01

通信が走り、画面が起動する。
執務室に誂えられた大きな黒いモニターが稼働する瞬間が、この本丸の目覚めでもあった。

『おはよう、兼さん』
「あぁ、おはよう。主、」

映し出されるのは一人の女性、彼女がこの本丸の審神者であり彼らの主だ。
くつろいだ服装の彼女はゆるりと力の抜けた笑顔を見せた。その黒髪はところどころ好き勝手に跳ねている。
寝癖か、和泉守の唇が苦笑に緩んだ。国広が見たらまた口煩くなると、和泉守は口を開く。

「おい、寝癖が」

瞬間、プツリと画面が切り替わった。
穏やかな表情の審神者は画面から消え、代わりに映し出されるのは編成画面。第一部隊と書かれたそこに所属しているのは現在和泉守一人。
カチカチと軽やかな音を立ててカーソルと呼ばれる白い矢印が移動し、和泉守が所属されていることを示す欄の右端に移動する。その様を見つめて、和泉守はそっと目を伏せた。さらりと流れた彼の自慢の黒髪がその表情を覆い隠す。

申し分のない主だと思っている。その采配も主としてあろうとする熱心さも。
女の主など外れを引いたと思っていたがそれも初めのころだけのこと。あちら側からではそうやれることなど多くはないはずなのに、学び挑戦し続けそれを結果につなげていくその姿勢にどの刀も見方を変えた。
確かに女は非力で守らなければならない存在で、前の主のように共に戦場を駆けることはできないだろう。だがそれでもいいと思えるほどにこの本丸の刀たちは皆彼女を認めていた。

「…主」

カチ。和泉守の姿が表示されている編成欄の右端をカーソルが押す。瞬間、ゆらりと存在が揺らぐような感覚が和泉守を襲った。
そして何度か響く軽やかな音の後、何かが抜け落ちるような感覚を味わうことを彼は知っていた。痛みに身構えるように俯く姿は普段の溌剌した彼の姿とは程遠かったが、それを見るものは今は誰もいなかった。

「アンタに、会いてぇなぁ…」

この本丸の審神者は一度も本丸に足を踏み入れたことがない。
そしてそれはすなわち、刀剣男士と一度も会ったことがないことを意味していた。

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