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2017/05/22(Mon)ネタ

信長リスペクト審神者と大包平2


大包平も信長様もあんまり出ない。山もない、落ちもない。いつかシリーズ化したい。


「主」

部屋の外から生真面目な長谷部の声がした。審神者は返事があるまで決して扉を開けようとしない、この刀の礼儀正しさを割と好ましく思っていた。

「どーぞー」
「失礼します、主」

長谷部の家臣然とした態度に釣られるようにして、少しばかり崩れていた審神者の背筋は伸びた。

「今は……休憩中でしたか?」
「うん、休憩中。…あー、というよりは今日分の仕事はもう終わりだ」
「随分お早いですね、流石です」
「う、うーん。まあ、ね」
「……では、その文は私用のもので?」

長谷部は審神者のやや散らかった机に目を落とした。終わったという仕事の書類は端にまとめられている。その代わり、机の真ん中をを占領しているものは可愛らしい便箋であった。審神者の歯切れの悪い返事が少し気に掛かったが、それよりも長谷部は彼女がそのような便箋を送る相手が誰なのか気になった。

「うん。はは、こんな可愛い便箋使うの久しぶりだよ」
「主の時代のご友人に、ですか?」
「え、ううん。大包平宛にだけど」
「お、大包平!? こ、の本丸にいるあの、大包平ですか……?」
「うん」

審神者の予想の斜め上の答えに、長谷部は驚きを隠せなかった。まさか相手が刀剣であったとは。同じ屋敷内にいるのだから、文通など手間がかかるだけではないか。雅なことにさして理解のない長谷部は大包平への不満よりも、何故、という気持ちの方が上回った。

「一体何故……」
「ああ、それは……」

審神者は大包平に手紙を書くに至る経緯を話し始めた。



それは、審神者が事務的に書類を捌いていた、今日の昼過ぎのこと。

「入るぞ、審神者」

襖越しでも大きな声が審神者の耳に届いた。
審神者が返事をする前に、勢い良く扉が開いた。なんの躊躇もなく審神者の部屋に入って来たのは大包平だった。

「……大包平、また許可無く入って来たな」
「声なら掛けたぞ? なんだ、俺に見られて困るものでも有るのか」
「そんなものは無いけど……はぁ。次は気を付けてくれよな」

大包平と審神者の仲は悪くない、むしろ良いと言える。だが、少し前、大包平の様子がいつもと違った時があった。審神者は大いに困惑した。関係が大きく変わったという訳でもないのだが、やはりその時以来、大包平は審神者に対して些かばかり遠慮が無くなった。ーー元々、有ったかどうか分からない大包平の遠慮が無くなったのだ。主人に対する態度としては尊大と言える。審神者も主としてのプライドというものを少なからず持っていた為、そのことが気になってきていた。

「えっと、用事は何かな?」
「ああ、審神者宛の文を持ってきた」
「ん、ありがと」

差し出された手紙の封筒は、シンプルながらも上等な和紙で作られたものだった。また、宛先も送り主の名も書かれていない。てっきり政府関連のものだと思っていた審神者は、キョトンとして大包平を見た。

「これ……、誰からのか分かる?」
「俺からのだ」
「お、お?」
「俺が、審神者に宛てて書いた文だ。しっかり読めよ」
「んんん?」

ではな、と大包平は疑問符を浮かべる審神者を置いて、妙に達成感に満ちた顔で去っていった。

取り残された審神者は渡された手紙を不思議そうに眺めて、大包平は中々に変な奴なのだなと、自分のことを棚に上げて思った。
しっかり読めと言われたので、取り敢えず読んでみよう。そうして、審神者は手紙を丁寧に開けた。



「それで読んでみたら、えっと、まぁ……、面白い内容だったよ。私と文通したい、みたいな感じのことも書いてあった」

話を聞いて長谷部は絶句した、主と文通など、なんて烏滸がましい奴なんだ、と。

「主のお手を煩わせる等……、有ってはならないことです。俺が迷惑だと言って来ましょうか」
「いや、いや……、別に大丈夫。大包平がウチに来たのは最近だったし、絆を深める良い機会じゃないかな」
「ですが、」
「それに、手紙をもらったからには返事をしなくちゃ」
「……主が、良いのなら、良いのですが」

引き下がったが、長谷部は不服だった。長谷部は大包平のことを物事を面と向かって伝えるヤツだと思っていた。そんな風に思っていたので余計に、文の中身は何かよっぽど直接言い難いようなことだとしか思えなかった。



長谷部が審神者の部屋を出ていった。それを見届けると審神者はふぅ、と大きく息を吐いた。

「(大包平からの手紙……。一体どんな返事を書けば良いのやら)」

審神者は長谷部に、大包平からの手紙の内容を意図的にぼかして言った。それは偏に言いづらい内容であった為だ。
不快な内容という訳では無い。ただ、意図が分からなかった。自分はこんなにも凄いのだ、と常日頃からアピールしてくるあの刀らしくない手紙。手紙の中身は、織田信長について細かく書かれたものだったのだ。それも、学校で習うようなことではなく、信長の内面に言及するような雑学じみたことばかり。
信長を尊敬して止まないこの審神者にとっては、既に知っている知識ばかりだったが。

「(信長様は実は甘いもの好き。南蛮から洋酒やらを受け取っていたが、すごく酒に弱かった云々……、なんでこんなに偏ったことばかり書いたんだろうか、大包平は)」

よく分からない、と審神者は項垂れた。すぐに返事をくれ、と書かれていた訳では無いが、あの刀の気質からしてそんなに気長に待ってくれるかどうか分からない。
うんうん唸っていた審神者だったが、しばらくするとガバリと頭を起こした。
審神者は何か閃めいたようで、筆をとると凄い勢いで手紙を書き出した。





「鶯丸、審神者から返事を貰った……」
「へえ、随分早かったな。それで? どうだった」
「……俺は、織田信長の欠点を書いたつもりだった。もしかしたら、審神者は織田信長についてよく知らないから信奉しているのではと思ってっ……、幻滅すればいいと思ってっ……!」
「ほう(意外によく考えているんだな)」
「なのに審神者はっ、アレらを織田信長のカワイイところだと! 俺が、織田信長の魅力をよく分かっているようで嬉しい誇らしいと……! ギャップ萌えとは何だ!?」
「それはまた、随分と……(面白いな)」
「そうだろう、おかしいだろう!? どう考えても、天地がひっくり返っても、第六天魔王が可愛い筈がない! 前々からあの女は、どこか変わってると思っていたが、ここ迄とは……」
「なんだ、幻滅したのか?」
「……いや、それは無い。よくよく考えてみれば、織田信長を可愛いの一言で片付けているんだ。あの女の器は相当なものかもしれない。……まあ、俺が認めた審神者なのだから当然だがな!」
「(主のことになると大包平は何時もより更にうるさいな)成る程、恋は盲目とはよく言ったものだ」
「…………こいだと?」
「ん?」
「誰が、誰に、……は?」
「……」

大包平が今日も馬鹿(略)

落ちなし

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