ずしりと微かに感じた重みが体の動きを鈍らせる。それに気づかないふりをして彼に手を差し出した。

「私はエクラ、貴方を召喚したものです」
「召喚士なんだね。よろしくエクラ」

ルフレと握手を交わした後、レイの方に向き直る。
知識欲が旺盛なのだろうか、召喚を見たレイの瞳はきらきらと輝いていた。どちらかというとニヒルな笑みが似合いそうな彼の子供らしい一面に心がほっこりとする。

「すごい、こんな召喚初めて見たよ」
「ありがとう。喜んでもらえて、見せた甲斐があったな」
「そんなに凄かったなら僕も見たかったな。あ、僕はルフレ。君は?」
「レイ。俺もさっきこの人に召喚されたばっかりなんだ」
「そうか、よろしくなレイ」

好青年なルフレにレイもうんと頷き返していて、仲良くなれそうだなとほっと一息。アンナたちの方を向こうと振り返った時だった。

「あっ」
「おっと、」

よろりと足がよろけて、そこをすかさずルフレに受け止められた。ありがとうとお礼を言おうとして、さっきまで笑顔だった彼の顔がしかめられていることに気付く。

「エクラ、顔色がよくないな」
「…本当だ。さっきまでは何ともなさそうだったのに」

心配そうにルフレとレイに顔を覗き込まれる。大丈夫、とそう言おうとした言葉はその後にやってきた来訪者によって宙に消えた。

「大変です!!!」
「どうしたの」

アルフォンスがやってきた時から扉は開け放たれたままだった。そこに駆け込んできたのは鎧を身に着けた、兵士だろうか。
焦ったような声に鋭い声でアンナが応じる。そこにいたのは確かに特務機関の隊長だった。

「先程伝令が入りました!エンブラの帝国兵が『紋章の異界』を支配したようです!!」
「…そう。ならばするべきことは一つね」

状況が掴み切れていないのは私とレイとルフレで、けれど私以外の二人はこれから起こることを理解しているのか硬い表情だった。
アンナの声が低く鋭くなる。彼女の言葉に頷いて、アルフォンスがこちらに声をかけた。

「エクラ、そしてレイ、ルフレ。さっそくで悪いけれど、君達の力を貸してくれるかい。敵国、エンブラ兵と戦って異界の地を解放しよう」

もちろんと言葉を揃えてくれたレイとルフレにほっと息をついて、私も頷いた。声を出そうとしたのだが、何だかどんどん体が重くなっていっていて頷くにとどまってしまった。
私達が肯定を返したのを確認してからアルフォンスは私を見つめてきた。青い瞳がかすかに細められて、眉根が寄せられる。案じるような表情だと気づくまでに少し時間がかかった。

「レイ、ルフレ。エクラは戦えない」
「…そうなの?」

微かに目を見開いてレイが問いかけてきた。そんなにたくましく見えるのだろうかと苦笑交じりに頷く。

「そんなに魔力があるのに、戦えないんだね」
「そうだね、意外だ。でも戦えないなら僕らが守るだけだ」
「…まぁ、そうだね。頼りなさそうだし、あんたは俺が守ってあげるよ」
「二人とも、ありがとう」

見捨てられないでよかったと。そんな思いで返事を返す。
けれど魔力が多いようなことを言われたがそうなのだろうかと内心で首をかしげる。自覚がなかったなと考えているうちに、皆はぞろぞろと部屋を出ていく。
慌てて駆けよれば振りむいたアンナにずぼっとフードを被せられた。

「今から戦場に行くから、エクラは約束通りにしっかりフードを被る!」
「…そうだね、戦えないうえに女性じゃすぐに狙われてしまう」
「せめてもう少し人数がいれば護衛をつけられるんだけど、」

アルフォンスが深刻そうにつぶやいた言葉にルフレが同意を返し、レイは心配そうに隣に並んでくれた。護衛という言葉に足手まとい感も一塩だと縮こまる。

「エクラ、僕かレイから離れないで。レイも僕も魔導士だから、敵から離れた位置で君を守ってあげられる」
「うん。敵は俺が倒してあげるよ」

何度もかけられる言葉は彼らが真摯に私を護ろうとしてくれている証拠だ。その言葉に勝手に頬が綻ぶ。

「みんな、ありがとう。頼りにしてます」
「うん、期待には答えるよ」
「あんたには指一本触れさせないよ」

初めての戦場だというのに恐怖はあまり感じていなかった。
そうして私たちは戦いへと赴く。この世界での初めての戦いだった。


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