キス我慢度指数



お昼休みにしていた会話をふと思い出した。

―――だいたいの男はこっちからキスしたらスイッチ入ってその先を我慢できなくなるよねぇ!―――


剣道部が終わるのを待っていると、ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。

視線の先は一年生ながら三年とやりあっている彼、時透無一郎くん。

幼馴染で私の恋人。高三年の私の年下彼氏だった。

むいくんが高校入学してすぐに告白されて今に至る。

夏前の梅雨のジメジメした空気が重ったるく、今日もまた雨が降りそうだった。

今にも泣き出しそうな空を見つめてむいくんとのキスを思い浮かべる。

基本的に興味のないことには一切無関心のむいくん。

とはいえ、むいくんだって健全な高校男児であって、興味が無いわけないよね?

キスだって普通にするし、えっちだってぶっちゃけしてる。

むいくんは私のすること全部を受け止めてくれると思うんだけど、どうなんだろ?

エッチ無しでもキスはするけど、さすがに私からキスしたからって別にスイッチなんて入らないだろうなぁーなんて頭ん中で妄想を繰り広げていた。

部活に所属していない私は毎日彼の練習が終わるのを待って一緒に帰るのが日課である。







「なんか、上の空じゃなかった?考え事でもしてたの?」


…鋭いな、相変わらず。

てかむいくんと結構離れた場所から見てたのに、むいくんは練習しつつ私のこともちゃんと見ててくれたのかなぁ?なんて思うとちょっと恥ずかしい。

部室でむいくんが着替えるのを背を向けて待っている私に、後ろからむいくんがそう発したんだ。


「え?そんなこと、」


くるりと肩に手を置いて横から顔を覗き込むむいくんは、着替え途中で上半身は何も着ていない。

なんとなく視線の起き所が分からなくて目を泳がせた。


「そんなこと、あるよ。俺を誰だと思ってんの?ほら、何考えてたか言って。」


そのまま真横にストンと座るむいくんから、汗の匂いが微かに鼻を掠めた。


「じゃあ、言うっていうかするけど、引かないでね?」


ゴクリと生唾を飲み込んで隣に座るむいくんを見つめる。

瞬き一つしないで私を見つめるむいくんの肩に手を置くと、そのまま私はむいくんの方に身体を寄せて顔を近づけた。


「え、ゆき乃?」

「ダメ、黙って。」


私の言葉に口を閉ざしたむいくんの唇にちゅ、と小さくキスをした。

放心状態のむいくんは目を開けっ放しで私のキスを受けている。

でも、次の瞬間むいくんの指が私の指に絡まって高揚した顔で私の手首をグッと掴んだんだ。

あ、あれ?

まだこれからなんだけど。

チラリと視線を向けると真剣に私を見つめているむいくん。

その瞳のずっと奥が揺れている…


「なんだよそれ、ずるいの。」


そんな一言と同時、むいくんからの噛み付くみたいなキスに心臓がキュンと掴まれたように疼いたんだ。

私の後頭部に手を回して距離を近づけるむいくんのキスは唇をハムって甘噛みする。

半目を開けたらむいくんと目が合った。


「え、むいくん目開けてんの?」

「うん。だってゆき乃が俺とキスしてる顔なんて貴重だろ。もういいから続きさせて、」


ちょっと掠れたむいくんの声。

こういう時に、声が掠れるのってちょっとズルいよね。

ド至近距離で私の顔を見つめるむいくんは、そっと瞳を伏せて唇をムンっと重ねた。

まさかのキス顔をむいくんに見られていた事が今更ながらめちゃくちゃ恥ずかしいけれど、私だってむいくんのキス顔見たい…

薄ら目を開けるとやっぱりむいくんと目が合った。

それでもキスを続けるむいくんは、半開きの口から舌をニュルリと入れ込んだ。


「ゆき乃、俺ヤバい。」


なんともいえない舌が絡まる音に混ざって、しばらくしてからむいくんが小さく言う。

唇を離して私をぎゅうって抱きしめるむいくん。

その顔は肩に埋もれて見えないんだけれど、だいぶむいくんの息があがっている気がした。

剣道でもそんなに荒くならないのに、珍しいって。

もしかして、興奮してるの?


「むいくん?ヤバいって、なにが?」

「勃った。ゆき乃がキスねだるから。ねぇ…シてよ?」


そっとむいくんの手がスラックスの上のそこ、硬くなっているソレに誘導する。

むむむ、これは!!!!


「仕方ないでしょ。ゆき乃とキスしたら絶対こうなるんだから。」


ムーッて唇を尖らせるむいくんは照れているのかほんのり頬が紅い。

いつも冷静なむいくんにしては珍しくて。


「ほんとはね、私からキスしたらむいくんはその先を我慢できるか?って、」

「なんだ、そんんな事か。…たく、いったいどんな気持ちで俺の事見てたんだよ?まぁいいけど。じゃあ答えは簡単。――我慢なんかできないよ。」


耳元で甘く囁くむいくんは、その場でボクサーパンツを脱いでポコンとソレを私の手に握らせた。

ソファーの下にストンと降りてソレを手で掴んで顔を寄せると、むいくんの割れた腹筋がポコポコと動いた。

ソファーに手を着いて私のしゃぶる音を聴いて目を逸らすことのないむいくん。

時折苦しそうに目を細めてハァッと甘い吐息を漏らしている。

これするの初めてじゃないけど、こんな明るい所でするのはやっぱりベッドの上とは違って変な緊張感がある。

ここは部室でもう誰も残っていないし、誰かに見られることはたぶんないけれど、それでもドキドキは止まらない。

学校内でこんな淫らな行為をむいくんとするなんて、思いもよらない。


「あっ、出るっ、うっ、…クッ、」


むいくんの篭った掠れ声と共に私の口に吐き出されたソレを嫌々ながらゴクリと飲み込むと「ごめん、不味いだろ。」そう言ってむいくんが私にキスをくれた。


「うわ、我ながらすげー味。でもスッキリした。ゆき乃、続きは帰ってからシよ。ちゃんと挿れたい!」


可愛い顔してとてつもなく凄い台詞を口にするむいくん。

セックスなんて興味無さそうに見えてもしっかりやる事やってるむいくんと部室を出ると、外は大雨だった。


((時透無一郎 キス我慢度指数 勿論0%!!))



―完―


←TOP