満開の桜の下で


ひらひらと桜の花弁が舞う。
広げられたレジャーシートや、無造作に置かれた簡易椅子に適当に座り、皆の片手に持たれているのはジュースやお茶の入った紙コップ。
一同の視線を受け、私は少し緊張半分で口を開いた。


「えっと、乾杯…!」
「「「かんぱーい!」」」


今日はなんと、青学テニス部のレギュラー陣が我が家の庭に大集合。
いつだか国光と話をした、うちの庭の桜が満開になったら皆でお花見をしよう、というあれがついに実行される日が来たのだ。

一気に騒がしくなる一部に笑いながら上を見上げれば、私と同い年にも関わらず大木となった桜の木。
この木が無ければ彼らはここに集まることは無かったんだよなぁ…


「それにしても、立派な桜の木だね」


張り切ったおばあちゃんが沢山作ったのにも関わらず、謎に料理の取り合いをする桃と薫。
そこから避難するようにこちらに近づいてきた周助が、私と同じように桜を見上げて微笑んだ。
おぉ…めっちゃ桜が似合うなこの人…


「私が生まれた年に植えたんだって。だからこう見えて同い年なんだよ、周助ともね」
「へぇ…同い年の桜なんて、素敵だね」


周助はバッグからカメラを取り出し、にこりと笑う。


「折角だし、皆で写真撮らない?」


私が返事をするよりも早く、どこからか英二がぴょこりと跳ねて現れた。


「撮ろ撮ろ〜!」
「わ、」


ぽん、と肩に回される英二の腕。


「ほい不二!撮って撮って〜!」
「え、ちょ、」
「いえーい!」
「い、いえーい…!」


英二に流されるまま、二人でVサイン。
パシャ、とカメラのシャッター音が鳴り、何も考える暇もないままに周助がその画面をこちらへと向けてくれた。


「お!いいじゃん!」


後でちょうだい!、いいよ、と交わされていく会話の中で、今度はカメラは英二に託され、周助が私の隣に並ぶ。


「え、皆で撮るんじゃ…?」
「時間はたっぷりあるけど、思い出の瞬間は何枚あっても足りないと思わない?」


………、それも、そうか。
笑顔で並ぶ私達の時間を、カシャリという音が切り取っていく。
満足気に頷く英二と一緒に今撮られたばかりの写真を見ていると、あー!という大きな声。
振り返れば桃が不満そうな顔をこちらに向けていて、


「ちょっとちょっとぉ!先輩達ばっかズルいッスよ!俺も名前先輩と写真撮りたいッス!!」


食べかけの料理を簡易机に置き、桃がばたばたと駆け寄ってくる。
ふと薫と目が合い、彼はなんとも言えなさそうな複雑な表情で視線を揺らした。


「ふふ、薫もおいで!一緒に撮ろ!」


私の言葉にぴくりと反応を見せた薫は、ッス、と小さく漏らし、ゆらゆらとこちらへ歩いてくる。
後輩二人に挟まれるような形で並び、周助がシャッターを押した。


「…ププ…海堂お前、こんな時でも仏頂面かよ」
「ウルセェ…!ケチ付けてんじゃねぇ!」
「まぁまぁ、薫らしくていいじゃんねぇ」


クククと笑う桃と、いつまで笑ってんだとそれに突っかかる薫を他所に、私は国光達の元へ。
国光、秀、貞治、タカさんとほんわか大人しい空気が流れるそこに入り込めば、国光以外が和やかな笑顔で迎えてくれた。


「あの二人はどこにいても変わらないね」


まるで保護者のように桃と薫へ視線を向けて面白そうに言う貞治に、全くだ、と厳しい目を向ける国光。


「人様の家だということを理解しているのか、あいつらは」


向こうは相変わらず薫から桃への視線に火花が散っているけれど、いつの間にか四人での撮影会が始まっている。


「いいよいいよ、いつも通りでいてくれた方が私も楽しい」
「…お前がそう言うなら、いいが…」
「おばあちゃんもおじいちゃんも言ってたけど、自分の家だと思って過ごしてよ」
「あぁ、有難くそうさせてもらってるよ」


秀の言葉に頷いて見せたタカさんは、でもさ、とそわそわと周りを見渡す。
どうかしたのかと目を向ければ、タカさんは微笑みに怖々としたものを混ぜて家の方を振り返った。


「ここがあの苗字北斗の実家だって思うと…緊張するというか…アハハ…」


私からしたら普通に生まれ育った我が家で、父さんがいたことも当たり前のことなのだが…まぁ、彼らからしたらそうなるのも頷ける。


「あー、父さんが学生時代に使ってたラケットとか、もしかしたら倉庫にあるかもね」


そう言えばそれに食いついたのは貞治で、どこから取り出したのかいつの間にかいつものノートを片手に是非見せて欲しいと言われた。


「苗字北斗の実家、か…」
「なんなら父さんの昔の写真とかもあるんじゃないかな?」
「えっ、それって俺達が見てもいいの…?」
「別にいいんじゃない?興味があるなら後で探してくるよ」


それより、と近場にいた国光とタカさんの腕を片方ずつ攫い、軽く引っ張れば彼らはなんだなんだと立ち上がる。


「写真撮ろうよ!思い出にさ!」


おーい、と英二が私達に手を振った。
笑い、微笑み、私達を迎える彼らの元へぞろぞろと向かえば、どこからともなく吹き抜けるそよ風が薄紅の花弁を散らし、今この瞬間の思い出を彩っていく。


「来年も皆で桜を見れたらいいね」


私の小さな呟きに、仲間達の微笑が返ってくる。

未来のことはその時にならないと分からないけれど、たとえ私達がどんな道を進んだとしても、またこうして朗らかな笑顔が満開の桜と共に咲くことを願って。
今まで歩いてきた道も、これから歩む道も、この先ずっと色褪せることなく暖かな色のままそっと心に咲いていてくれたら。


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