ありふれた日常
「…起きないと」



今日は太刀川くんの家に泊まっていた。また溜めこんでいたレポートのお手伝いをして、なんとか形にすることまではできた。その後、2人でベッドに雪崩れこんだ。お互いに意識が薄い中…太刀川くんは私の首の下に手を入れて、もう一本の手を腰に当てて抱きしめてくれた。無意識なのかもしれないけど…いつもこうして抱きしめてくれる。これが私は凄く嬉しくて…幸せを感じていた。

しかし、朝起きた時が少し大変。基本的に太刀川くんより早く起きる私は、この腕のホールドから抜けなくちゃいけない。寝起きが決していいと言えない太刀川くんは中々離してくれなくて…凄く大変。それでもなんとか毎回抜け出して朝の準備をする。




「あぁ…昨日、洗濯もしてなかった。太刀川くん、また溜め込んでる…」



最近忙しくて、掃除などができていなかった。私の家じゃないんだから家主にやらせろ。と以前風間さんと諏訪さんに言われたことがあるけど…太刀川くんのお手伝いをできる。という意識が働いちゃって…嬉しくて洗濯や掃除をしてしまう。
そういうと、風間さん、諏訪さん筆頭に望ちゃんや二宮君にまでダメンズ製造機と言われてしまう。

製造機ではないはず…と思いながらも今日も洗濯機をまわして、朝ごはんを作る。大学まではまだ時間あるし…昨日もレポート頑張ったから、少しお腹が空いていた。太刀川くんは和食が好きだから…と準備をしていると、




「美桜、お前また抜け出した」
「うわっ!びっくりした…急に話しかけないでよ」
「お前が勝手にいなくなるのが悪い」
「えー、あのまま寝てたら洗濯できないし朝ご飯作れないよ」
「それでも…隣にいろ」
「だったらせめて洗濯溜め込まないで」
「…」
「顔洗ってきたら…?」
「ん…」



ぼさぼさの髪をグシャッとしながら太刀川くんは洗面所に行った。寝起きの太刀川くんはいつも以上に子供みたい。そして、いつも腕から抜け出す私を怒る。今日みたいに急に後ろに立たれて驚くこともよくある。太刀川くんは私が朝起きていないのが嫌みたいだけど…私は寝顔見られるのが嫌だ。きっと可愛くない顔をしている。


「あ、そういえば…」
「なに?まだレポートあった?」
「朝から頭の痛くなる事言うな」
「じゃあなに?」



顔を洗って、髪を少し整えて戻ってきた太刀川くん。私の後ろに立つから、何かと思って振り向くと…



「…はよ」
「っん…ちょっと、太刀川くんっ」
「はは!いつまでたっても慣れないね、美桜ちゃん」
「っっ〜!」
「腹減った〜」



こうして毎日…おはようを言うだけで揶揄われる。キスされることに慣れていない私は、いつもこの朝の挨拶でいっぱいいっぱいになる。だから、朝早く太刀川くんから抜け出しすことをしているけれど…それも意味がなくなってきた。
太刀川くんは外ではこういう事はしない。手を繋ぐこともないし、キスをするなんてもってのほかだ。しかし…家では、甘やかしてくれる。というか、恥ずかしがる私の反応を見て楽しんでいるのではないだろうか。

周りからはよく付き合ってるな。とか、むしろ本当に付き合っているのか?と聞かれることがある。皆が知らないだけで、太刀川くんは私の事を考えてくれている…と思う。


「美桜、今日本部行く?」
「行くよ。やる事あるから。太刀川くん今日は?」
「俺、夜防衛任務」
「そうなんだ…」


それだったら、きっと今日は一緒にいられない。家に帰らなくちゃいけないのか。また、研究室に残っていると怒られそうだしな…。なんて今日の予定を考えていると…



「お前、ここにいてもいいぞ」
「…え?」
「だから、今日、ここに泊まってもいいから」
「…いいの」
「おぉ。明後日大学もないから暇だしな」
「っ〜じゃ、待ってる」
「おぉ〜。俺も帰ってきて飯あるの嬉しいし」


太刀川くんと一緒にいられる。そう思っただけで、元気が出てきた。明日暇だといっていたから、少しゆっくりできるかな。またレポートかな、レポートだろうな。それでも、太刀川くんといられるなら、それでもいい。なんて思ってしまうあたり、末期かもしれない。


ただの朝の会話。何にも変わらない会話だけど…この日常が明日もあるなんてわからない。ボーダーにいる限り、私たちの明日は保証されていない。だから、少しでも傍にいれることが嬉しいと思う。この日常を生きていけると感じたのが…嬉しい。




「よーし、飯食っていくか。講義寝そう…」
「寝そうじゃなくて太刀川くん何時も寝てるじゃん」
「…しょうがない」
「また風間さんと忍田さんに怒られても知らないよ」
「…頑張る」


あぁ、こういう時間…好きだと感じた。