あれから約一週間後。
今日は青春学園中等部の入学式。
リョーマと桜乃ちゃんはどうしているだろうかと思いながらも、慌ただしく動き回る体育館内に目を配った。
生徒会長である国光は勿論挨拶があるし、副会長である私は先生から司会を頼まれてしまったため、朝早くからこうして体育館に集まることになったのだ。
保護者席にはもう既に沢山の新入生の保護者達が座っていて、式のスタートを今か今かと待っている。


「手塚くんも苗字さんも手際が良くて助かるねぇ。式まであと少しあるから、二人とも裏で休憩しておいで」


教頭先生のお言葉に甘えて、私と国光は体育館のステージ裏にある簡易待機室へと向かった。


「膝は大丈夫なのか?」
「んー…まぁ、いつも通り…?」


椅子に座って足を伸ばし右膝を擦る私に、国光が僅かに眉を寄せる。


「だからサポーターを付けろと言っただろう」
「やだよ、目立つもん」
「………」
「それに、皆からあの人どうしたんだろうとか思われたくないじゃんか」


私の膝のことを知っているのは、この学校では竜崎先生とテニス部のレギュラー陣、そしてこれから入学してくるリョーマだけ。
何も知らない人達に変に心配して欲しくないしされたくもないから、普段からサポーターは付けていない。
日常生活を送る分には問題ないし。
ただ、式という立ちっぱなしの時間が長いものは、サポーター無しだと徐々に膝に違和感が出てくる。


「先生達には訳を言って、今からでも椅子を用意してもらったらどうだ」
「いいよいいよ。そこまでじゃないし、司会なのに座るのも申し訳ないじゃん」
「喋らずに立っているだけの時間の方が長いだろう」
「大丈夫だって。式が終わったらちゃんと休ませるから」


はぁ、と国光がため息を漏らした。
こうなったら私は言うことを聞かないことは彼もよく分かっているからだろう、それ以上国光から反対意見が出ることはなくなった。


「何かあったらすぐに言え」
「分かってるよー」


そういえばさ、と話を変えた先は、明日から始まる3年生+2年レギュラー達の遠征の件。
持ち物や集合場所等を確認しながらふと気になっていたことを聞いた。


「桃は、やっぱり行けなさそう?」
「ギリギリまで様子を見たが、あいつの捻挫はまだ完治していない。今回は見送ることにした」
「まぁそうだよね…桃、残念だろうなぁ」
「油断していたアイツの責任だ」
「厳しいなぁ部長」


二人とも、そろそろだよ、という先生の声に私達は簡易待機室を出た。
国光と別れ司会担当の先生と小声で最終確認をしていると、苗字さん、と後ろから名前を呼ばれた。
振り返れば教頭先生が畳まれたパイプ椅子を持って立っている。


「先生達ばかり座っているんじゃあ申し訳ないだろう?途中、何もしない時間も結構あるから、司会をしていない時は座っていていいよ」
「えっ」
「手塚くんに言われてね。確かに、君は一番立ち時間が長いから。気が付かなくて申し訳ないね」
「あ、いえ…!すみません、お気遣いありがとうございます」
「お礼なら、手塚くんにも言ってあげてくれ」


教頭先生が司会者台の脇にパイプ椅子を広げ、じゃあ今日はよろしくね、とにこやかに去っていく。
ちらりと国光の方を見れば、一瞬だけ目が合ってすぐに逸らされた。


「………」
「ふふっ、大事なマネージャーさんだもんね、苗字さんは」


くすくすと笑う司会担当の先生に、なんとも歯切れの悪い返事を返すことしか出来なかった。



* * *



「以上をもちまして、青春学園中等部、入学式を閉会させて頂きます。新入生、退場。拍手でお送りください」


明るくも厳かな曲が流れ出し、沢山の拍手の中新入生達が列を作って体育館から退場していく。
入場の時には気づかれなかったが、ここまで司会をしていたこともあってリョーマも桜乃ちゃんも退場の時にはしっかりと私に目を合わせてくれた。
もちろんリョーマにはすぐに目を逸らされたけど、桜乃ちゃんは少し照れくさそうに小さく会釈をしてくれた。可愛い。
新入生達を見送り、拍手が止む。


「それでは、新2年生の皆様、退場してください」


新2年生が退場し、続けて新3年生が退場し、残るは保護者のみ。
私の仕事もあと少しだ。


「保護者の皆様、大変長らくお待たせいたしました。只今より、保護者の方へのご挨拶と今後のご案内を、本校、校長よりさせて頂きます。本日、拙いながらも司会進行を努めさせて頂きました、青春学園中等部3年、苗字名前。ありがとうございました」


深くお辞儀をした私に、保護者の方からの拍手が届く。
よし、やり切った!
司会者台へと向かう校長先生と入れ替わるようにして、体育館の壁の方へ並べられた役員用の椅子へと腰掛けた。


「椅子、ありがとね」


隣に座る彼に小声でそう言えば、ワンテンポ遅れて小さな頷き声が聞こえた。



* * *



他の生徒より少し遅れて、私と国光はクラス分けの表が張り出された廊下へやってきた。
朝一から体育館に向かった為、まだ自分のクラスを見ていないのだ。
今年はレギュラーの誰かと同じクラスだと嬉しいな…なんて淡い期待を込めつつ、1組から順に眺めていく。
…あ、


「国光は1組か……やっぱり違うクラスっぽいね」
「そのようだな」


国光の名前が書いてあった1組に私の名前は無い。
次は2組…


「ん、秀は2組……あ!!私も2組じゃん!!」
「大石と同じクラスか」
「一安心だ〜…隣のクラスだし、体育とか一緒かもね?」
「…確かに、そうだな」


まぁ男女別だからあんまり意味はないけどね、なんて話しながら、折角だからと他のレギュラー陣を確認すれば、タカさんが4組、英二と周助が6組、貞治は少し離れて11組。


「秀と同じクラスになれたの奇跡かもしれない…」
「良かったな」
「んじゃ約束通り、部活がない日は早く終わった方がお迎えって事で」
「あぁ、分かった」


新しいクラスへ向かえば、久しぶりに聞いた女子からの黄色い声に混ざって、にこりと微笑んだ秀が小さく手を振ってくれた。


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