キス我慢度指数



お昼休みにしていた会話をふと思い出した。

―――だいたいの男はこっちからキスしたらスイッチ入ってその先を我慢できなくなるよねぇ!―――


夜のピクニックがしたい!なんて言う善逸に付き合って、夜桜が綺麗に見える丘に来ていた。

この高台からは私達の住む街が一望できるちょっとした穴場だった。


「ゆき乃ちゃああん、めっちゃ綺麗だねぇここ!はぁー2人で来てよかったぁ!俺今死ぬ程幸せ!ゆき乃ちゃんは?幸せ?」


小首を傾げて私を見つめる善逸は単純に可愛い。

顔だけ見ればすごく美形なのに喋るとふにゃーってなっちゃう所も正直可愛い。

みんなの前でも大声で「ゆき乃ちゃあんん!!好きだよぉ!!!」なんて抱きつかれることも、めちゃくちゃ可愛いと思っている。

確かに全身全霊で私って女を心から愛してくているのは凄くよく分かるんだけれど…―――


―――如何せん、手が遅い。

早そうに見えて全然手ぇ出して来ないから、こっちは多少なりとも不安になるわけで。

周りのみんなはもうキスもえっちも経験済み。

私だけがその未知の世界に足を踏み入れてなかったんだ。

だから今日の昼休みも、相談がてらそんな話をしていたのに、いつの間にか変な方向にいってて。


「ゆき乃ちゃんからキスしちゃっていいんじゃない!」


なんてアオイに言われて苦笑い。

女からキスとか、初めてなのに、無理じゃない?

でも、そろそろそーいうことしたいって思ってる事ぐらいは善逸にもわかって欲しいとは思う。


「幸せだけど物足りない。」


素直にそう言った私の言葉に善逸は目ん玉飛び出しそうなぐらい目をひん剥く。

なんなら髪の毛も静電気みたいにバリっとたってるかもしれない。

途端に顔をしかめる善逸からそっと目を逸らした。


「もしかして今日学校でなんかあった!?俺の知らないとこで誰かに何かされたとか!?俺絶対許さないよ、そんなの!!」


あくまで誰かのせいにしたいのか、善逸は私の両肩に手を添えて、さも真剣な顔で私を見つめる。

無言の私に更に続ける、


「伊之助か!?アイツまたなんかやったんでしょ、俺の可愛いゆき乃ちゃんに!!それとも、炭治郎!?アイツ良い奴そうに見せて裏では飛んだバカ男、」


善逸の唇に人差し指を押し当てると一瞬で静かになった。

暗がりでも分かるくらい善逸が真っ赤になっているのが分かる。

口をパクパクさせて瞬きを繰り返す善逸をジロっと睨む。

その音で私が言いたい事が分かったのか、更に顔を赤くしてちょっと泣きそう。

昔から聴覚が優れているという善逸は、人の感情の音が聴こえるって言っていた。

だから今、私がどんな気持ちで善逸を見つめているのかも、きっと分かったに違いない。

目の前の善逸が照れくさそうに困ったように眉毛を下げる。


「善逸のせい、だよ。」

「…う、うん。俺のせいだね。」


ああほら、やっぱり私の気持ちが音になって善逸の心に伝わる。

ゴキュっと生唾を飲み込む善逸の喉仏が上下に動くのが見えた。

肩の手を握ってゆっくりと善逸を自分の方に引き寄せる。


「あのあの、ゆき乃ちゃん、ほんとにイイの?」


この期に及んで何を言ってるんだろうか、この人は。

よくなきゃ付き合ってないし、デートもしないし、こんな事すらしない。

でもちょっと悔しいからちょっとだけ意地悪したくなった。


「善逸は動いちゃダメだから。」

「え?」

「絶対動かないでよ?」

「う、うん。分かったよ。」


よしいい子だ!なんて内心思いつつ泣きそうな善逸の頬に手を添えてそのままそっと口付けた。

女子みたいに目を閉じて待つ善逸の唇は微かに震えていて…―――「もしかして、善逸も初めてなの?」問いかけた私に目を開けると、切なく見つめた善逸が答えたんだ。


「俺も、初めてだよ、ゆき乃ちゃんが。」


カァーッと身体中が熱くなった。


トクン、トクン…と脈打つ心音。

私のなのか、善逸のなのか、どっちもなのか、分からない。

テレビドラマや映画で見るキスしか知らないから唇を押し当てるだけを何度となく繰り返す。

動くな!と言ったから善逸は直立不動で立っていたけれど、いつの間にか善逸の手は私の腰に軽く回っていて、目を開けると善逸のおデコがコツっとくっついたんだ。


「ゆき乃ちゃんの唇…すげぇ柔らかいね。…もっとしてもいい?」

「んう、ダメぇ。私からするの。善逸はまだ待って。」

「え?ダメ、なの?俺からしちゃ。」

「我慢して、」

「…う、うん。じゃあいっぱいして?」

「ん、」


若干不満…というかしょげた顔で唇を私に突き出す善逸がしこたま可愛い。

だからちょっと大袈裟にハムッて善逸の唇を甘噛みすると、「ンンッ、」女子並みに甘い声をあげた。


「今のもう一回して、」


オネダリする善逸に私は唇をツンとくっつけて、それからゆっくりとハムっと甘噛みする。

でも次の瞬間、ブルリと震え上がった善逸に思わず動きを止めた。

真っ赤な顔で口に手を当てている善逸。


「どうしたの?善逸…」

「ちょ、っと今、ダメ!お、俺がダメそう!うん、これしょーがない、自然の原理だし!ゆき乃ちゃんのキッスがあまりにも気持ちよくて、アンッ、ダメ、今俺に触っちゃ!」


股間を手で抑えて涙目の善逸に何が起こったのかなんとなく想像できて、クスッと笑う。


「よかった、ちゃんと反応してくれて。」

「いや、当たり前でしょ!!俺って健全な男の子よ!そりゃ彼女とキッスしたらこうなるっしょ!もおおおおお!!!!どーしようっ!!!」


あわわ、あわわ慌てる善逸の手を引っ張って、「何とかしてあげようか?」なんて耳元で囁いたら、コテンって気絶した。

いや、ほんとに気絶するよね、善逸ってよく。

でもこれで私達の関係もちょっとは変わるかなぁ…。

ニンマリと微笑んで善逸が目覚めるのを待つことにした。



((我妻善逸 キス我慢度指数 70%…?))



―完―

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