暗闇から生まれたような人に初めて会ったのは、母の葬儀だった。火葬場へ向かう直前、夕焼けが色濃くなる──所謂、逢魔が時だ。
ウェーブのかかった暗色の髪に、血が結晶化したような紅い瞳の少年と向かい合ったその刹那に、わたしは彼を死神だと思った。いよいよ母を迎えに来たのだと信じて疑わなかったのだ。今、彼がここを通るのを見過ごせば、母の魂はたちまち刈り取られて、持って行かれてしまう──そんな激しい思い込みがあった。そう思い込んでいなければ、いけなかった。彼の髪色と同じジャケットを、幼かったわたしは小さな手で思い切り引っ張った。
「待って。連れて行かないで」
「はぁ? なにをだ?」
「ママ。あっちにいるの、知ってるんでしょ。あなた、死神なんでしょ?」
先程見下ろした、棺の中に入った母親はまだ生きているかのように綺麗なままだった。何かのきっかけで、彼女がまた目を覚ましてくれることを夢見る程度には。だから、死神なんかに来られては困るのだ。
真っ赤な瞳が軽く見開かれ、やがて細められたときには、人並み外れた美しさで固められた顔に、意地悪そうな色が滲んだ。その時のわたしは、彼の容姿なんてどうでもよかったけれど。
「ハズレ。俺は、死神とかいう非現実的且つナンセンスな存在じゃね〜よ」
「じゃあ、なに」
「さあ、なんだろうな。当ててみろよ、俺様ちゃんが一体なんなのかをさ」
「死神」
「だからちげーっての。ここ使え、ここ」
白い人差し指がわたしの額をちょんとつついた。少しばかり年上なだけの少年の態度は尊大だったが、腹は立たない。彼の指が頬を通って、それから首筋をするりとなぞり下りていくのを、止めようとも思わなかった。
宝石のようにな美しさと、血液のような妖しげな雰囲気を併せ持った紅い目に映る自分を、ぼんやりと見つめた。まるで己がそこに閉じ込められてしまったかのような、浅い錯覚。闇と血の海の中にいる、わたし。それらを支配する、少年。彼の鋭い爪がわたしの首の血管を弱く、引っ掻く。
「──吸血鬼……」
少年が、にんまりと笑って、わたしの身体をひょいと抱き上げた。