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暗い藤色の髪が揺れた。初めての一血卍傑で生まれた彼は何も言わずとも状況を理解してくれたらしい。
山吹の襟巻をなびかせて瞬きの間に本殿に押し寄せた悪霊を殲滅した彼は、辺りを見渡して敵の姿がないことを確認すると屏風の影に隠れるようにしていた私の元までやってきた。

「我が主殿は随分と危うい状況にいるようだな」
「…見ての通りです。助けていただき、ありがとうございました」

自分でも気づかない間にしゃがみこんでいたらしい私に手を差し伸べて彼はその勿忘草色の瞳を細めた。差し出された手を取ればぐっと引っ張られて立ち上がらされる、も。

「あっ」
「、」

かくんと再び膝の力が抜けた。
崩れ落ちそうになるもすぐさま腰に回された手に支えられ、そのままふわりと持ち上げられる。

「腰が、抜けたようです…」
「そのようだな。俺が抱えていよう」

細められた瞳に呆れの色がないことに密かに安堵して、それからふと名前を聞いていないことに気付いた。見上げた顔は口元が山吹色の襟巻に隠され表情を察しづらかったが、眼差しに問うような色が見えた気がしたので気にせず口を開く。

「あなたは、」
「申し遅れた。俺の名はモモチタンバだ。…覚える必要など、ないがな」

名乗りに付け加えられた言葉の意図がわからず、近くにある勿忘草色の瞳を覗き込む。
この体に残された記憶と本物の独神から受け取ったいくばくかの情報から察するに、これから続く戦いは長く険しいものになるだろう。戦いと言ってもただの現代人であった自分にその指揮がとれるとも思っていない。誰かの助けを借り一つでも多くを学んでいかなければいけない状況で、目の前の英傑を逃すわけにはいかなかった。

覚える必要などないと距離を感じさせる発言をしたモモチタンバを、その心の意図を察しようと感情の色が薄い瞳を見つめ続ける。答えを見つけなければこの人物が離れて行ってしまう気がしていた。
そんな私に何を思ってか勿忘草の瞳が微かに細まる。わらった、とそう思うよりも早くその端正な顔が近づいてくる。

「ああ、いい顔だ。俺を求める貴殿のその顔、悪くはない」

低い声が耳元で囁く。感情の色の薄い表情よりもその声のほうが余程わかりやすかった。
捨てられない、大丈夫だと安堵の思いが胸中に広がっていく。

「モモチタンバ、この八百万界を守るため私に力を貸してください」
「いいだろう、独神――いや、主殿。この俺を存分に使うがいい」

孤を描く唇が襟巻の影から見えた。
それが私が初めて行った一血卍傑で産魂みだした英傑モモチタンバとの出会いだった。




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