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入学式の次の日から予定を詰めて行われた遠征から帰還し、竜崎先生への用事を済ませに行った国光以外のメンバーでコートへ向かう途中。
「越前リョーマ?」
前方から聞こえた秀の声に、ぴくりと私の頭が揺れた。
「聞いたことある?」
「いや…」
「桃の話じゃ、並の1年じゃないってよ」
そっか、桃は今回の遠征はお留守番だったから、もうリョーマとも会ってるのか。
英二の言い方からして、恐らく桃はリョーマが球を打つところを見たのだろう。
しっかし話が回るのが早いな。
「名前は知ってる?越前リョーマ」
くるりと振り返った英二に、私はにこりと笑って見せた。
「どうだろうね?」
「えっ…名前のどうだろうね〜って久しぶりに聞いたかも…」
「フフ、その言い方だと、知っているように聞こえるね」
「さぁ?」
前を向いたままほぼ確信的に言う貞治へ、同じようににこりと笑って見せた。
えぇ!?と、歩く速度を落とした英二が私の隣へと並ぶ。
「知ってるならどんなヤツなのか教えて!」
「んふふ、すぐ会えるんじゃない?」
「む〜っ、名前のケチ!」
「あっ、もう英二には教えてあげなーい」
「ご、ごめんてぇ〜!!」
くすくすと笑いながら歩いていけば、段々と見えてくるテニスコート。
そこではもう既に来ている部員達が自由に打ち合いをしている。
その中に、リョーマの姿も見つけた。
しかし私の視線はその後方で何やら集まっている、体操服だから恐らく1年生であろう集団へと向けられた。
一人だけ派手なウェアを着ている少年も気になるが…
「なんで1年生あんな固まってんだろ。親睦会?」
「さぁ?まだ手塚は来ていないみたいだし、いいんじゃないかな」
「……あ」
そんな1年生集団に近寄るのは、2年の荒井くん。
根はいい子なんだけど……あの様子じゃあ……
「…あの野郎……あまり気にしない方がいいっスよ、名前先輩」
「うーん、まぁ…怪我しなきゃなんでもいっか」
「そ、それもどうかと思うけど…」
「さぁ、行こうか」
秀がフェンスゲートを押し開け、私達はその後に続くようにコートへ入っていく。
途端に、ちぃーす!!と大きな合唱のような挨拶が飛んできた。
ちら、と横目でリョーマを見るとぱちりと目が合い、
welcome.(ようこそ)
口パクでそう伝え笑いかければ、リョーマはすっと帽子のつばを下げて目線を切った。
「名前ちゃん、球出し手伝ってもらってもいいかい?」
「sure.(勿論)…あ」
「ふふっ、頼もしいね」
愛用のラケットを取り出し、秀の隣に並ぶ。
向かいのコートの左右に交代制で一人ずつ立つレギュラー陣に、私は右側、秀は左側を目安に前後左右ランダムなロブを出した。
彼らだからこそ、私は安心して対面のコートに立てる。
「ホッ!」
「ふっ」
「不二、ステップ遅れたぞ」
「フンッ」
「薫、振り抜きが甘いよ〜」
アドバイスは出すものの、
「すげぇ!!全員どこにロブ出しても全て…!」
彼らが返すボールは全て、正確にカゴへと戻ってくるから。
「あんなスマッシュ練習見たことねぇ!」
「あれが青学のレギュラー陣か!!」
並ぶレギュラー陣の向こう側、私の視界に、こちらの練習をじっと見つめているリョーマが映った。
…あるじゃん、手っ取り早く皆にリョーマを認知させる方法が。
「おっと、手が滑った」
「!」
周助に出そうとしていたロブは彼の頭上を大きく越え、リョーマの方へと飛んでいく。
さぁ、どうする?
誰もが私の打ち上げたロブの行方を追う。
その先で、リョーマはラケットを振り上げ、
ドッ
私の予想通り、リョーマが打ったスマッシュは、私と秀の間にあるカゴへと真っ直ぐに返ってきた。
「案外簡単だね」
その言葉は、挑戦的な笑みと共に真っ直ぐと私に飛んでくる。
「…あの子が越前リョーマだよ」
「へぇ…」
横目でちらりと秀を見れば、彼は期待を込めた目でリョーマを見つめていた。
「やっぱテメーだったのか!名前先輩にナメた口ききやがって!!」
「え、ちょっ」
ただ、私の予想を越え、何故か荒井くんがリョーマへと突っかかるように詰め寄った。
「1年坊主がしゃしゃり出る場所はねぇんだよ!!」
「………」
「ちょっとちょっと…!」
リョーマは流石とも言うべきかたいした反応は返していないが、がしりとリョーマの胸ぐらを掴んだ荒井くんに慌てて駆け寄ろうとすれば、
「コート内で何を揉めている」
まさに鶴の一声。
助かった、とほっと胸を撫で下ろした。
「「「ぶ、部長ーっ!!」」」
騒がしかったコート内は途端に静かになり、全員が国光に対して頭を下げた。
すぐ後ろから、あちゃー…と秀の呆れ笑いが聞こえてくる。
「騒ぎを起こした罰だ。そこの2人、グラウンド10周!」
「え」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ、コイツが…!」
「20周だ!!」
「は、はい!!」
「うわぁ…」
本当に、あちゃー…だなこれは…
ごめん、リョーマ…
「全員ウォーミングアップ!済んだ者から2年3年はコートに入れ!1年は球拾いの準備につけ!以上!!」
「「「ハイ!!」」」
国光の声に散り散りになっていく部員達を見ながら、周助がにこやかに私の方へと近づいてくる。
「上手な手の滑り方だったね、名前」
「元凶私なんだけど、20周した方がいいかな…」
「しー。黙ってたらバレないよ」
「ごめんね2人共…」
周助とコソコソ話をしていると、いつの間にかすぐそこにいた国光に私の名前が呼ばれた。
びくりと肩を揺らせば、国光は不思議そうな顔をこちらに向ける。
「どうした?」
「な、なんでもない…!何?」
「最初は1年のウォーミングアップを見ていてくれ。その後は球出しを手伝って欲しい」
「おーけー」
去っていく国光に、バレてないよね、大丈夫だよ、とまたしても周助とコソコソ会話をし、ほっと息をついた。
その後、私は仕事の合間合間にハラハラしながら荒井くんとリョーマのグラウンド20周を盗み見ることとなったのだった。
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