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桂さんの横で寝るだけ
 目を開けたまま寝てる彼の目をそっと閉じてあげる。疲れてぐっすりだから多少触っても起きないだろうと思っていたけど、離れようとしたら腕を引かれた。
「どこに行くんだ」
 いつもの彼なら「嫁入り前の娘が男の部屋に気安く入るな」と説教が始まるところだが、相当参っているのか寝ぼけているのか。いずれにしても、彼が甘えてくれることなんて滅多にないから嬉しい。
「どこにもいかないよ」
 そう言って布団の側に座り直すと、半分起き上がった彼が嬉しそうに小さく笑った。それから呆れたようにこぼす。
「まさか、一晩そこで座っているつもりか?」
「それでもいいよ」
 それが彼の望みなら、一晩でも二晩でも、起きたまま彼の隣にいたっていい。
 彼の望む日本の夜明けを、私には共に追いかけさせてくれないと知っている。だからせめて、彼が私に望んでくれたことは、どんな小さなこともひとつ残さず叶えたい。
「そうじゃないだろう」
 重ねられた手に優しく力が込められて、小さく手を引かれる。
 私はその手に従って彼の腕の中に入る。いつもは冷たい布団も、彼の体温で既に温かい。
「お前を抱きしめていると、安心するな」
 ゆっくりと語る幸せそうな声がいつもより近くて、年甲斐もなくどきどきする。
 私は抱きしめられているから安心するけど、抱きしめる側は何に安心するんだろう。それを聞こうと彼の方を見ると、また目を見開いて眠っている。今度はそれを放っておいて、彼の体温を感じながら目を閉じた。
 また瞼をおろしてあげたかったけど、彼の抱きしめる力が思いの外強くて手を出せなかったから、これも彼が望んだことだ。
palladium