たばこ
夜の海は吸い込まれそうなほど黒い
自分の家で恋人と別れ話をして、ふと気づいたら母校の近くにある海に来ていた
家には思った以上に彼の痕跡がたくさんあった。歯ブラシ、着替え、ペン、そして今ポケットに入ってる、たばこ
それから逃げるように近くもないこの海に来た理由は自分でも分からない。綺麗な思い出を求めていたのだろうか
この海に来るといつもあの綺麗なひとを思い出す
なんだかいつも不機嫌で、海とか信じらんなぁいとか言っちゃって、でもなんだかんだ一緒にいてくれたあの人
今となっては彼は遠い世界に行ってしまった。聞くところによるとフィレンツェやらどこやらにいるらしい。物理的にも遠い
思い出すと涙が出そうになったからおもむろにポケットからタバコを1本取りだした
一緒に置いてったライターで火をつけると、先端が真っ赤に染まり始める。ええいと思い切ってくわえ吸ってみると、ごほごほと噎せた
「げほ、苦!?何これ……」
苦くて、ついでに肺に煙が入ったみたいで咳が止まらなく涙が滲んできた
彼はいつもこれを吸う時、これ甘いんだよななんて言っていた
「全然甘くないじゃん、ばか」
恥ずかしいほど涙が止まらずに流れ続ける
自分の情けなさに嫌気がさしてタバコを片手にしゃがみこんでそれ以上うつむけないほど項垂れながら泣いていると、懐かしい声が耳を耳を突いた
「ちょっとなまえ、何してんの!?」
「……え?」
バッと顔を上げると、想像した通りの時間人物がこちらを思いっきり顔を顰めながらみていた
「なんてもの吸ってんのぉ!?これがどんだけ体に悪いか分かってんの!?」
たばこを持っている手の手首を捕まれ無理やり立たされると、かちりと彼の綺麗な水色の瞳と目が合った
「……じゃない……」
「ハア?なんて?」
「……私のじゃないもん!」
そう叫ぶとまた堰を切ったように涙が零れてきてわあわあと子供のように泣き始めてしまった
「私のじゃないって……ちょっと、泣かないでよ」
「私のじゃないもん……私は喫煙者じゃないもん……」
「……」
「私も喫煙者だったら……良かったのかなぁ……」
さっきまでさぁお小言を言うぞと言わんばかりだった泉は今はじっとこちらを見ている
私はというと、あんなに会いたいと思っていた人物が目の前にいるのに涙が止まってくれない
本当は再会したら、久しぶりだねって、大変そうだね応援してるよと言って笑って話していたかった。好きだなんて言わずに
しかし世の中はそうも上手くいってくれずにこんなタイミング最悪の時に再会を果たしてしまった。ていうかなんでここにいるの
「ふーん、フラレたの?」
「うるさい……」
ぐしゃぐしゃな顔を見られたくなくて俯くと2人分の靴のつま先が目に入る
ふと泉のつま先が少しこちらに近づいたかと思うと、顎をがっと掴まれ上をむかされた
「こっち見て」
「んむっ!?」
気付いたら泉の顔が至近距離にあり唇に柔らかい感触が当たっていた
少し唇を食まれつい力が抜け結んだ唇を開いてしまうとどんどんとキスが深くなっていった
不意打ちすぎて息継ぎが上手くできず、というかテンパって何が起こっているのか分からず息継ぎどころでなく苦しくなってきたため泉の胸をばんばん叩くと泉は唇を離し顔をしかめながら言った
「苦すぎ!!たばこなんて吸わないでよねぇ」
「い、いきなりキスしたのはそっちじゃん!」
とんだ言いがかり過ぎて目を白黒させながら反論すると両手が頬に添えられぐっとまた顔が近づけられた
「俺喫煙者と付き合うなんて嫌だから、全部捨ててよね」
「え?」
「たばこなんていい事ないんだから」
どんどんと顔が近づいてきて唇が触れる手前でぴたっと止まった
じっと見つめてくる目は高校の時と変わらず見惚れるほど綺麗で、すこしぼうっと見つめ返した後ゆっくりと目を閉じた
それを合図にまた唇が重なった瞬間、私の指に挟んでいたたばこは泉に落とされぐしゃりと踏み潰された