Episode.2
「風間、お前木瀬ちゃんのところ行ったか?」
「…あぁ」
「…そーか」


本部内で大規模侵略の後片付けをしているときに諏訪に声をかけられた。すぐに終わった会話で諏訪は何かを察したのだろう。


「木瀬ちゃんいないとお前の周り静かだな」
「そうだな」
「…何も、できなかったな」
「…そうだな」


今回、たくさんの市民を守った。ボーダー内は被害を受けたけれど…迅曰くまだいい結果だという。でも…そのいい結果の中にもしかしたら木瀬が入らないかもしれない。一番身近にいたやつが急に遠くに行ってしまう。
以前にも感じたことのある喪失感を再び味わうことになった。

まだ失ったと決まっていないのに…。


「風間さん」
「三上か。どうした」
「今日も、病院行かれますか」
「…あぁ」
「私も、一緒に行っていいですか」


申し訳なさそうに俺に問いかけてくる三上を断る理由なんてない。帰り支度を済ませて面会時間ギリギリの病院に二人で向かった。


「…桃さん…」
「…辛いなら見ないほうがいいぞ」
「いえ…いつもの、桃さんじゃないなって…思っただけで」
「…騒々しいという言葉が似あうやつだったからな」


同じオペレーターとして木瀬を慕っていた三上。
常に元気で明るく、そしてオペレーション能力も高いとあって、慕われるには十分だった。
俺に対してはいつも子供っぽくて騒々しいとしか思えないような言動ばかりだったけれど、それはそれで三上としては尊敬できるポイントらしい。理解ができないが。

オペレーターたちからの花束を邪魔にならないところに飾る。花より団子というタイプそのものだけれど、きっと花束を見たら喜ぶんだろう。

『風間さん!見てください、みかみかちゃんからお花もらいました!』

なんてすぐに報告しに来る木瀬が想像できる。


もう、見れないかもしれないのに。


「そろそろ面会時間が終わる。帰るぞ」
「…あの、風間さん」
「なんだ」
「…諦めて、ないですよね」
「…」
「…迅さんも、五分五分だって言ってました。木瀬さんが目を覚ますの」
「…そうだな」
「でも…私は諦めたくないです」
「三上…」
「…風間さんが、諦めちゃ、だめです」


涙をこらえている三上にかける言葉がなかった。
あぁ、俺は諦めているのか。こいつが目を覚ますことを。迅の未来でも見えない未来を…俺は想像できないのだろう。


「三上…」
「はい」
「…木瀬が起きたら、焼き肉いくか。菊地原と歌川も一緒に」
「っ!はい!」
「…帰るぞ」


三上と一緒に病院を出る。帰り時間が遅くなったこともあって、三上を家まで送る。


「風間さん、一つ、聞いてもいいですか」
「なんだ」
「本当に、聞いても、いいですか」
「だから、なんだ」
「桃さんが眠っているいまだから聞きますけど…桃さんの事、好き、なんですか」
「…誰に聞けと言われた」
「皆です!」


三上の言う皆とは…本当にボーダー内の8割なのだろう。俺に付き合っているのか?好きなのか?と直接聞いてくるやつもいるが…答えてやる義理はない。


「さぁな」
「そうやってごまかすのずるいです!」


女心は脆いんですからね。なんて言う。毎日毎日飽きずに俺に好きだと言ってきていた木瀬を思い出す。
一度も答えてやったことはない。答える必要もないと思ってたからだ。
迷惑だ。とはっきり断っていた時期もあった。それでも負けません、と謎の維持を張って毎日俺に会いに来ていた。

そんなころが懐かしい…遠い昔のように思えてきた。木瀬が目を覚ます未来をいまだに想像できない。でも…もし、木瀬が目を覚ますことがあれば…。

返答を少し変えてやってもいいと思った。