02

プルルルル
受話器から聞こえる無機質な音が妙な緊張をさそう。出るかな、なんてちょっと心配しながら相手を待てば、何回目かのコール音が止み聞き慣れた声に変わった。電話に出たのは幼い頃からの知り合いで俗に言う幼馴染みだ。
私の母親はピアニストで、テレビの取材を受けた時の担当プロデューサーがヤマトの父、裕明さんだった。私の父は、私が産まれる前までカメラマンをしていたみたいで、仕事がきっかけで母と知り合った。両親共に、不規則な仕事であったために子育てが難しいと回りにいろいろ言われた。その時父は、自分の夢だったカメラを捨て家族のために主夫となった。母がやる公演や取材など関東地方であれば父は必ず私を現場へと連れっていってくれた。その時に父と裕明さんが出会い、意気投合して今になる。自分と同じ年齢で子どもは1つちがい、似ている業種に極めつけは、住んでいる所が同じと言う事で二人はすぐに打ち解けた。石田夫妻が離婚後は男親同士で協力しあいましょうと、昔住んでいた光が丘で事件が合ったのをきっかけにお台場のお隣のマンションに引っ越した。親同士が仲が良かったので、必然と遊び相手はその子どもたちである、ヤマトとタケルだった。
「おはよう、ヤマト。」と、挨拶をすれば優しい声で彼は名前を呼んでくれる。私の返事を待って彼は口を開いた。

「どうした?名前が電話かけて来るなんて珍しいな」
「明日のサマーキャンプはヤマトも行く?」
「俺もタケルも行くよ」
「本当!?タケルに久しぶりに会えるんだね!」

久しぶりに聞くヤマトの声。夏休み前は毎日聞いていた声に何んだか懐かしさを感じる。サマーキャンプの事以外にも他愛ない会話をして、受話器をそっと本体へと戻した。楽しみにしていたサマーキャンプで、ヤマトに会えるのはもちろん、タケルに会える事が嬉しい!
タケルはヤマトの弟なんだけど、大人の都合で中々会えなくなってしまった。だからこそ、幼馴染みに会える事が嬉しく、明日のキャンプが楽しみで仕方がなかった。部屋に戻ってから、ウキウキな気分で鼻唄を歌いながら明日のキャンプの支度をした。




どこまでも続く青い空!雲ひとつない快晴!素晴らしいキャンプ日和だ!
車を走らせ来たのは自然豊かなキャンプ場。普段見ることがない青々した光景に目を細めた。自然の中から見る空はいつもの何倍も綺麗に見えた。心なしか空気も澄んでいるようだ。車を降りて深い深い深呼吸をし自然を体いっぱいで感じた。
このサマーキャンプのために、夏休み前半はスケジュールを詰めに詰めこんだ。ピアノのレッスンに塾、来年は中学生で受験組の私に課された課題は山積みだった。もちろん、夏休みの宿題は全部終わらせたよ!まー、サマーキャンプが終わった後は、元通りになっちゃうんだけどね。だから、このサマーキャンプは伸び伸びと羽を伸ばさないと。
ご飯の準備にテントの支度やらいろいろやることはあるけれど、そんなのは大人に任せ、幼馴染みのいる場所に向かった。大人たちのいる所から少し離れた場所に彼らはいて、そーっと隣に立ち声をかけた。

「うーん、綺麗な場所だね。」

ビックリした声で名前を呼ぶタケルに笑いながら顔を向ければ、タケルはつられて笑顔になる。この笑顔が天使のようで本当に可愛い!デレデレした顔を出さないように細心の注意をしながらタケルに向き合った。

「名前お姉ちゃん!!」
「久しぶりだね、タケル。元気だった?」
「うん!元気だったよ。」

昔と変わらない笑顔に嬉しくなる。あーもう、タケルはいつでもどんなときでも可愛い!なんて、可愛すぎる彼に我慢が出来なくなって、ぎゅーっと抱き締めれば、戸惑いながらも抱き締め返してくれた。その仕草が堪らなく可愛い。久しぶりのタケルを堪能していると、頬に冷たい感触がし、空を見上げればパラパラ降り注ぐ雪。それはすぐに吹雪へと変わり、あわてて近くにあった小さな建物に入った。小屋の中には、キャンプに来ていた友達が数人がいた。リーダー格の頭にゴーグルをつけているのは、八神太一。サッカーが得意な5年生。しっかりもののお姉さんで青い帽子をしているのは武之内空。太一の幼馴染み。パソコンに携帯をいじっているのは、物知りな泉光子郎。ピンクのカウガールの服を着ているのは、太刀川ミミ。私と同じクラスで眼鏡をかけているのは、城戸丈。後は、幼馴染みの石田ヤマトと弟の高石タケルが一緒にいた。子どもたちは、真夏の異常気象に頭を悩ました。しばらくするとピタッと音は止みドアを開ければ一面真っ白な世界に変わっていた。「名前お姉ちゃん!雪だよ!!」とはしゃぐタケルに引っ張られ外に出れば、夏ではあり得ない真っ白な世界に目を奪われた。夏だろうが冬だろうが雪は雪!テンションが上がっちゃうのはしょうがない。テンションマックスではしゃぐタケルは、私の手を繋いだまま走り回っている。私だって雪は好きだし走り回る事はしないけど、いつもより間違いなくテンションは上がっている。

「おい、タケル気をつけろよ。」

はしゃぐタケルに声をかけたのはヤマトで、「はーい」なんて返事をするが、走るのをやめる気はないみたいでニコニコしたままずーっと走っている。タケルにされるがままになっている私は、雪に足をとられ体制を崩した。あ、やばい。なんて思うのだけれども、生まれ持った運動神経の悪さでは体制を直すことは不可能で、このまま雪に顔面からダイブだーなんて思っていると、抱き締められるような形でヤマトに支えられた。

「タケル!名前はすぐ転ぶんだから気を付けろ。」
「名前お姉ちゃん、ごめんなさい!」

ビクッとしたタケルは泣きそうな顔で、私を見上げ謝る姿がいとおしい。「ごめんねタケル、大丈夫だよ。ヤマトもありがとう。」支えてくれたお礼を言いつつ、タケルが安心するように優しい声で言えば、眩しい笑顔を見せた。「はー、名前も気を付けろよな!」ため息を吐きながら言う彼に、頬を膨らませ「わかってるもん。」と言えば、クスクス笑いながら頭を撫でられた。ヤマトは良く私の頭を撫でてくれる。その手は優しくて暖かい気持ちになる。ヤマトはいつも私の事を守ってくれる。憎まれ口やめんどくさそうな態度を出しても、いつも差し出してくれる手は変わらずに暖かかった。

「わっ、なんだあれ!」

そんな声に空を見上げれば、日本では絶対に見ることのできない綺麗な光のカーテン、オーロラがあり、初めて見るそれは、他の事を考えられなくする程、圧巻な景色だった。

「うわー、すごーい綺麗だね。お姉ちゃん!」
「うん、すごいね。」

オーロラに目を奪われ、後ろの方で「そんな変ですよ。日本でオーロラなんて!」なんて言っている言葉は耳に届いて来なかった。すると、突如オーロラの影に現れた渦から光を纏った何かが子供たち目掛けて落ちてきた。危ない!考えるよりも先に体が動いた。タケルを、咄嗟に抱きしめれば、その上からヤマトがおい被さるように庇ってくれた。

「みんな、怪我はない?」

空の声にギュッと閉じていた目を開け、みんなが無事なことに胸を撫で下ろした。何かが落ちたであろう穴から光り輝いたそれは、重力に逆らい胸の辺りまで浮いた。手に取らないといけない気がし、恐る恐る手を伸ばし不思議な物体を掴んだ。

「これはなに?」
「ポケベルでも携帯でもなさそう。」

不思議な機械の画面を覗いていると、画面が光りそれと同時に大地が裂け私たちは津波にのまれた。

「「「キャー(うわぁああ)」」」





『名前、名前、、、』

真っ暗な意識の中私を呼ぶ知らない声だけが響いた。でも誰?知らない声。記憶をたどってもその声に心当たりはなかった。誰なのか確かめないとと、恐る恐る目を開ければ、見たことのない私の知らない風景が広がっており慌てて立ち上がった。

『名前!』とまた呼ばれて、声がした方を向くが、そこには人影らしきものはない。辺りを見回せど誰もいなくて首をかしげた。訝しげに誰?と口を開けば、足元からその声は聞こえた。

『私、フリモンだよ。』

生き生きとした声のする方を見て見れば顔の回りにフリルがついた変な生き物がいる。エリマキトカゲの様に頭?首?にフリルの様な襟巻があって、だけど爬虫類みたいに気持ち悪くはなくお目目はぱっちりとしていて可愛い印象を受ける。私の知っている動物の様な体のバランスじゃなくて、顔が胴体に比べて大きい。不思議な生き物は胴体に手足がなく今まで見たことのないモノだった。
…そうだよね。私の知っている生き物は喋らない!混乱していて気付くのが遅くなったけど…。喋る動物と言えばオウムとか鳥類で、でもでも、受け答えは出来なくて。あれ、私はまだ夢でも見てるのかな?それは意図せず言葉にしていて足元で不思議な生き物は『夢じゃないよ!』と必死に訴えてきた。必死にこの状況を理解しようと頭をフル回転させても考えはまとまらないのでとりあえず、この子にダメ元で聞いてみようと口を開いた。

「私を呼んでたのは、君?」
『うん!名前の事、ずっと待ってた。』
「ずっと?」
『うん!』

ずっと待ってたと言う不思議な生物は、私の足の周りを嬉しそうに這っている。この子は、私の言っていることを理解して的確に答えをくれる。ここがどこなのか?不思議に思っていることを聞けば、わかる範囲で教えてくれた。ここはデジタルワールドのファイル島と言う場所らしい。デジタルワールドが何なのか聞いてみたけど難しかった見たいで答えは帰ってこなかった。一通り質問を終え整理をする。わかった事は少ないけど、何も知らないよりましかと顔を上げた。
そういえば、ここに飛ばされる前に一緒にいたはずのみんなは何処に行ってしまったのか?辺りを見渡して見るけど誰もいない。この状況で頼りになりそうなのは、この子?だけで、少しでも目線が近くなるようにもう一度しゃがんた。

「えーっと、、、」
『私、フリモンだよ!』
「うん。私ね、友達と一緒にいたんだけど、フリモンはその子たちが何処にいるか知ってる?」
『名前の事しかわかんない。』

しょんぼりした顔で答えるフリモンが可愛くてこんな状況なのに少しだけ和んだ。フリモンにお願いをしてみんなを探し始めたが、慣れない道や茂みの中への恐怖感から上手く歩けない。そんな私を見てフリモンは、茂みの中に何かいない事を確かめてから私を誘導してくれた。フリモンの後をついて暫く歩けば、何やら話す声が聞こえて勢いよく茂みの中から飛び出せば、バランス崩して盛大に転んだ。

「誰だ!!」

急にした物音に太一が声を荒げれば、その場にいた全員の目線をが一斉に私を見た。みんなの視線が集まってる中、顔面から地面にダイブした。恥ずかしい…

「名前!!」

私の名前を大声で呼んだのは、ヤマトで同時に駆け寄って来た。「いたたたた…」地面に打ち付けた額をさすりながら顔を上げれば、注目されていて顔が赤くなる。
ヤマトに引っ張られ立ち上がれば、「でこ、赤くなってるぞ。」と、赤くなった額を指差して彼は笑った。少しだけむくれてみんなの方を向くと、みんなの足元には見馴れない生き物がいた。

「あれ?みんなにもいる。」

頭の中で思った言葉は外に出てしまったらしい。
「お前にもいるのか?」って言われ、私の影で隠れてたフリモンを抱きかかかえた。「な、何なんだコイツらー!」丈の叫び声に、この子達は声を合わせて[デジタルモンスター]と言って次々に自己紹介をしてくれた。私たちも自己紹介をしていて気付いた。ピンクの服を着ていた可愛らしい女の子が1人足りないことに。探しに行こうとしたとき甲高い叫び声が聞こえた。

「キャー!」

悲鳴の先を見れば、探そうとしていたミミちゃんが赤くてでかいクワガタに追われていた。クワガタって言ってもね、規格外とかって話じゃないの!ここにある森の木より大きいの!あり得ないでしょ?体長5m以上あるんだよ!

「みんな、逃げてー」

ミミちゃんの一言で固まっていた私たちは一斉に走り出した。

「名前!」

ヤマトに腕を捕まれ必死に走る。転ばないように必死に走り着いた場所は地面から切り出した崖で、下は流れの早い川が流れている。別の道を探そうにも背後からカタカタ音をならしてクワガーモンが森から出てきた。絶体絶命のピンチにデジモンたちはクワガーモンの前に立ちはだかり攻撃を繰り返すがまったくクワガーモンに効はいていない。ジリジリとクワガーモンが距離を縮め、もうお仕舞いだ、そう思った時、デジバイスが光輝いた。

[デジモン進化ー!]

眩い光の中、姿の変わったデジモンたちがいた。『太一たちは僕たちが守る!』さっきより強くなったのか、デジモンたちの攻撃にクワガーモンが倒れた。

「やったー!」
『たいちー』

子供たちの喜びも束の間、カタカタ鳴る音とともにクワガーモンが立ち上がった。攻撃を繰り出そうとデジモンたちが立ちはだかるが、クワガーモンの攻撃の方が一歩早い。クワガーモンの鋭くでかい角が地面に突き刺さり、子どもたちを乗せたまま地面は音をたたて崩れた。
子供たちの叫び声とともに私たちはまっ逆さまに崖下へと吸い込まれていった。