百鬼夜行は終わらない

「うーん……」

先程から2時間ほどパソコンの画面を見続けているせいか心なしか肩がこってきたようだ。少し一息つこうと伸びをして立ち上がろうかというとき、座っていたソファの隣りに重みを感じて横を見ると、幸ちゃんが腰掛けていた。

「幸ちゃん?」

「珍しいじゃん、ここで曲作るの」

「いや、今は別に曲作ってないんだよね……ちょっと衣装を探してて」

「衣装?」


私がそう言うとさすが劇団の衣装係と言ったところか、幸ちゃんは私のパソコンの画面を覗き込み興味津々と言った様子だ。


「そんな大層なものではないんだけど……今度ある学内ライブがハロウィンライブだから、仮装しなきゃなんだよね」

「ふーん」


楽曲制作担当が中心とはいえ、以前と違い曲を作ればはい終わりということに最近はなっていない。プロデュース科を作るのであればせっかくだからと復学した私に音楽プロデューサーとしての仕事を学校側が委ねるようになってからは、あんずと同様私もライブ中あちらこちらへ色んな仕事をするようになっていた。これが何を意味するのかというと、一楽曲制作者が、あれよあれよとライブの関係者になってしまったのだ。
そういうわけで今度開催されるハロウィンライブではあんずはもちろん私も参加する以上仮装しなければいけないのだ。めんどくさいなぁ。


「で、なんの仮装にする気なの?」

「うーん…………無難にアリスにでもしようかなって。これにしようかと思うんだけど」


先程Am○zonで見つけたこれがいいかな?と思う衣装を幸ちゃんに見せると、見た瞬間何とも言えない険しい顔を浮かべながら低い声で異議を申し立て始められた。


「……何これ安っぽすぎ。ほんとにこれがいいと思ってるの?」

「え、だって別に私一スタッフだし」

「だとしてももっとあるでしょ!!そんなの着るくらいだったらオレが作る」

「えっいいの?」


間違いなく良い衣装を作ってくれるに違いない幸ちゃんが作ってくれるなんて願ったり叶ったりだ。そう思うと顔が思わず綻ぶのを感じながら伺い立てると、幸ちゃんは自信満々の笑みを浮かべてくれた


「もちろんでしょ。とびっきり可愛いの作ってあげる」








「…というわけでこれになりました」

「すごい!!可愛い」


どこでこれ買ったの?とキラキラした目で聞くあんずに事の顛末を聞くと納得したように頷きながら褒めてくれた。


「劇団の衣装いつも凝ってるもんね。これもすごい可愛い…」


ぶつぶつ呟きながら私の衣装を四方から見渡し時々近くに寄り「これはどうやって…」と呟くあんずに少し苦笑いを浮かべてしまう。
いつか幸ちゃんとあんずを出会わせたら面白いことになりそうだなぁ。


「ハッ、こんな場合じゃない。私ライブ前に行かなきゃいけないところあるんだった。また後で見せてね」

「いいよ。今回のライブも頑張ろうね」

「うん、じゃあまた後で!」


そう言ってあんずと別れ各々目的地に向かった。今日は外部のお客さんも山ほど来ていることだし、ふんばらなきゃ。






「あらっ、あらあらなまえちゃん!!可愛い〜〜」

「ほんまや、これアリス?よう似合ってるで〜♪」


思ったより早く仕事が終わった(というかスタッフのみんなに"これさえやってくれればいいから楽しんどいで!"と追いやられた)ためぶらぶらと歩いているとどちらも仮装に身を包んだ仲良しコンビにばったり遭遇した。


「ありがとう、知り合いに作ってもらったんだ」

「劇団とこのひと?すごいなぁ。お師さんもこれ好きそうやわ」

「やっぱり女の子の仮装は可愛いわね〜♪」


が、ガールズトークか?と思うほどきゃっきゃきゃっきゃと2人はテンション高く話す。可愛いからよし。そんなふうに二人と戯れているとふと気がかりだったことを思い出した。


「ねぇ、嵐。凛月大丈夫そう……?」

「一応今寝てるらしいんだけど……まだ心配よねぇ」

「無理しないように、気をつけてあげて」

「もちろん!ていうか、もうライブ始まるわよね。そろそろ行かなきゃ」


あんずが凛月と零さんが仲直りできるように、ってある衣装を作っていたのを見たけどあの調子の悪さだとそれも実現できるか心配だ。


「そんな不安そうな顔しなくても、凛月ちゃんも男の子だから大丈夫。笑って見ててくれるのが、1番の応援よ?」






抱いていた心配は杞憂に終わり、Knightsは自分たちのライブを完璧に終えた

KnightsとTrickstarが少しごたごたしていたのも不安だったけれど、お互い落とし所を見つけ上手くやっていて、お客さんも笑顔で安心した。引き続き後ろの方でライブの続きを見守っていると、着替えたレオと凛月がこちらに近づいてくる。


「お疲れ、よかったよ」

「当たり前だろ〜?っておい、リッツ!」

「眠い……ねぇなまえ、俺頑張ったんだから膝貸して」

ライブ疲れかふらふらとこちらに近寄ってきた凛月は何も言わず隣に座り私の膝の上に倒れ込んだ。やっぱりまだ本調子ではないのか顔の血色があまりよくない。いや、いつも通りか?

「もう借りてるじゃん……いいけど」

「程々にしろよ〜?後ろだからって誰も見てない訳じゃないからな?」

「なに王様、妬いてんの?」

「妬いてない!」

「よしよし、レオも撫でてやろう」


お疲れ〜と両手で頭をがしがしと撫でると「や〜め〜ろ〜!」と引き剥がされてしまった。子供扱いに照れてるのか顔が赤いのがなんとも可愛く微笑ましい。

「で、零さんにお礼はちゃんと言った?」

「……みんなそれ言う。もううんざりなんだけど」

「いい加減素直にならないと、引き際を見失うよ」

「別にいいし……」

「私は、なんだかんだいって凛月はまだ零さんの事が大好きだって思ってるけど?」


遠くからあんずが小走りで向かってくるのが見えた。その手には前に作っているのを見た、零さんの衣装によく似た凛月の衣装。どうやら強制的に素直になることになりそうだ。

百鬼夜行と言わんばかりのこのライブ。化け物に紛れていつもは言えない本音を言うのもまた一興。みんなが笑ってる幸せを噛み締めながら、私はステージでキラキラし続けるアイドルたちを静かに見つめ続けた。

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