さくぺこりとお辞儀をして秀の隣へと腰掛けた。


「次はタカさんだよね。ファイトー!」
「うっ、うん…!」
「タカさん、リラックス!」


秀の声援にも背を押されながら、これまでの皆と違って一人緊張に浮かれながらオロオロとコートへ向かっていくタカさんに、あれ?と思ったのは私だけじゃなかったようだ。
いつものバーニングが無い…?なんて思っていれば、くすくすと笑う周助と秀、それから、ぷぷぷっ、と吹き出す英二。
よくよく見てみれば、秀の手に持たれているラケットはタカさんの物だ。


「タカさん、ほら忘れ物。元気の素」
「あっ、ゴメン大石…」


ひょい、と放られたラケットのフレームを焦りながらもキャッチしたタカさんに、相手選手が小さく笑う。
……が。


「かぁああっ!!よっしゃあ!燃えるぜバーニング!!」


しっかりとグリップを握りしめたタカさんの突然の大声、そしてまるっと変わったその雰囲気に、ネット越しの相手選手はビクリと身体を揺らした。


「ぬどりゃあっ!!」


……うん、いつものタカさんだ、安心安心。


「あの先輩、ラケット持ってコートに立つと性格変わるよね…」
「う、うん…」


きっとそのうちすぐ見慣れると思います。


「ーーーゲーム!ウォンバイ青学、6-0!」


タカさんのパワー&パワー球に並大抵の中学生が勝てるはずもない。
ビクトリー!と拳を上げて戻ってきたタカさんに、皆が親指を立てて応えた。


「タカさんナイスパワー!」
「まだまだまだぁーっ!!こんなモンじゃあ」
「はいタカさん、お疲れ様」


振り上げられていたラケットを、周助がするりとタカさんの手から抜き取る。
その瞬間、まるで空気の抜けた風船のように両肩をすぼませたタカさんが、恥ずかしそうにへにゃりと笑ってベンチに腰掛けた。
周助はタカさんのラケットをベンチに立てかけ、隣に立てかけてあった自身のラケットへ手を伸ばした。
vs玉林中、最後の試合は周助のS1だ。


「周助も、いってらっしゃい」
「うん、いってくるよ」


周助は一度こちらを振り返り、にこりと綺麗な笑みを返して颯爽とコートへ向かっていく。


「ーーーウォンバイ青学、6-0!」


黄金ペアもだが、周助も流石である。
汗一つかかず、あっという間に試合を終わらせてこれまた颯爽とベンチに戻ってきた。


「おかえり、早かったね〜」
「ふふっ、母さんみたいな事言うね」


第一試合の多少のごたごたはあったものの…


「ダブルス2勝、シングルス3勝。よって、5勝0敗で青学の勝ちとします!礼!」
「「「ありがとうございました!!」」」


青学緒戦、vs玉林中は見事勝利を収め、決勝に向けて駒を1つ進めた。


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