準決勝以降は会場全体の昼休憩の後となった。
中央広場のホワイトボードに張り出されている大きなトーナメント表に書き込まれたスコアを、運営から配られたトーナメント表のプリントに書き写して一息つく。
次の水ノ淵中との準決勝、それに勝てば恐らく決勝の対戦相手校は…


「名前」
「!」


呼ばれた声に振り向けば、国光と周助が並んで立っていた。


「どしたの?」
「鈴音山と柿ノ木の試合を見に行く」
「名前も行かない?敵情視察」


あぁ、と再度手元のトーナメント表に視線を落とした。
青学とは反対ブロックのシード校、柿ノ木中。
少し前に青学で騒ぎを起こした赤也が、その日練習試合の為に向かうはずだった学校だ。
あの後のやりとりがてら蓮二から聞いた話では、ここ最近柿ノ木中は立海と何度も練習試合を組んでいたらしい。
恐らくだが、準決勝を勝ち上がれば決勝は柿ノ木中とだろう。


「丁度いいや。私も実際に見てみたかったから」
「決まりだね」


トーナメント表を折りたたんでジャージのポケットにしまいながら、2人に合流して別ブロックの試合が行われているコートへと向かった。

向こうのブロックには今大会で注視する学校である柿ノ木中がいる。
…が、私は柿ノ木中とは別にもう一校気になる学校があった。
"不動峰中"……ノーマークに等しい学校だったが、先程トーナメント表のスコアを見た時に書いてあったゲームカウントは5-0だった。
彼らの試合を見た訳では無いからなんとも言えないが、緒戦からストレート勝ちをした学校ともなれば、頭の片隅に留めて警戒した方がいいだろうか。
次のシード校である砂登第二中との試合結果がどうなるか…それによっては一気に警戒度が跳ね上がる。
悶々と考えていると、そういえば、と笑い半分で言う周助の声に私の思考が現実に引き戻された。


「名前は聞いた?越前は次の試合、桃はその次の試合、謹慎なんだって」
「え、そうなの?」
「さっき竜崎先生が2人にそう言ってたよ」
「わぁー…」


勝ったのに謹慎とは、中々厳しいな竜崎先生…
詳しく言えば謹慎というか補欠なんだけど。
まぁ、勝った"けど"って感じなんですが……え、これ本当に私何もしなくていいんですか…?


「…とりあえず、私からはノーコメントで…」
「ふふっ。でも、名前はしっかり名前の役目を果たしたと思うんだけどな?」


ね?と周助が見上げる先で、国光が僅かに動きを止めた後、小さく顎を引く。


「お前が教えたのならば、それをしっかりものに出来なかったアイツらの責任だろう」
「私への信用大きすぎない…?それ…」
「一晩で出来るようになるほどダブルスは甘くないと、身をもって知ることが出来たのならいい」
「もう二度とやらないって越前は言ってたしね」


というより多分だけど、ペアが悪かったんじゃないかとも思う。
桃とリョーマの仲が、というんじゃなくて、単純にテニスにおいての性格の不一致というか。
リョーマはなんとも言えないけど、桃は組む相手によってはダブルスプレイヤーにもなれるとは思うし。
なんて考えながら、隣を歩く2人を交互に見比べた。


「…周助って、基本誰とでもダブルス組めそうだよね」
「僕?そうかな?」
「うん。器用だからダブルスに慣れてる人と組んだら勿論強いだろうし、ダブルスに不慣れな人と組んでも上手くその人をコントロールしてくれそう」
「なら、今後の為にもう少しダブルスの練習も増やしておかないとね」
「えっ、無理はしないでね…!?」
「名前には言われたくないなぁ」
「え!?」


くすくす笑う周助の手前で、ちらりと国光が私を見下ろしてくる。
…なんですか、何か言いたいことでもあるんですか。
じとりと見上げればスっと目を逸らされた。


「国光はどうなの?」
「俺は無理はしていない」
「いや違うよ!もうその話はいいんだって!」
「ん…?」


フフフッ、と周助が吹き出す。


「ダブルスの話!そもそも国光がダブルスしてるの全然見たことないんだけど、やった事ある?」
「…ダブルスの経験はほぼ無いな」


まぁそうだよねぇ、と同調するような息が漏れた。


「でも国光も器用だし、誰がペアでも上手くはまりそうではあるか…?」


と、うちのメンバーを思い返しながら国光と共にコートに立っている姿を想像してみるけれど、どれも周助の時のようにしっくり来ないのが本音ではある。


「うーん…やっぱ秀か周助かなぁ…?案外薫とか…?」
「名前はどうなの?」
「え?私もダブルスはあんまり…」


話の流れで周助に聞かれた言葉に首を振ると、違う違う、と周助が笑いながら同じように首を振った。


「手塚と名前。結構良いペアになるんじゃない?」


私と国光の足がほぼ同時に止まり、ぱちりと視線が合う。
ぽかんとした国光の顔は、たぶん今の私とほぼ同じなんじゃないかと思った。


「え、っと…?国光と私がダブルス…?」
「うん、そう」


にこやかに頷く周助に、また国光へと視線を向けても相変わらずぽかんとした表情のまま私を見下ろしている。
いやだって私はレギュラーメンバーじゃなくてただのマネージャーだし、ていうかそもそも性別が…なんて考えをひっくるめて、いや、でも、と口篭れば、


「今は難しいかもしれないけど、世の中にはミックスダブルスなんてものもあるでしょ?」
「そ、そうだけど…」
「2人がペアを組んだら強いと思うんだけどな。僕は」


ふふふっ、と笑いながら周助が足を進めていく。
それを慌てて追いかける私と、少し遅れて足を踏み出す国光。


「いや、でも、ねぇ…?」
「…なんだ?」


そろりと国光の表情を伺うが、先程の気の抜けた顔はもうどこにもない。
そりゃあ国光とペアを組んだらきっと楽しい試合になるだろうし、なんといっても彼のプレイを間近で見られるんだから願ったり叶ったりではあるんだけど、も。
部活内やお遊びならまだしも、ちゃんとした試合で彼ほどのプレイヤーのペアになるのは荷が重いというか、不慣れなダブルスで足を引っ張ったらどうしようというか…


「…俺とのダブルスは不満か?」
「ち、ちがっ…!逆!逆!!」


慌てて両手と首を振った。


「むしろ国光が嫌でしょ!私と組むなんて、」
「嫌とは一言も言っていないが」
「うぇ…」
「っふふ…いつか見られる日が来るのを楽しみにしてようかな?手塚と名前のダブルス」


にこりと綺麗な笑みを向け、さもいつかそんな日が来るかのような口調で周助は言うけれど、まだ私も国光も"やる"とは言ってませんから…!
私は別に、出来たら楽しいだろうなぁとは思うけれど、国光がはっきりしっかり私とダブルスをやると頷くまでは、この話は記憶の奥底で保留にさせてもらおうと思います。


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