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2017/08/23(Wed)ネタ

信長リスペクト審神者と初期刀まんば

政府の役人視点

あ、あー、コン、コン。
マイクテスト、マイクテスト。え? 必要ない? まあまあ、そんなこと言わずに、これをすると気分が乗るのです。
……こほん。では改めて、ただ今から政府への定期報告を始めます。
当本丸に主さまが就任して丁度一年。戦績は優秀、男士達との関係も良好。任務は確実にこなしております。実に順調、わたくしもサポート役として鼻が高うございます。

……しかし、その、少し気になることが有りまして。……いえ! そのような事は決して! 政府が気をもむような不祥事では有りません! 油揚げに誓って!
こほん、……説明が少々難しく。
そこで、わたくしがこれまで記録してきた映像を見ていただこうかと。此度は山姥切国広様なのですが……。
なんと、面倒くさいですと? 貴方のような客観的な目が欲しいのです。狐助けだと思って。あなたの男気を見込んで、ここは一つ頼まれてください。
あ、編集はしたのですが、偶にわたくしの音声が混ざっております、悪しからず。





「山姥切国広だ。......何だその目は。写しだというのが気になると?」

(主さまの審神者就任一日目。主さまは初期刀に山姥切国広を呼び出した)甲高い管狐の声が響く。審神者が何も反応しない様子を見るに、この音声は管狐の心情らしい。
管狐は審神者の腕に抱かれていた。審神者の胸元から仰ぎ見る顕現したての山姥切国広は、殊更に無愛想である。管狐の丸い目がジッとその様を見詰めている。

ぱつきんあおめ、と何処か呆然とした女の呟きが小さく聴こえた。(ああ良かった、主さまの呟きは山姥切様には聴こえていない)そしてすぐに、取り繕うような咳払い。

「そ、そんな変な目してた、かな? ごめん。……貴方の主だ。優秀な刀だと聞いている、これから頑張ろう」
「……ああ、主の命令なら働くさ。だが写しなんかに余計な期待は不要だ」
「んん……、そう。でも、天下一になる腹積もりで、頑張ってくれ。私も頑張る」
「、天下一……?」

山姥切は審神者の何処かずれた発言に、少し戸惑っている。(ああもう、審神者業に天下一も何もないとあれ程言ったのに!)管狐は審神者の腕から飛び降り、その豊かな尻尾で審神者の足をもふもふと叩いた。審神者にダメージは無い。それどころか癒しを与えてしまっている。
女のくすぐったそうな、軽やかな笑い声が部屋に響いた。
ーー何処かぎこちなく、何処か微笑ましい、初々しい審神者の第一歩の記録だ。その記録に特筆すべき不審な点は見当たらない。

ぶつりと映像が切り替わる。

管狐は黙々と山積みの油揚げを食べていた。
審神者は黙々と自身の部屋の壁の高い位置に何かを設置していた。管狐はそんな彼女の後ろ姿を無感動に見つめる。油揚げを食む口の動きは止まらない。
そこに山姥切国広が入って来た。

「……おい、なんだ? この、……珍妙な何かは。俺が出ていたこの短時間に、あんた何を作ったんだ」
「珍妙とは失礼な。神棚だよ、お祈りとか出来る場が欲しくなってね。戦の勝利祈願とかさ。……まあ、即席だから、少し歪だけど。でもかっこいいでしょ?」
「歪というか、なんと言うか、異常に禍々しいんだが。神棚ってこんなものだったか? 普通は札とかを置くんじゃ、……一体何を祀ってるんだ?」

審神者が神棚と言った板の上には、髑髏をモチーフとした器のようなモノや、異様に精巧に作られた玩具の銃。そして、その後ろの壁に、織田の家紋が大きくあしらわれた赤と黒を基調とした布が貼り付けられていた。
その神棚と呼ぶスペースは、山姥切国広が言うように、異常に禍々しいオーラを放っている。

「私がこれまでに集めてきた織田信長様グッズだよ。これからもっと増やす予定。山姥切も一緒に拝むか?」
「ああ……、織田の……。俺はよしておく、特に縁も無いからな」
「そう……、残念」

管狐は買収されていた。審神者の行い何も言わず、何もせず、ただ無心となって好物を胃に収めていた。
審神者の信仰心はもっぱら織田信長に向いているらしい。付喪神という神を側に置きながら、他の存在を一心に崇め奉る、不敬と捉えられてもおかしくはない。
しかし、人間の信仰心は誰にも抑制出来ない。問題と言えば、審神者の立場にある。
上に立つものが、従者の前で他に跪き仰ぎ見る。それは従者の不満の種になりかねない。管狐はこの行いを止めるべきだった。
いや実際一度は止めたのだ。しかし制止の声は油揚げを前にして、無力にも塞がれた。

そして案の定、審神者の行動は山姥切国広の拗らせた卑屈さをさらに膨らませた。そこには織田信長ばかり目を向ける審神者への不満も含まれていた。

「……前々から思っていたが、あんた、そんなに織田信長が好きなら、それに縁のある刀を側に置きんたいんじゃ無いか? ……写しの、俺なんかよりも、名だたる名刀を」

拗ねたような、批難しているような声色であった。その癖、その顔には自嘲的な笑みが浮かんでいる。
審神者がその声に振り向くと、山姥切国広はうつむき加減に顔を逸らした。薄汚れた布と長めの前髪で顔が見えなくなる。
審神者は一瞬、考えを巡らすように、宙に目を向けた。

「……確かに、信長様に縁のある刀がウチに来てくれれば、凄く嬉しい」
「……っ、やはり俺が写しだから、」
「最後まで聞いてよ。……けど、それを山姥切が気にすることなんてない。私は山姥切を呼び起こした時、とてもとても、嬉しかった。たぶん、今までの人生で一番の喜びだった。大袈裟に言ってるんじゃないよ?」
「……」
「私にとって、山姥切国広は天下へのとても大きな第一歩なんだ。……それでも山姥切が織田を、写しを、気にするというのなら、私が山姥切を、天下一の写しにする」
「…………天下一の、写し?」

そこで山姥切国広はキョトンとし、首を傾けた。聞き慣れないワードを復唱する。
ようやく硬い表情を解いた己の刀に、審神者は目を輝かせた。少し彼女の頬が赤らみ、興奮したように声を弾ませた。

「そう! 私が天下統一を果たした暁には、山姥切国広は晴れて天下人の刀となる訳だ! それも初期刀だから、或いは出世写し、とかも呼ばれるかもな!」
「出世……写し……?」

話が飛躍していく審神者に山姥切国広は戸惑いの表情を向ける。しかし、勢いづいた審神者の話は加速していく。

「出世……、出世といえば、信長様に仕えた豊臣秀吉だよなぁ……。出世猿、的な? しかし秀吉といえば、信長様の跡を継ぐ天下人。……じゃあ、出世写しは、私の後継者……?」
「?……、……?………???」

山姥切国広は必死に、審神者の言葉を考えているようだ。その様子を見るに恐らく理解は出来ていない。
だが、先ほどまで抱いていた不満や鬱屈は、その顔からは見て取れない。審神者の難解な言葉で頭が占められているらしい。
審神者は納得のいく答えが出て満足そうだ。
そして、管狐はやはり無心で油揚げを食べていた。
ーー混沌。その一言に尽きる。なるほど管狐の気掛かりは、このぶっ飛んだ思考回路を持つ審神者のことかと納得。織田信長への傾倒は行き過ぎれば、少し注意が必要になるかもしれない。
それにしても、この管狐一度も音声が入っていないところから、本当に無心であったことが分かる。無心で油揚げを貪っていた。
太るぞ。

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